第4話 続く石段と繋がる手

 それから数分後。


「うわ、結構きっつ……」


 ところどころ苔むした石段を登る紫乃は石段を見上げた。

 まだまだ先は続いている。


「………これ、結構ヤバくない?」


 おもむろに振り返る。

 一緒に登り始めたはずが、双葉は今紫乃より幾段か後ろを登っている。

様子を伺うと、彼女の方が数倍疲れた様子だ。

 肩で息をしている。


「双葉、大丈夫~?」


 息も絶え絶えとなった幼馴染に声をかける。

 紫乃が心配になるほどの疲れ具合だ。


「だ、大丈夫じゃ……ない。……はぁ……はぁ」


 手すりにつかまり、息を整える。

 双葉はクラスでも体力のなさに定評がある。

 スポーツテストでも千メートルを走りきったためしがないし、シャトルランでも二桁に到達するのがやっとというほどの運動嫌いだ。

 毎日紫乃と登下校を往復する程度にしか運動はしていない。

 まぁ、美少女だからそれも逆に加点になってしまうのだけど。


「……まだ結構あるじゃん」


 神社を見上げる。

 双葉は少し後悔していた。

 紫乃の言う通り、雨上がりに来ること自体間違っていたと痛感する。


(でも、諦めないんだから……)


 一歩一歩確実に石段を登る。

 紫乃は双葉が追い付くまで上で待ってくれていた。

 しばらくして、紫乃に追いつく。


「やっと追いついた~」


 手すりに全体重を預ける。

 双葉は「頑張った、自分」と言いたげに、「ふぅ~」と一息ついた。


「まぁ……まだ先はあるんだけどね」


 そう言って紫乃が視線を上に向ける。

 紫乃に合わせるように石段を見上げた双葉の瞳が絶望に染まった。


「な、長すぎでしょ~……」


 まだ半分近くある石段を見て、ガクッと肩を落とす。

 やはり運動不足には厳しい道だ。

 確かにこれほど長い石段を登り切ってくれる相手となら恋愛の一つや二つ叶うと聞いても不思議ではない。

 双葉がうんざりしていると、白いものが視界の端をかすめた。

 顔を上げると、スッと細い手が伸ばされている。

 その先には少し照れ臭そうな紫乃。


「……ほら」


 彼女に手を伸ばすように促す。

 突然手を伸ばされた双葉は、その手と紫乃の顔を見た。


「え?」


 コクン、と細い首を傾げる。

 ドウイウコト、とでもいうようなはてな顔だ。


「……滑ったら危ないから」


 じれったかったのか、紫乃はそう言うと彼女の手を強引に掴む。

 手が滑らないように力を込める。


「えっ、ちょっ……紫乃⁉」


 双葉が声を発すると、紫乃は握った手を緩めた。


「ごめん、痛かった?」


 心配そうに眉を顰める。

 双葉はちょっと唇を尖らせると。


「……そ、そうじゃなくて…………ありがと」


 少し突っぱねた口調でお礼を言う。

 唇を尖らせた彼女の頬は少しだけ染まっていた。


「じゃ、いこっか」


 再び双葉の手を握りしめると、双葉も紫乃の手を握り返した。

 指と指が絡まり合う。

 互いの体温が指先を通して伝わり合った。


(これだから、紫乃のことが――――)


 彼女の背中を見つめながら。

 双葉は自分の気持ちを再確認したのだった。

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