第2話 副会長の意外な反応
「――環もやっと俺の虜になったか?」
イケメン俺様系な口調で環に迫る。
その瞳には、男勝りの力強さが感じられた。
――琉衣。
生徒会副会長を務める彼女の瞳が環を捉えて離さない。
ただでさえいい声であるのに、落としにかかっている彼女の声はさらに磨きがかかって色っぽさもあった。
普通の女子ならばこれだけで崩れ落ちてしまうだろう。
しかし、環は首を横に振った。
「親友が来ないことが淋しかったんだ」
ニコッと余裕そうな面持ちで返す。
「…………チッ」
その笑顔に琉衣はプイッと首を横にした。どうやら自分が思っていた答えではなかったことが気に入らないらしく、いつものようにむくれている。
「そんな顔しないでくれ。私が君の事を好いているのは間違いないのだから」
「はいはい。下手な励ましはやめてくれよ」
そう琉衣は不愛想に手を振る。
彼女は思い通りにならないことがあるとすぐに機嫌が悪くなる。そんな彼女にとって、自分の魅力で落とせない環は機嫌が悪くなる理由の第一位だった。意地でも落としてやる――そうやって挑むも毎回返り討ちにされるのが彼女にとって悔しくて仕方なかった。
環はそんな彼女の態度に少し微笑んでから。
「じゃあ、この仕事を手伝ってもらえるかな?」
そう言って書類を手渡す。
見るからに結構な分量があるものの、琉衣は一度ため息をついてから素直にそれを受け取った。
「ああ、分かった。……あと、これが終わったら勝負だからな」
毎度の勝負を環に申し込む琉衣。
環はその挑戦を快く引き受け、自らの仕事を再開した。
その余裕ぶりに琉衣は再び「チッ」と舌打ちして自身の机に向かう。
(それにしても……)
琉衣がこれほど自分を落としにかかってきたのはいつからだろう、と琉衣の背を見ながらふと思った。昔から男っぽい彼女ではあったが、元々は自ら女子を落とそうとするタイプではなかったのだ。
それが顕著だったのは自分が生徒会に入ったばかりの頃。
仲がよかったこともあって琉衣と共に生徒会に入ったのだが、その当初からカッコいい彼女にはファンが何人もついていた。しかし当時は「俺の彼女にならないか?」みたいに相手を落とそうとはせず、逆に鬱陶しそうにしていたということを記憶している。
それが変わってきたのは、いつの頃だろう。
自分も自分でクールだの綺麗だの周りからチヤホヤされ始めて、お互い二人きりで過ごす時間も減ったあたり……だろうか。あの頃は「会長が○○君と付き合っている」などと自身もあること無いこと噂されたな、と当時を懐かしんでいると。
「ん、どうした?俺に見惚れちまったか?」
いつの間にか椅子に腰かけていた琉衣から笑みを向けられる。
珍しくボーっとしてしまっていたらしい。
「……すまない、少し考え事をしていたよ」
ブンブン、と頭を振って書類に目を落とす環。
らしくなく、心ここに無しといった状態になってしまっていた。
(まぁ、私が思っているような理由ではあるまいに)
心の中で決めつける。一瞬頭をよぎった馬鹿らしい希望に蓋をすると、環は自嘲気味に息をついた。
すると、そんな彼女を見ていた瑠衣が。
「……あんま無理すんなよ」
ボソッと一言、呟く。
その言葉に環は咄嗟に顔を上げた。
「えっ……ありがとう」
思いがけない琉衣からの心配に、環は一瞬面食らったようになってしまう。
その、彼女らしからぬ反応に琉衣が噛みついた。
「なんだよ、その驚きは!」
「いや、瑠衣が私を心配してくれるなんて珍しいな……と」
「なんだ、喧嘩売ってんのか?良いぜ、やるか!」
そう言って外を指さす琉衣。
環はそんな彼女から喧嘩を買うことを丁重に断った後。
「純粋に嬉しかったんだよ。ありがとう」
慈愛に満ちた笑みを向ける。
すると。
「うっ……俺は仕事に戻るからな!」
何もかもを包み込んでしまいそうなその瞳から逃げるように、琉衣は書類に目を落とした。
分かりやすく動揺している。
(そういうところだぞ)
そんな幼馴染を愛おしそうに眺める環の胸の奥はいつの間にか熱くなっていた。
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