第3話 恋人関係なんですか?
琉衣は仕事が良くできる。
日頃から少し乱暴な言葉遣いをしているせいで、あまり書類仕事などは向いていないとみられがちだが、地頭が良いのだ。そのこともあって環が直々に指名してまで彼女には副会長の役職についてもらっている。
試験だって、真面目に勉強すればいい成績をとれるのに本人曰く「俺が勉強なんて性に合わないだろ」と言って毎回ノー勉で臨んでいる。それでいて平均並みの成績をとっているのだから、もったいないと環自身は感じているのだが。
再び紙が擦れる音だけが響く生徒会室。
外では相変わらず部活動を行う元気な声が響いている。
「そういえば」
静寂を切り裂いて環が声を出した。
「んあ?……どした?」
その声に合わせて琉衣が顔を上げる。
不思議そうな顔をする彼女に、この間生徒会の後輩に言われたことを話す。
「私と琉衣は付き合っているのか、と聞かれたよ」
面白い質問だよね、と平然にいう彼女に対し、琉衣は驚いたように目を見開いた。これまでも環にあれやこれやと絡んできたが、周りからそんな関係に思われているくらい進歩していたらしい。
平然としなければならないのに、食い気味に尋ねてしまう。
「それで、なんて答えたんだよ?」
「もちろん、「恋人ではない」と答えたよ。……恋人、と答えた方が良かったかな?」
「な、何言ってんだよっ⁉」
おどけて見せる環に、琉衣は声を荒らげる。
余裕そうに繕うことが出来なかった。
そんな彼女が可笑しいのか、口に手を当てて環は声を漏らす。
「いや、いつも琉衣が言ってるじゃないか。「俺の虜になったか」って。だから、そう言った方が嬉しいのかと思ってね」
「なんか上から目線な言い方、やめろ!」
ぐぬぬ……と座ったまま歯をギシギシさせて睨みつける。
(これだから、こいつにはかなわないんだよな……)
琉衣自身、分かっている。
自分は思ったことがすぐに顔に出てしまうから、こういう腹の探り合いのような会話は得意ではない。特に今回は、環と恋人なんていうことを言われて、いつも以上に動揺してしまった。
鼓動が大きくなった琉衣をよそに。
「まぁ冗談だ、すまない。邪魔をしてしまったね」
そう言うと環はあっさり書類の確認に戻る。
その落ち着いた様子からは、環が冗談でも恋人というワードを出したことに対する動揺のようなものを見つけられなかった。
少し残念に思いつつも。
(今回の勝負で、絶対に好きにさせてやる!)
そう気合を入れなおした琉衣は、鞄の中を確認するのだった。
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