第7話 エピローグ
次の日。
「あ、あのっ。会長と副会長って、付き合ってないんですか⁉」
生徒会室に女子生徒の声が響く。
その瞳は純粋無垢で、キラキラと輝いている。
先日に続いての質問に対して、会長である環はひじ掛けに腕を置きつつ苦笑した。
「ふふ、君たちの想像に任せるよ」
「そ、それって、やっぱり……!」
会長からの意味深な返答に、後輩は「キャー」と胸キュンする。
そんな後輩を見て楽しんでいると、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。案の定、現れたのは副会長だ。
「おいおい。何言ってんだ会長さん?俺がお前に落ちた訳ないだろ」
ずんずんと二人の間に割って入る。
「盗み聞きとは感心しないな、琉衣?」
「後輩にそう答える会長の方が感心しないと思うけどな」
琉衣の瞳がきらりと光る。
突如として二人の間に竜虎相まみえたような雰囲気が漂い始めた。その突然の変化に女子生徒は目をパチクリさせる。
そんな彼女をよそに二人の間にバチバチと火花が散らされ始めた。
「あ、あの……えっと……」
「さぁ、今日こそ落ちてもらうぜ、会長?」
後輩があたふたするのを無視して琉衣は話を進めていく。
「あっ……の……先輩がた?」
「…………」
「…………」
会長と副会長は睨み合ったまま動かない。
一瞬にして生徒会室に覆われた糸が張られたような緊張感に女子生徒は、何もすることが出来ずにただ狼狽していた。
そして。
「……し、失礼しますっ!」
二人の雰囲気に我慢できなくなったのか、鞄を抱きしめた彼女はそそくさと生徒会室から出ていってしまった。逃げだすように出ていった足音がだんだんと廊下から遠ざかっていく。
その音が聞こえなくなったところで、琉衣は小さくため息を吐いた。
「お前……分かってんのか?」
「もちろん。私達が付き合っているのはくれぐれも内密だ」
「じゃあ……」
「でも、少しくらい匂わせたいじゃないか」
「って言ってもなぁ……」
琉衣は気だるそうに頭を掻く。
環は匂わせたことに全然反省していないようだった。ただでさえこの手の質問をされること自体面倒くさいのに、会長がどっちつかずといった対応をしているとなるとなおさら面倒くさい。
ったく……とボヤこうとする琉衣だったが。
「でもまぁ、二人きりになったんだ――」
そう言うと突然、環は彼女の腕を引っ張った。
「ちょっ……」
そして驚く彼女を自身の膝の上に載せる。
「今日は一段と冷えるからね。私を温めてくれないか」
そう言ってギュッと背中越しに彼女を抱きしめ、耳元で甘い言葉を囁く。これまでの彼女からは信じられないような言動だった。
キュッと心臓が締め付けられる。
しかしその姿に困惑もして。
「お前……そういうキャラだったか?」
今までの環と違いすぎることを指摘する。
すると。
「予想外だったかい?」
背中越しに環の妖しげな声が響いた。
思わず振り返ると、悪戯っぽく上目遣いをした環がこちらを見つめており。
「私自身も予想外だよ」
そう顔を綻ばせると、回した腕に力をこめる。
琉衣の背に彼女の柔らかな感触と共に大きな鼓動が伝わった。
「ま、まぁ……仕方ねぇな」
彼女が甘えるのを良いことに強がってみせるものの、琉衣の言葉は静寂の中に溶けていく。
窓の外では粉雪がはらはらと寒空を舞い踊っていた。
完
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