第3話:女子会と作戦

■約1か月前 めぐりサイド


「え?もしかして、めぐりちゃんってまだ誠也せいやくんのこと好きなの!?」



美晴みはるちゃんの家での「女子会」でのぶっちゃけトークの反応でした。お酒も入っていたし、ついついしゃべってしまいました。



「いや、好きなんだろうなぁ、とは思っていたけど、アレ見たら普通幻滅するでしょ!?」



アレというのは、誠也せいやくんの女性関係のことかな……


今日は既に2人でワインボトル1本空けていて、その8割以上は美晴みはるちゃんが飲んでいたので、かなり酔いが回っているのでしょう。


かなり「ぶっちゃけトーク」になっていると思います。



「なんか毎月違う彼女がいるし、酷い時は次の週には別の子と歩いてるよ?」


「……うん」



みんな可愛い子ばかりだから、そんな状態でも私には声がかかったことなんてありません。魅力がないのだと自信はなくしてます。



「めぐりちゃん処女でしょ!?もう、いっそのこと一回ヤったら視野が広がるんじゃない!?」


「そんな私なんて……」


「いやいやいや、かなりの優良物件だから!めぐりちゃん!」


「そんなことないよぉ」


「可愛くて、一途で、背が小っちゃくて、声が可愛くて、お料理ができて、控えめで……」



美晴みはるちゃんが指を折りながら数えていく。過大評価だと思います。



「あの誠也せいやくんの何がそんなにいいの!?」


「ずっとちっちゃい頃から知ってるし、頼まれたら断れない人柄とか、高校の時はバスケットとか部活頑張ってたし……地味な私からしたらキラキラしてて憧れの存在みたいな……」


「確かに、高校では輝いてたよ?でも、大学デビューでチャラチャラしちゃって、あんな風になって……」


「それは……元々かっこいいし、なにか目指しているっていうか、求めてるものがあるっていうか……」


「いやいや、それは良く取り過ぎでしょ!?とっかえひっかえじゃない!女の敵よ」


「うん……そうだけど……」



何も言い返せなくて、話が終わってしまいました。この女子会もそろそろお開きかなぁ。



「じゃあさ、いっそのこと、誠也せいやくんに抱かれに行ったら?」


「え?」



突拍子もない提案で会話の勢いも戻ってきました。



「あいつ、処女はめんどくさいとか言ってたらしいから、何となくじゃなくて、処女であることを言って頼むのよ」


「え?そんなことできないよぉ」



ないないないと両手でバイバイのようなジェスチェ―であり得ないことを伝える。



「最初を乗り越えたら処女じゃないんだからいいんでしょ?あいつの場合、女なら誰でもいいんだから、一回抱かれて、捨てられて、諦めたら?次の恋に進めるよ?」



そんな振られること、捨てられること覚悟で動くことは……難しいです。



「でも、私ずっと相手にもされてないし……」


「私が頼んであげてもいいけど?」


「いやいやいや、そんなこと言われたら死んじゃうから!」


「最近になって、あんまり女の話を聞かないから今がチャンスじゃない?」


「でも……」


「じゃあ、お酒でも飲んで、シャワーでも浴びて、勢いで行ってみたら?」


「でも、そんなこと言って断られたら……」


「早く行かないと明日には新しい女がいるかもよ?」


「え?それは嫌だ!」


「じゃあ!」


「…うん」


「一回ヤったら絶対垢抜けるし、彼氏もどんどんできるから!」


「どんどんできなくてもいいんだけど……」


「じゃあ、決行は明日ね!誠也せいやくんのマンションの下までは一緒に行ってあげるから!」


「……」



なんだか分からないうちに、誠也せいやくんにとんでもないお願いをしに行くことになってしまいました。



■■その翌日 めぐりサイド

マンション下まで本当に美晴みはるちゃんが付き添ってくれた。でも、もう逃げられない。誠也せいやくんがマンションに帰る時間は陽翔はるとくん経由で美晴みはるちゃんが調べてくれました。



「はい?」


「めぐりです。ちょっとお願いがあって来たんですが……」



インターホンを鳴らしたら、誠也せいやくんが出た。まあ、誠也せいやくんの家だから当たり前なんだけど……


美晴みはるちゃんがいい顔で親指を立てた。「頑張ってこい!」という合図でしょうか。


ここまで来たら、もう、玉砕して帰るしかない。振られて帰って、一人で泣いてしまおう。振られたかっこ悪い姿は美晴みはるちゃんにも見られるのは恥ずかしいし……


誠也せいやくんが部屋に入れてくれました。彼は大学になって一人暮らしを始めたので、この部屋に来たのは初めてだった。


誠也せいやくんのにおいがしていい感じ。部屋はシンプルで、全然散らかってなかった。誠也せいやくんらしいお部屋。


もう、ここまで来たら女は度胸!



「そのような訳で、私の初めてをお願いします、とお願いしに伺った次第です」



フローリングに敷かれたラグの上に座っていたけど、気分は土下座。そこまでしないと抱いてももらえない自分が、我ながら恥ずかしい。まあ、これでも振られるかもしれないのだけれど。



「めぐり、それだと俺はすごく誤解をしてしまうぞ?」


「誤解ですか?どんな?」



あれ?割とシンプルに言ったつもりが……私は処女でめんどくさいですが、最初だけ我慢してお付き合いしてくださいという意味なのに、伝わってない?


あ……そうか。遅かったのか。既に新しい彼女さんが!?それともたまたま最近見ないだけで、まだ続いていたとか?


ああ、もう訳が分からなくなってきてる。ワインなんか飲んでくるんじゃなかった。



「お前が、俺に抱かれるために、わざわざここに来たみたいになってるぞ?」


「はい、その通りです。既にシャワーも浴びてきたし、髪も洗って乾かしてきました」



ついでに、ワインも1杯飲んできました。シラフでこんなことをお願いできるほど私の肝は座っていません。



「な、なぜ、急に?」


「昨日、美晴みはるちゃんと女子会しました」



切っ掛けは女子会だったけど、まさか「次の彼女ができる前に」とは言えない……すでに遅かったみたいだし。



「美晴ちゃんに私に彼氏ができないのは、私が処女だからだって言われて……」


「それで俺のところに来たの?」


「(コクリ)」



最初はめんどくさいのかもしれないけど、その後は尽くしますから!



「……」



あ……リアクションがよろしくない。やっぱり処女はダメだったらしい。それなら、他で処女を捨ててからなら……



「ごめん、やっぱり迷惑だったよね。他を当たるから……」



誠也せいやくんが呆れてる。こんなバカなお願いをするなんて。もうダメ。恥ずかしくて死にそう。すぐに帰って泣いて寝よう。



「ちょっと待って!とりあえず座ろう」


「いいんですか?誠也せいやくん、迷惑じゃ……」



もういいんです。土下座してお願いしても抱いてもらえない私はミミズです。帰って土の中でもぞもぞして土に還ります。



「いや、全然迷惑とかでは……」


「あの……多少、雰囲気とか出してもいいのかな?」



あれ?いい感じ?1回だけってことかな?でもそれじゃあ彼女さんに申し訳ないかな?浮気になるよね?二股?遊び?でも、ちょっとだけでも誠也せいやくんと……



「あ、はい。ぜひお願いします」


「じゃあ、ちょっと立ってみて」


「はい」



なんだろう。立つところからスタート?そのまま追い返されたりして?色々疑問が沸いてくる。



「首に手を回してくれないか」


「はい」



うわー。誠也せいやくんの顔が近い!

誠也せいやくんは腰に手を回してきた。流石慣れてらっしゃる……


ハグが先か、キスが先かと思っていたけど、抱きしめられた後は誠也せいやくんは動かない。ああ、そうか。



「あの……好きな人がいるからキスは無しですか?」



今の彼女さんがいるから、キスはダメなのか。誠也せいやくんとのキスを夢見ていたけど、これはしょうがない。妥協しよう。



「めぐりの『好きな人』は処女は嫌いなのか?」



変な聞き方。人づての人づてなので本当かどうかは分からいけれど、「処女はめんどくさい」と言っていたらしいし……処女で申し訳ない。



「昔、『処女はめんどくさい』と言っているのを聞いたと友達から聞きまして……」



それ以上、誠也せいやくんは何も言わなかった。この話題は終わりってことかな?そんなことを考えているうちに、彼の手が私を抱きかかえた。これが漫画やアニメで見たお姫様抱っこ……



「おぉ…これがお姫様抱っこ……初めての経験です。誰でもするんですか?」



これまでにお付きいあいした人、皆さんを次々とこうしてベッド送りにしたのでしょうか。


「ベッド送り」だとなんか違う意味になってしまいそう。ダメだ。興奮して、頭がおかしくなってきた。ワインも余計に回ってきた気がする。


気付けば、上半身が脱がされていました。流石慣れている。ただ、私の下着姿を見て誠也せいやくんが固まっている。


一応持っている物の中で一番新しいものを選んできたのですが……何か問題があったのでしょうか。



「誠也くん……なにか言ってください。黙っていられると少し怖いです」


「あぁ、ごめん。可愛いと思って……見とれてた」



あぁ、ここは社交辞令を入れるタイミングだったのですか。それでも褒められると嬉しいものです。


流石、誠也くん。なんの滞りもなくスルスルと事が進んでいきました。


気付けば全てが終わっていた。誠也せいやくんの絶頂の証は、私のお腹の上に点在していました。


まだ体温が残っているのか温かい。これはさっきまで誠也せいやくんの中にあったもの。誠也せいやくんの一部だったもの……


私は無意識に触っていた。



「痛かったろ?」


「(コクン)」



誠也せいやくんが頭をなでてくれる。流石慣れてる。私は思う壺です。ますます誠也せいやくん沼にずぶずぶと全身が沈んでいっています。


でも、彼女さんがいる身、私は処女ももらってもらったし、夢のような時は終わりです。身体に残る痛みが記念品と言ったところでしょうか。



「1回でよくなる人は少ないっていうし、もう少しよくなるまであと何回かしよう!な?」


「……いいの?」



彼女さんには内緒という事でしょうか。私は陰の女として波風を立てないようにしますね。



「今日は疲れたろ?このまま眠ろうか」


「……うん」



ほんのひと時だけでいいから……誠也せいやくんに抱きしめられて眠りに落ちた。多分、私はこの瞬間を一生忘れない。たとえ仮初の時間だとしても。

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