第2話:彼女と手料理
翌日、目を覚ますとめぐりはベッドの上にいなかった。俺は慌てて飛び起きた。
「
めぐりはキッチンにいた。ワンルームの俺の部屋の廊下に、ついでの様に設置された狭いキッチンに。
「おはよう、めぐり。その……身体は大丈夫?」
「うん、歩くとまだちょっと痛い感じ……」
恥ずかしそうに答えるめぐり。よく見ると下着の上に俺のシャツを1枚羽織っているだけの姿で料理をしているようだ。
「あ、ごめん。シャツ勝手に借りちゃって……『彼シャツ』というものに憧れがありまして……こんなこと二度とできないと思うから……」
どうやら、めぐりの「好きな人」は彼シャツをさせてくれない人らしい。俺のシャツでよければいくらでも着てくれ。
めぐりの手元を見ると、目玉焼きとソーセージが焼きあがっていた。トースターにはパンが焼けていて、いい匂いがしていた。
俺はトースターを持ってはいるものの、焼くのすらめんどくさくて白いまま食べることも少なくなかった。
「サラダも作りたかったけど、材料が無くて……」
そう言いながらトーストの上に目玉焼きが乗った朝食とコーヒーをテーブルに持ってきてくれた。二人で使うには狭いローテーブルに皿を置いて向かい合わせで食事をした。
「俺、この家で料理らしいものを初めて食べたよ」
「
袋麺を作ることはあったので、たまごとソーセージだけたまたまあった。他は牛乳くらいしか冷蔵に入っていない。
「あの……よかったら、またご飯つくりにこようか?」
それは願ってもない申し出!めぐりを家に招き入れる口実にもなる。
「その……あと何回かはしてくれるってことだったから、そのお礼で……」
好きな女の子から「してくれる」っていう言葉は無性に嬉しかった。
しかも、セックスの御礼に料理を作ってくれるなんて、俺にとってはどちらもご褒美だから過ぎたことだった。それでもまためぐりが来てくれるのは嬉しいから黙って受け取ろう。
「ありがとう……ぜひ」
「どんなものが食べたい?」
めぐりが作るものならば何でも嬉しいのだけれど、昔何かの時に作ってくれた弁当に入っていたハンバーグが忘れられない。
「じゃあ、ハンバーグと玉子焼きとアスパラのベーコン巻と……」
「ふふふ、お弁当のおかずみたいね」
めぐりが楽しそうに笑った。この笑顔を「好きな人」に渡すわけにはいかない。
「あの……
俺の好きな人か……2つ年上の彼女は職場の部署が変わってしまったとかで、俺とは時間が合わなくなってしまい自然消滅状態だし、その前に付き合った……名前は何だったか、お嬢様学校に通うJKは料理自体ができなかった。その前がOLだったか、いや、バイト先の後輩の方が後だったか。
「ふふふ、
「俺がちゃんとした料理を食べたのって、大学時代ではないのかもしれない……外食はしたことあるけど、手料理となると、実家の母親の食事まで遡るのかも」
「そ、そうなんですか!?じゃ、じゃあ……抱いてもらいに来る日だけでも私がお料理をつくりましょうか?」
「ホントか!?それなら毎日でも!」
そこまで言って俺はとまった。「毎日ご飯を作りに来る」=「毎日抱かれに来る」という事。
あまりにも品がないことを言っていると思ったのだ。実際、めぐりは真っ赤になって下を向いてしまった。
***
その後も、何度もめぐりを家に呼び寄せた。めぐりの料理はすごくおいしかった。レストランの料理という訳ではなく、素朴な家庭料理。
彼女そのものを表しているようだった。レストランの料理は美味しいけれど、毎日食べるには味が濃すぎる。
家庭料理は日々少しずつ味付けが違うし、メニューも毎日違う。俺はめぐりの料理とめぐり自身を毎日味わいたいと思っていた。
食事の御礼に(?)めぐりを毎日抱いた。めぐりは俺に開発されまくっているとも気づかずに「好きな人」のために俺の要望を全て受け入れた。
「これくらい普通だ」と色々と騙してなんでも試した。目隠し、手錠、鏡、ロープ、耳かき、電マ……考えただけで使い方が楽しいグッズたち。
めぐりは、俺の調教の結果、かなり俺の好みに仕上がった。最近では穴という穴が開発済み。それでも普段のめぐりはこれまで通り。少し自信なさげだった。
■居酒屋
そんなある日、
最初は合コンの誘いかと思ったけど、
「「「「かんぱーい!」」」」
居酒屋の個室の座敷で乾杯した。
めぐりは甲斐甲斐しく俺におしぼりを取ってくれたり、取り皿を配ってくれたりしていた。
あぁ……この子を彼女にしたい。でも、めぐりの心は「好きな人」のところ。何度も身体を重ねたし、少しくらい俺の方に心が傾いてくれないかと思った。
ある程度飲んで食べて少し落ち着いた頃、
「
漠然とした質問を
めぐりを快楽堕ちさせないといけないので、彼女の反応は見逃さずに、気持ちいいと分かったところはトコトンまで攻めた。
普通だったら性感帯かどうか微妙なところまでも追いかけた。鎖骨とか、脇とか、指の股とか膝の裏とか……
しかし、
「どうって?」
「ほら、ちょっと前までよく大学まで来てたお嬢様学校のJKとか最近見かけないし……」
いつの話をしているのだ。その後、2人……いや、3人か?既に付き合って別れている。
「あぁ、振られたよ」
「え!?そうなの!?」
なぜそこで、めぐりが驚く?
「じゃあ、まじめにめぐりだけ?」
今度は、
あのまま「好きな人」のところにってしまったら、俺は未来永劫めぐりに触れることはできなかっただろう。
俺がめぐりを抱いて処女を喪失させたのを知っているから、こんな言い方なのだろう。
もしかしたら、1回だけじゃなくて何度もしていることも、めぐりから相談されて知っているのかもしれない。
俺はめぐりの身体のキスマークが薄くなってきたら、必ず少し違う位置に新しくキスマークを付けて、「好きな人」のところに行けなくしていた。そのことを
「めぐりだけだ」
その答えで横のめぐりが顔を隠してしまった。恥ずかしかったのかと思ったら、涙が浮かんでいる。
「ちょっと事情聴取ね」
そう言うと
例えば、唐揚げでも冷凍ものを揚げるのと、手作りを揚げるのでは同じ出来立てでも美味しさが違う。
味付けもめぐりの方が俺の好みなのか、それとも好きな子が作ってくれた補正がかかっているのか、圧倒的にめぐりに軍配が上がる。
「めぐりちゃんとどうだ?」
やはり、
「他のヤツに取られないように頑張ってる」
「そうか。めぐりちゃんも料理とか頑張ってるらしいな。羨ましいぜ」
まあ、めぐりは地味でも可愛いからな。ただ、お前には
いかにも大学生らしいスラっとしたスタイルで、プリーツ・スカートにVネックのシャツで「お姉さん」という感じのコーディネートも似合ってる。
「それにしても、
「……」
まあ、めぐりはずっと好きだったしな。
それに、他の女はちょっと付き合うと、めぐりとの違いが見えてきて興味がなくなっていっていた。そりゃそうだ。彼女たちはめぐりではないのだから。
「一時期酷かったな。凄い時は次の週には新しい彼女がいたしな」
「まあ、失恋のショックで……」
「『処女はめんどくさい』とか言い始めた時は、こいつ終わったと思ってたけどな」
「ん?俺そんなこと言ったか?」
「言ったよ!俺は忘れないぜ」
大学に入ってモテ始めた時は、俺自身荒れていたと思う。ヤリまくっていた気がする。
その時は、調子に乗ってそんなことを言ったのかもしれない。めぐりに振られてこの世の終わりみたいに思っていたし。
「
「ん?それはめぐりに禁止されてるだけで……」
「そうなのか?」
俺だってキスしたい。だけど、嫌われてしまって俺のところに来なくなってしまったら全てが終わりなのだ。
■■■
めぐりの様子が最近おかしい。詳しく話を聞く機会がなかったし、
「
「うん、すごく良くしてくれてるよ?」
「そうなの?あっちの方も?」
「最初は痛かったけど、すごく優しくしてくれてるし、色々教えてくれるし……すごく気を使ってくれてるよ」
「そうなんだ……」
めぐりの口から「色々教えてくれる」とか聞くと少し心配になるのだけど……
「
「まあねぇ……」
こんな可愛い子が「抱いてください」って言いに行ったら断る男はいないでしょ。どうかしたら、私でも抱くかもしれない。
「でも、恋人同士ってあんなことまでしてるんだね、目から鱗だった……」
「ん?どういうこと?」
「あんな恥ずかしいポーズとか、
「ちょっとどんなことしてるのか言ってみて」
■■■
「まあ、よかったよな、
「うん……」
清々しく言う
俺は「好きな人」からめぐりを奪おうとしている。
「なに?気になることがある感じ?」
「まぁ……めぐりって『好きな人』がいるだろ?」
「は?お前何言ってんの?」
そこまで話したところで、ズカズカと個室の外を歩いてこちらに向かっている足音。嫌な予感がするけれど……
(バンっ!)「
そこには、
「めぐりちゃんに何してくれてんの!?」
「どうしたんだよ!?」
「
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