第7話 トロールボコったった〜
『アレナ:こんにちは! また見に来ちゃいました(笑)これから狩りですか?』
トロールたちの戦闘の様子を伺いつつ、配信のコメントをチラチラチェックしていると、割と早めにアレナさんが来てくれた。よっしゃ!
あ、そうだ、早く返事をしないと。
「アレナさんこんにちは。また来てくださってありがとうございます! そうです! これからまた狩りをします! 昨日の肉がまだ残っているので、今日は特に目的はなしで、手当たり次第狩っていきます!」
まず挨拶を返してから、今日の配信の目的を大まかに説明する。コメントが来るのってこんな幸せなんだな……。
あ、そうだ。今何を待っているのかも説明しないと。
「まず初めに狙っているのが、あそこで戦闘をしているトロールとジャイアントトレントですね。少し卑怯かもしれませんが、戦闘が終わり次第漁夫の利を狙いたいと思います。なので、戦闘開始まで少しお待ちください。」
『おお〜! トロールとジャイアントトレントですか! 弱っている状態だとしても強敵ですね! 気をつけて頑張ってください!』
人間界の配信では、漁夫の利戦法は卑怯だと言われていた。だから一応アレナさんの反応を伺ってみたが……全然大丈夫そうだな。
まあ、この人は俺のスキルが好きなくらい特殊な感性を持っているようだし、これが一般的な反応だとは思わないことにしよう。
ていうか、漁夫の利狙ってる時間って暇だよな。暇な時間ができたせいで配信から離脱されたらたまらない。
戦闘が終わるまで適当に簡易住居を見せたりして、時間を稼いでいよう。
◇◇◇
『へぇ〜! 土妖の能力で作ったんですね〜。ほんと、色々万能で羨ましいです!』
「えへへ、そうですかね? 羨ましいって言われたのは初めてです」
アレナさんは、ルームツアーも割と楽しんでくれた。狭い洞穴の作り方を見せただけなのに明るくコメントをくれて……ほんといい子だ……。
しかし、もう紹介する内容が無くなってしまった。
話題が尽きて焦っていると、外からバキバキバキッ……という木が倒れていくような大きな音が聞こえる。
どうやら、戦闘が終わったようだ。音的に、負けたのはトレントだろうな。最後に大きな衝撃と音が鳴り響くと、次に静寂が訪れた。
「戦闘が終わったみたいですね! 早速漁夫の利します!」
【火妖】【速馬】
簡易住居を塞ぐ糸を火妖の力で燃やして外へと脱出。そして、すぐに下半身を馬に変化させて、戦闘が行われていた方向へ接近する。
『はやい! ケンタウロスだ! 頑張ってください! 気をつけて〜!』
馬の脚の速度はものすごく、戦闘が行われていた場所にあっという間に到着。
変化を解除し周囲を索敵すると、大きな音を立てながら、先程の戦闘の勝者であるトロールが現れた。
体長は3メートルほどで肉付きがよく、大きな棍棒を持っている。緑色の肉体には細い傷痕がたくさん残っており、そこからこぼれ落ちる紫色の血液が嫌悪感を煽る。
「ガアアアアァァァァァ!」
「くっ!」
人間界のトロールよりこいつは一回り体も武器も大きい。そのせいで、間合いの管理をミスしてしまった。
ギリギリ間合いの外に立っていたつもりが、すでにここは相手の間合いの中。トロールも攻撃が届く範囲を理解しているようで、右手に持った棍棒を振り下ろし、こちらを撲殺しようとした。
【死霊】
全身を一瞬霊体に変えることで物理攻撃を無効化し、トロールの攻撃を凌ぐ。全身の変化は一瞬でも魔力の消費が大きい為、普段は絶対に使わないが、パフォーマンスの一環としてはアリだろう。魅せプというやつだ。
きっとアレナさんも、いい反応してくれてるんじゃないか?
『ひゃぁぁぁぁぁ! びっくりした! やられちゃったかと思いましたよ!』
んー……。ちょっと思ってたのと違うな。普通に驚かせてしまったようだ。これについては後で謝ることにしよう。
さて、全身の変化で魔力が減ってしまった。魅せプも兼ねて、短期決戦で倒すこととしよう。
【飛兎】【風鳥】【斬鉄人間】
飛兎の足で勢いよく飛び出し、風鳥の翼で速度を上げながら滑空する。向こうの間合いに入っているということは、それだけ距離が近いということ。
攻撃直後で隙を晒していたこともあり、トロールは高速移動に反応することができなかった。
「ラッキー」
そして、トロールとすれ違う瞬間、腕を斬鉄人間に変化させ、トロールのアキレス腱を攻撃する。
やはり、速度を乗せた攻撃は強い。まるでウインナーを切るかのように、プツンとトロールのアキレス腱を切断した。
アキレス腱を切られ力を失ったように崩れ落ちるトロール。
それを横目に見ながらも、次の攻撃の準備を始める。せっかくアキレス腱を切ったんだし、トロールがその場から動けないことを利用しよう。
【死霊】
瞳を死霊に変化させる。
そして、死霊の能力でトロールの生気、魔力などを吸収していく。ライフドレイン、マナドレインと呼ばれる技だ。
さっきの魅せプで使った魔力、返してもらうで〜。
そのまま数分じわじわと吸収していると、吸い取るものが無い感覚になった。決着は地味になってしまったが、無事討伐完了だな。
『名声値が42になりました。Eランク特典が与えられます』
「え?」
さて、アレナさんの反応はどうかなーなんて思いながら配信を開くと、名声値が上昇したとのメッセージが。
「え? 名声値42?……まさか!」
『え?すげえ! 一瞬レイスになったの見えたぞ!』
『めためた強くて草』
『きゃー! 今のソードマンよね?私大好きなの!』
『初見です、ファン登録しました!』
『アレナ:やっぱりかっこいいです!』
慌ててコメント欄を開くと、賞賛のコメントが数多く見受けられた。
そして多くのものに共通するのが、俺の能力や変化した魔物を褒めているということ。
何故だ……何故こんなにも俺のスキルが人気なんだ? ドッキリ企画? いや、ドッキリで貴重なファン登録の枠を潰すわけがないか……。
じゃあなんだ? やはり魔界ではこういうスキルが人気なのか? アレナさんの反応でまさかとは思っていたが、これなら……。
「初見さんいらっしゃい! 魔物の力で魔物をどんどん倒す! そんな配信が見たい方はぜひ、グッドボタンとファン登録をお願いします!」
自分でも調子が良すぎるとは思うが、魔界がそういう風潮なら、これからはバンバン能力を推して配信していくしかない!
これなら名声値Bランク……いや、Aランクも夢じゃないぞ!
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