第5話 初ファン獲得!


「え?名声値が上がった?」


 これまで数年間配信を続けてきたが、いままで1度も名声値が上がることはなかった。そのため、このアナウンスと呼ばれる女性の声を聞いたのもスキルが発現したとき以来だ。


「まままま、まさか」


 慌てて配信を開くと、視聴者数が1になっていた。いや、視聴者数が1や2になったことは過去にもある……落ち着け。落ち着け。


 心を落ち着かせてからバッドマークボタンに視線を移すも、そこには0の数字が刻まれていた。それどころか、グッドマークとファン登録ボタンが1つずつ押されているではないか。


『アレナ:初見です。ファン登録しました!カッコいい能力ですね!』


 コ、コメントが来た!


「あ、ありがとうございます! カッコいいですかね、地元では不人気だったんですが……」


 俺の能力がカッコいい?ありえない話だが、たまにはそういう人がいてもおかしくない……のか?


 このアレナさんのおかげでFランク特典もゲットできそうだし、ファン登録解除されないように気をつけないと。


『アレナ:ヴァリアンさんの能力、とってもカッコいいです! 今日の冒険はもう終わりですか?もっと見たいです!』


「いえいえ! 狩りはまだまだこれからです! 今日は野営するつもりなので、動物系を狩ろうと考えています」


 せっかくできたファンだ。絶対に逃しちゃいけない。本当はその辺の鳥でも狩って食べるつもりだったが、ここはいい印象をつけるためにも頑張らないとな。


 上がった直後の好感度は下がりやすい。悪い意味でのギャップを見せないようにしないと。


「お、ちょうどいいところにギガントボアがいますね! 今日はあれを狩ってみたいと思います」


 ギガントボア。Dランクの猪系魔物で、強力な突進技と牙が特徴だ。


『アレナ:ギガントボアですか?初配信でまだ私しかファンがいないのに、危険ですよ〜』


「任せてください! FランクスキルでもDランク魔物くらい狩れますから!」


 どうやら、アレナさんは俺があまりに人気がないせいで、配信を行うのを初めてだと考えているようだ。


 もう何百回も配信しているんだが、ファン数のせいでそう思われても仕方がないか。



 世の中には、俺のように何度配信してもファンがつかない人もいるんだぞ。



 しかし、なんだかこの人は、俺にファンがつくのが当たり前だと考えているような。そんな謎の雰囲気をコメントからひしひしと感じた。

 

 こんなマニアックなスキルが好きな人はなかなかいないだろう。実は魔界では異形系が人気とか……ね。まさかな。


 ひとまず思考をリセットし、ギガントボアを倒す手立てを考える。


 いつもだったら楽な相手だが、ここは魔界だからな。魔物の強さも一味違う。


 しかし、俺のスキルもFランクまで制限が解除されているので、こちらの戦力も上昇している。戦闘の幅も広がっているはずだ。


「……よし、これでいこう。それじゃあ、狩りを始めます!」


【妖精】


 アレナさんに戦闘の開始を告げ、背中から妖精の羽を生やす。そして、生えた羽を使って高い位置まで飛び上がった。



 こう言う場面では、いつもGランクの小妖精を使っていたのだが、これはすごいな。


 限界高度、浮遊時間、上昇速度、下降速度、移動速度など、どれをとっても小妖精と比べ物にならないほど性能がいい。


 ふわりと軽く羽を羽ばたかせるだけで、いつもより早いスピードで上昇していく。


 そのままある程度の高度まで浮かび上がったら、一つ目の準備は完了。羽を風鳥のものにチェンジする。


 この高さまで上昇したのは、高度から滑空することによって生まれた推進力を攻撃力に変換するためである。そのため、滑空性能に優れた風鳥を選んだ。


【風鳥】


 透明で煌びやかな妖精の羽が散り、可視の風でできた翼が生える。



『アレナ:おお! キレイ! 有翼人みたい!』


 いいぞ、アレナさんも盛り上がっているようだ。このまま滑空して勢いをつけ、派手に仕留めてやる。



 バサリと風鳥の翼をはためかせ、追い風を作りながら滑空して加速していく。その速度は、まさに風。



 風になったかのような感覚を一心に受け止めつつも、冷静にギガントボアの弱点は狙いを定め……今だ!


【鋭蠍】

 

 ギガントボアがこちらに気がつく頃には既に遅い。腰のあたりから生えたスコーピオンの鋭い尻尾を全力で振りかぶり、ギガントボアの左目に突き刺した。



 滑空で得た推進力は伊達ではなかったようで、尻尾は突き刺さるだけにとどまらず、目を奥深くまで抉って貫通したのである。


 これが本物の尻尾ならば突き刺さって抜けなくなり、大変なことになるだろうが、所詮は作り物である。能力を解除すると尻尾は消え、解放されたボアの目から血が噴き出した。


「おっと」


【水霊】


 水霊の能力で水のバリアを展開し、血の雨を防ぎつつも配信に目を移した。


『アレナ:フェアリーの羽にウィンドバードの翼。それとスコーピオンの尻尾ですよね! 火の腕と緑色の瞳を見た時から思ってましたが、魔物と融合できるスキルですか?』

『アレナ:あ、ごめんなさい! スキルの詳細を聞くのはマナー違反でしたね! 予定があるので今日は落ちます! 次の配信楽しみにしてます!』


「あっ……行っちゃった」


 なんだか、嵐がさったような気分だ。いきなり長文で質問攻めにしてきたかと思えば、こちらが一言も話すまもなく消えてしまった。


 次の配信も楽しみにしているとのとこなので、また見にきてくれるだろう。友達とか知り合いにもおすすめしてくれたらいいんだがな。


 ひとまず今日は、ボアを解体して食って野営でもしよう。ああ、いい気分だ。

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