第41話 氷狼と弾き

 エントリーしてから数分後には相手が決定し、観客による賭けの時間が終わるとすぐに試合が始まった。


【氷狼の上半身】


 敵を観察したいところだが、ひとまず奇襲に備えて上半身だけアイスウルフに変化させておく。全身を変化させるのもいいが、二足歩行の形態の方がでいつもの感覚で動きやすいはずだ。


 奇襲に備えたものの、相手は特に動きを見せなかった。よし、ひとまず暗殺系の能力ではないのかな。


 奇襲の心配がなくなり、余裕ができたので相手を観察してみる。防具は軽装備で、武器は片手剣と小盾を持っている。スキルを断定できるものが全然ないな。


 ひとまず、【片手剣】スキルの斬撃を飛ばす攻撃と、【盾】スキルの弾き飛ばし攻撃を警戒しておこう。


 だが、服装や装備で騙しておいて魔法系という可能性も否めない。慎重に、かつ素早く近づいていこう。


 近づいて行っても相手は特に反応を見せない。ためしに、地面を強く蹴りってフェイントをかけてみる。


 一気に距離を詰められると思ったのか、相手が少し反応を見せた。しかし近づいてこないとわかると、再びその場で立ち止まり、こちらの様子を伺っている。


 いま、盾を少し前に構えたか?いや、剣を持っている方の腕も動いていたので、盾スキルだとは断定できないな。


 スキルがわからなくても、ひとまず近づかないと始まらない。こちらには遠距離攻撃の手段がないからな。


 細かいフェイントや駆け引きでスキルを引き出すのもいいが、視聴者からは何をしているのか分かりにくいし、面白みに欠けるだろう。


「いきます!」


 お互い攻撃がギリギリ当たらない程度の距離まで一気に詰める。すると、ようやく相手は動きを見せた。


 一歩踏み出し、攻撃を仕掛けてくる。てっきり剣で切りかかってくるのかと思っていたが、俺の爪を怖がったのか盾を押し付けてくる。


 対して攻撃速度もなく殺傷能力もない盾だが、もしかすると盾に触れたらスキルが発動するかもしれないな。


【氷狼】


 足まで全身をアイスウルフに変化させ、その俊敏性を生かして盾の内側へ潜り込む。


 相手はこちらの動きに反応できていない上に、身を守るべき盾はすでに使い物にならない。


 これを好機とみて、氷爪による引っ掻き攻撃を繰り出すも、かろうじて剣で弾かれてしまった。


 連撃を仕掛けようとするも、謎の衝撃派を受けて吹き飛ばされてしまった。


『お?』

『平気か』

『何が起きた?』

『がんばれ!』


 しかし、飛ばされたと言っても、大した威力ではない。落ち着いて体制を整えて着地し、相手のスキルについて考察する。


「弾き強化系、もしくは追加攻撃で衝撃波を与えるようなスキルですかね」


 遠距離から衝撃波を打ってこないあたり、触れないと発動しない能力なのだろうと予想できる。


 触れるだけで衝撃派を与えられるわけでもなさそうだ。それだったら、防具で身を固めるはず。


 剣で弾かれた際に初めてスキルが発動したことを考えると、きっと弾き強化だろう。


 結構軽く弾かれたはずだが、それにしてはかなり飛ばされたな。強化率がかなり高そうだ。強く弾かれていたらまずかったかもしれない。


 それなら、こちらも特性を最大限に活かして戦うことにしよう。


 四足歩行を利用して高速で近づくと、高い俊敏生と機動力で相手を翻弄する。


 翻弄と言っても、相手の攻撃を避けつつ、周囲を飛び回っているだけだけどね。これにも意味があるんだ。


 防御に徹せず攻撃を仕掛けてくるので、こちらから仕掛けるチャンスもあるが、弾かれる可能性を考えてまだ攻撃しないでおく。


 数分経つと、相手の動きがかなり悪くなってきた。単純に疲れやいつ攻撃されるのかという緊張もあるが、氷狼の放つ冷気の影響が大きい。


 相手の身体中に霜が降りている。手足が悴んでうまく動きができないはずだ。そろそろ攻撃を仕掛けてもいいかな。


 相手の背後をとった瞬間、後ろ足に力を込めて全力で飛ぶ。


 相手は焦ってこちらに剣を振るが、悴んでいる影響でうまく力が入らず、手から剣がすっぽ抜けてしまった。


『お!チャンス!』

『いけ!』

『これを狙ってたのか』

『天才』


 元は弾かれるのを避けるために一度着地するつもりだったが、弾かれる心配がないのならとそのまま相手の喉元へ噛み付く。


 氷の牙が首へと深く刺さり、首を中心に体が凍っていった。


 

 

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