第23話 勝っても負けても

 サイラに宣言した通り、俺は二回戦以降を、妨害の余地がないように即座に終わらせた。基本的には三回以内の攻撃で勝利し、剣を折らせなかった。

 順当に決勝戦までいけたのは良かったのだけれど、夕方、準決勝が終わってもトーチカは姿を現さなかった。


「……トーチカが誰かに負けるとは思えないが」


 闘技場の出入り口付近で、トーチカがやってこないかと視線をさまよわせる。

 トーチカを越える魔法使いなんてそうそういない。フローラ王国内でも、せいぜい二人くらいだろう。

 思っていたよりも敵が強くしたたかで、リファを人質にされているから上手く戦えない、とかだろうか。

 トーチカなら余計な心配はいらないと思っていたが、試合の合間に探しに行くべきだったろうか。


「トーチカ……リファ……」


 決勝で勝てば、リファの命が危うい。決勝で負ければ、トーチカを盗られる。

 俺の最優先はもちろんトーチカなのだけれど、リファだって見捨てられない。どうしたもんかね?


「レイリス! すまない、心当たりは片っ端から探してみたが、トーチカもリファも見当たらない」


 駆け寄ってきたサイラが、肩で息をしながら報告してくれる。


「探してくれてありがとう。俺も行けば良かったな。のんきに大会に出てる場合じゃなかったかも」

「いや……いいんだ。レイリスは、戦わなきゃいけない理由があるんだろう? だから大会参加を選んだ……」


 トギロスとの取り決めは話していないが、察するものはあったらしい。


「まぁ、ちょっと、ね」

「お前は試合に集中しろ。ただでさえ大会の連戦は大変なのに、余計な体力と集中力を使うな」

「……ああ」

「心配するな。トーチカが偉大な魔法使いだというのはあたしでもわかる。簡単にやられるへまはしない」

「……わかってる」

「ただ……その……すまない。このまま見つからなければ……」


 試合に負けてくれ。

 サイラが言い切る前に。


「おやおや、黒い剣士。トーチカを失うことを覚悟して、早くも別の女をたぶらかしたか。なかなか良い判断だな、褒めてやろう」


 にやにやと笑う、トギロスが現れた。今はこいつの相手をしてやる余裕はないんだがな。……ん? ビアンカがいないな。


「……トーチカを失う? ちっ、そういうことか」


 サイラが状況を察したらしい。余計な心配はさせたくなかったが……。


「優勝した方がトーチカを得る。黒い剣士とはそういう契約を結んだ。決勝で私の勝利は揺るぎないから、黒い剣士はトーチカとお別れなのさ」


 サイラが眉をひそめ、不安そうに言う。


「レイリス……これでは……負けるわけには……」

「……大丈夫。上手くやるさ」


 その案は全く思いつかないんだがな。

 ところで。


「そういえば、ビアンカさんはどうされました? いつもご一緒では?」

「お前に話す義理はない」

「……そうですね」


 トギロスが不快そうに顔をしかめる。

 何かしらの命令で別行動しているのではなさそうだ。

 ……ということは、ビアンカがリファの誘拐に関わっている?

 確かに、ビアンカはなかなかの実力者だったと思うが、トーチカが負けるほどか?


「えっと……とにかく、決着は、決勝戦でつけましょう」

「ふん。そうなるな。お前が無様に地面に這いつくばる姿を楽しみにしている」


 トギロスが去っていく。

 その背中が何となく寂しげに見えたのは気のせいか。

 トギロスの姿が見えなくなって、サイラがまた不安そうに言う。


「レイリス……。本当に、大丈夫なのか?」

「……ああ、心配するな。考えはある」


 どんな?

 即座に自分に突っ込みを入れるが、どうにかするしかない。

 トーチカも、リファも、失うわけにはいかない。


「そろそろ試合だ。俺は行くよ」

「ああ。わかった。……なぁ、あたしにできることはないか?」

「んー、なら、俺を応援しててくれ。トーチカの応援がなくて、ちょっと気持ちが盛り上がらないんだ」


 トーチカと付き合い始めてから、離れている時間は最長だな。思った以上に辛いかも。


「……わかった。最前列で応援する」

「ありがとう。頼んだ」


 サイラと別れて、俺は選手控え室へ。

 本当に、どうしたものかね? 勝っても負けてもダメなら……?

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