第21話 試合

 ルーニルの家を出てからも、リファの町案内が少し続いた。

 リファはあまり表通りには出てこないような人たちと交流が深いようで、一風変わった人たちとの出会いがあった。


「王都でも見られるようなところを見て回っても面白くないでしょう?」


 なんて気遣いをしてくれたのも、俺たちとしては評価したいところ。リファは良い道先案内人だと思う。

 そして、日暮れ頃になって、リファの案内は終了。

 最後に夕食も一緒に摂ってから、リファを家に送り届けた。予想通りというべきか、リファが一人暮らしする家は入り組んだ路地裏にあり、少し陰気な雰囲気があった。


「……リファ。余計な心配かもしれないが、何か生活で困ってることとかないか?」

「いいえ、平気です。まぁ、ちょっと雰囲気が暗めな地域ですけど、案外良い人ばかりです。身の危険を感じるようなこともありません。それに、わたくしも多少は戦いの心得があります」


 リファが拳を握る。たぶん、サイラあたりに仕込まれたのだろう。


「そうか。ならいいんだが」

「はい。ご心配なく。それでは、送っていただきありがとうございました」

「俺たちこそ、面白いところに案内してくれてありがとう。助かったよ」

「とても面白い町歩きでした。感謝します」

「いえいえ。道先案内にの勤めを果たしたまでです」


 にっこり笑うリファ。その笑顔に偽りはなく、ここの生活に不安はないことが感じられた。


「……ちなみに、明日も頼める?」

「いいですよ。今日とは違った面白い場所をご案内します」

「じゃあ、昼頃にでも、今日出会った闘技場の前で」

「承知しました! またお会いしましょう!」


 リファに手を振って別れ、俺とトーチカは自分たちが予約している宿へ向かう。


「厄介事にも巻き込まれましたが、総じて見れば良い一日でした」

「リファのおかげだな」

「ですね。……明後日、頑張ってくださいね?」

「おう。任せろ」


 ぼちぼち宿に到着し、トーチカと二人きりの時間を楽しむこと少々、それからはもう休むことにした。

 翌日、午前中はトーチカと戦闘の訓練をして、午後にはまたリファに町を案内してもらった。

 ゆっくりと町歩きを堪能した、さらに翌日。闘技大会の日。


『リファの命が惜しければ今日の大会で負けろ。この手紙のことは他言するな』


 そんな手紙を朝っぱらから部屋に届けられて、俺とトーチカは深い溜息を吐いた。

 なお、その手紙は宿の入り口ドアに張り付けてあったらしく、従業員が見つけた。差出人は見ていないそうだ。


「……差出人は、あの武器屋の大男かな?」


 確認のつもりでトーチカに尋ねてみる。


「でしょうね。トギロス……様は自信過剰でしたから、あえてこんな手紙を出すことはないでしょう」

「だよなぁ。あの男はしょうもないことをしやがる」

「……ま、ルーニルさんも何もおっしゃっていませんでしたし、大したことではないのでしょう。

 大会まであまり時間がありませんから、とりあえず、索敵魔法の応用でリファを探します」

「ん。頼む」


 窓を開け、外に向かってトーチカが杖を構える。


索敵サーチ


 杖の先に魔法陣が出現し、そこから無数の蝶が現れる。空気に溶けていきそうな半透明の蝶たちは、空に待って四方八方に飛んでいった。

 索敵魔法にも色々あるが、今回のは人海戦術的に目的のものを見つける魔法。高い魔力などの目印がなく、ひたすら探し回るしかないというときに有効だ。


「俺は大会のための準備をするよ。見つかったら教えてくれ」


 リファのことも心配だが、俺も大会で負けるわけにはいかない。

 いつ負けろ、という指定もないわけだし、出場することと、トーナメントである程度勝ち進むことは問題ないはずだ。

 着替えを済ませ、トーチカより先に外に出たら、広い場所にて軽いウォーミングアップ。

 体も温まってきたところで、闘技場に向かった。

 到着したら、受付を済ませ、内部にある選手たちの待合室へ。

 俺の到着時点で、室内にいるのは五十人程度。大会全体だと二百人くらいは参加するらしいから別室に通される者も多いのだろう。

 殺し合いの大会ではないので、待合室内に殺伐とした雰囲気はない。それでも、真剣に試合に臨む者も多数いるようで、緊張感は伝わってきた。

 程なくして大会が始まり、第一回戦。

 スムーズな進行のため、一、二回戦は、闘技場を五分割して、五試合が同時進行。

 俺の相手は、十五歳くらいの槍使いの少年だった。ぱっと見、Dランク冒険者くらいに見えるかな。冒険者として、徐々にモンスターとの戦いに慣れてきたくらいの頃。

 審判も近くに立ち、さぁ試合だ、と気合いを入れていたら。


「あの! レイリスさんって、あのレイリスさんですよね!? 元紅蓮の流星の!」


 なんだかキラキラした目で見つめられてしまった。


「そうだけど、俺のこと知ってるのか?」

「はい! 以前、王都の闘技大会で戦っているのをお見かけしたことがあります!」

「おお、そうだったのか。悪いな、俺は全くお前のこと覚えてない」

「それはそうでしょう! ぼくはただの観客でしたから! ちなみに、オーウェンと申します! いやぁ、レイリスさんと手合わせできるなんて、光栄です!」

「あまり期待するなよ? 俺単独はそんなに強くないんだから」

「そんなことはありません! レイリスさんはとても強いです! そして、魔法の才能がない僕にとっては、一番の憧れです! レイリスさんのように強くなって、そして強い仲間と共に、Aランクの冒険者になります!」

「そっか。それは楽しみだ。あ、試合開始だって。じゃ、俺たちも」

「はい! 宜しくお願いします!」


 年下にこんな憧れの視線を向けられるのは気恥ずかしいね。軽く流して勝とうと思ったのに、下手な戦いはできなくなってしまった。

 気合いを入れ直し、剣を構える。

 オーウェンも真剣な顔になり、俺に向かってくる。細かいことは考えず、思い切りぶつかってやろうという気概を感じる。

 うん、こういう感じ、いいと思うね。試合なのだから、楽しくいこう。

 オーウェンの突きを、軽く体を反らす事でかわす。一歩踏み込み、胴を狙って剣を振るが、槍で受け止められた。

 追撃を加えようとしたら、即座に距離を空けられた。


「っつう! 重い! 手が痺れる! 低級モンスターとは全然違う!」

「刃がついてたら、槍ごとぶった斬ってたところだぜ?」

「はは……でしょうね。大会仕様の剣に救われました」

「さ、次はこっちから行こうか」


 オーウェンに接近。トーチカの支援魔法なしなので速度はあまりないのだが、オーウェンは目を見開く。


「速い!?」


 闇雲に突き出された槍を剣先で払う。さらにもう一歩踏み込んで、オーウェンが反応できるだろう速度で連撃。


「くっ!」


 オーウェンが苦しげに呻く。

 反撃の余裕はなさそうだ。

 勝つだけならすぐにできるけれど、オーウェンとはもう少し試合をしていたいな。

 徐々に、徐々に、連撃の速度を上げていく。オーウェンは苦しげで、防戦一方なのだが、俺の攻撃についてきている。

 俺につられて、限界が釣り上がっているのがわかる。試合中の成長なんてたかが知れているが、少しでも強くなってほしいものだね。 

 なーんて、真剣ながらも余裕を見せていたら。

 パキン。

 突然、剣が半ばから折れた。

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