第30話 事情
戦闘が終わり、隠密五人を顔だけ出して地中に埋めて、タッタたちの周りの土壁も解除した。
「こんな来客が来ることに身に覚えある?」
渋い顔をしているタッタに尋ねると、しぶしぶという風に答える。
「……僕たちを捕まえに来たのかもしれません。でも、なんで今更……」
「捕まえに? 何か悪いことでもしたのか?」
「まぁ、ある意味、悪いことかも……」
「ふぅん。どちらかと言うと、この五人を返り討ちにすると、こっちが犯罪者扱いされてしまう感じ?」
「いや……流石にそこまではないと思います……」
「どういうことなのか、訊いてもいい?」
「……そうですね。巻き込んでしまったのですから……」
タッタとサーシャが顔を見合わせ、頷きあう。
そして、ざっくりと事情を確認したところ。
タッタとサーシャは、フローラ王国の西の果ての隣国、ラーラント王国の第三王子と第四王女で、ちょっとした事情で五年ほど前に国を抜け出し、商人として暮らし始めたらしい。
ラーラント王国としては、二人の価値はさほど高くもないため、大きな問題にはならないと思っていた。誰かが連れ戻しに来るとも思っていなかった、とのこと。
ちなみに、タッタとサーシャは偽名で、本名は別。
うーん、いわゆる王族というやつか。Aランクパーティーとして多少はそういうお偉いさんとも関わりがあったわけだが、緊張しちゃうね。
「なるほど。ちなみに、どういう事情で国を出たんだ? 暗殺でもされそうになった?」
「それは……」
タッタとサーシャが再度顔を見合わせる。
言いたくなければ言わなくてもいいけどね、と思っていたら。
「相変わらず、レイリスは察しが悪いですね。この二人、恋仲ですよ」
トーチカが平然と言ってのけた。
「え!? そうなの? 兄妹で? つか、どうやったらそういうの気づくの!?」
「そんなの、半日一緒に行動してたら気づきますよ。距離感、お互いを見る視線、言葉の端々に現れるお互いに対する想い……。
それで、王族のことですから、恋仲に落ちた二人は、そのままだと決して結ばれないと思って国を出たというところでしょう。
わたしの予想、合ってますか?」
タッタとサーシャが苦笑しながら頷く。
「いやはや。僕たちが恋仲であることを言い当てたのは、トーチカさんが初めてですよ。高ランク冒険者とは、観察眼も一級品なのですね」
タッタが感心しているところで、トーチカが残念なものを見る目を俺に向ける。何も言ってないのにうるさいな。
ここで、サーシャが苦笑しながら言う。
「レイリスが鈍いというより、トーチカが鋭いんだと思うよ?
ちなみに国を出た理由をもう少し詳しく言うと……国を出たのは私が十六歳のときで、好きでもなんでもない国内の貴族と結婚させられようとしていたの。
王位継承権がほぼないに等しい第四王女なら、そんなものだと理解はしていた。けど、そのときには兄さんと恋人関係になっていたから、どうしても嫌になって……」
「連れ出したのは僕です。二人で、僕たちのことを誰も知らない場所へ逃げてひっそりと暮らそう、と」
なるほど、ね。
しかし、随分と若さの溢れる決断をしたものだ。王族の事情はよく知らないが、周りの人は迷惑だったろうな。
とはいえ、タッタたちの周りの人たちが迷惑するだけのことで、俺とトーチカは何も迷惑など被っていない。二人を責めるつもりなど起きないな。
「二人が逃げたのは別にいいけど……兄妹で恋愛ってのは珍しいな」
フローラ王国でも、兄妹間の結婚はできない。ただ、国によってはそれを許容しているところもあるとか。
「……気持ち悪い、ですよね?」
タッタが、寂しげな顔で尋ねてきた。
「いや、俺はそういうの気にならないかな。むしろ、兄妹間の恋愛を忌避する理由の方がよくわからないかも。
まぁ、感じ方はそれぞれあるんだろうし、ダメだと思う人がいても仕方ないんだとは思う。
ただ、王族っていうのも大変みたいだし、心許せる相手が兄妹くらいしかいなくて、自然と惹かれあうとかもあるんだろ」
「レイリスに同意です。兄妹だって男と女ですから、惹かれ合うことはあるでしょう。それに、一部の王族や貴族では近親婚も多いとも聞きますから、案外そういうのはありうることなんでしょうね。
一応、近親間での婚姻が続くと、先天的に病気を患う子供が産まれやすくなるという話もあるようです。子作りについては少々考えた方が良いかもしれません。
事情はわかりましたが、この埋まっている方たちはどうしましょうか? あなたたちを連れ戻しにきただけなら、治安兵に突き出すこともないでしょう。大人しく帰るように説得しますか?」
「……とりあえず、どうして僕たちを追ってきたのかを聞きたいですね。僕たちには、こんなところまで追いかけてくるだけの価値はないはずですから」
何か、国内の事情でも変わったのかね? 他の跡継ぎが皆病で亡くなってしまったとか?
「んじゃ、とりあえず訊いてみようか。たぶん、リーダー格なのは……」
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