第五章 手紙の続きは

翌朝、教室に着いた時、石井さんはうつ向いたまま席に座っていた。

話しかけたい気持ちを我慢して、僕も席に座った。


退屈な授業が終わり、放課後の時間を迎えると僕は石井さんに話しかけた。


「今日は部活が休みなんだ、だから・・・。」

言いかけた僕の言葉の途中で彼女がさえぎった。


「ごめんなさい・・・今日は塾があるの・・・。」

手早くカバンの蓋をしめカチッとロックをすると、逃げるように僕から去っていった。


呆然とたたずむ僕の肩を中島の手がつかんだ。


「あのさぁ・・・。」

ためらうような口調が、もどかしく感じた。


「お前・・・知らないんだろうけど・・・・。」

何を言っているんだろう、その時、僕は思っていた。


「お前の手紙・・・昨日、小林が掲示板に貼ってたんだ・・・。」

「ええっー・・・・?」


僕の両目は大きく開いていたに違いない。

それは、あまりにも不条理な事実だったのだから。


「だ、だって・・・・な、なんで・・・・?」

混乱した頭は言葉を選べなかった。


「どっかで落としたんだろうな・・・・小林が拾って、面白がって掲示板に貼ってた・・・。」

親友の説明に、僕は何と答えていいのか分からなかった。


「特に名前も書いてないし、バカだから、あいつ・・・。」

睨んだ方向に小林がいた。


後ろめたそうに顔を背けている。


「何も考えずに掲示板に貼って、みんなも盛り上がってさ・・・・止めようとしたけど・・・スマン・・・・。」

中島は僕の肩に手を当てながら頭を下げた。


「ああ・・・それで・・・。」

駅伝の試合から帰った時の喧噪と、石井さんの表情に納得がいった。


僕は反射的に小林を見つめた。

怯えた顔、特にビーバーみたいな出っ歯が今でも記憶に残っている。


近づいて胸倉をつかんだ。

そうしても許されるくらいの罪を犯したんだ、こいつは。


「それで、どうしたんだよっ・・・。」

僕は掲示板に貼られたことよりも、手紙のありかを知りたかったんだ。


ユーミンの話の続きを。

だけど、ビーバーから返された言葉は、あまりにも残酷だった。


「す、捨てちゃった・・・。」

「ええっ・・・・?」


僕は急いで教室のゴミ箱を開けたけど、既に空っぽだった。

昨日、僕が去った後、小林はゴミ箱に捨て全校的に処理されていたのだ。


僕の初めてのラブレター。

僕の初めてのバレンタインの思い出。


それは、あまりにも無残な形で終わったのだった。


怯える小林に、僕は何もしなかった。

胸倉をつかみながら、握りしめた拳は震えていたけれど。


14歳の男子中学生は、単に初めてのラブレターの続きが読めなかったことが悔しかっただけなのかもしれなかった。


教室の隅で寂しそうに肩をすぼめる少女の姿に、気づきもしないで。


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