もっと好きになる

「どういうことかな?」

「あたし知ってるから、カイトが女装をしてるってこと」

「ほ、ホントに?」

「うん」

「そ、そっか知られちゃってたか…」

「うん、でもねそんなことはどうでもいいの」

「どうでもいいの?」

「そうだよ。だってカイトは女装をしていようがカイトなんだから!」


すでに言いたいことは決まっていた。

だってカイトの趣味である女装のことを知ってからも考えることは結局はカイトのことで、どうやってカイトと話せばいいのか?

カイトにしっかりと女性として見られているのかを考えてばかりだった。

だからここでも気になっていることはしっかりと言葉にする。


「あたしが気にしているのはね、カイトはあたしと一緒で嫌じゃないのってこと」

「どうしてそう思うのかな?」

「だって、カイトは女装をしている。それもかなり可愛い。だったらあたしなんかよりもモテるだろうし、実際そうだと思う。それに、女装をするってことは、男性を好きになってしまうことだってあるんじゃないって…」

「そっか…それは…ごめん。不安にさせた」

「許さない。だからちゃんと説明して!」

「そうだね。ちゃんと言わないとお互いにわからないよね。俺がなんで女装をしているのかっていうのはね。エリとのちょっとした会話からなんだよ」

「どういうこと?」


何か間違ったことを言ってしまっていたのだろうかと思い、考えるがでてこない。

ただ、正解はすぐにカイトの口から発せられた。


「ほら、後ろに一緒に乗るなら女の子じゃないと恰好つかないよねって」

「あ…」


確かに言った。

そう、カイトとたまに一緒にツーリングに行くことがあるが、そのときは免許を持っていないカイトが決まってあたしの後ろに乗っている。

あたしはそれで満足していたが、そんなあたしたち夫婦の姿を見て、外野が言うのだ。


「(あ、男が運転するんじゃないんだ?)」

「(なんかださ)」


みたいなことを…

だから、そんなことを言われているとカイトが嫌がると思って、つい言ってしまったのだろう。

乗せるなら女性の方がいいと…

それで女性の姿になれば気兼ねなくカイトも乗れるし、そんなことも言われないと…


「はあ…」

「どうしたのエリ?」

「ううん、あたしがバカだったって」

「そんなことないよ。俺が間違ってたんだよ。ちゃんとエリには相談してからするべきだった」

「そうだね。それはカイトが悪い。でも、最初に言っちゃったのはあたしだから」

「でも…」

「でもじゃないよ。あたしが周りの目を気にしすぎて、カイト自身がどう思ってるのかを考えてなかっただけだよ」


そう…

ミクと話したときに、気づいた。

あたしは結局、カイトのことを考えているようで考えていなかった。

世間一般の声を聞いて、カイトがどう思っているのか聞いていなかった。


「本当に、あたしバカだ」

「そんなことないよ。俺のことでしっかり悩んでくれていた証拠なんだから…」

「そうだけどね。でもちゃんと会話さえしてれば、こんなことにならなかったのかと思うと自分が恥ずかしいよ」

「そう?」

「そうだよ!」


本当に、女装した理由がそんなことでよかったと思ったあたしは油断した。

安心したと同時にあれがきたのだった。

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