第43話 吐露
再び目を開けると、畳の上で尻もちをついていた。
「まったく、何してるんだ、お前たちは」
障子越しの柔らかな陽光を、見事なプラチナ・ブロンドに靡かせて立っていたのはマリーだった。打ち合わせが終わってすぐに駆け付けてきたらしい。障子が元のまま、つまりあの幻の炎は失せて、部屋は明るく沈黙している。秋人は目が慣れるまで呆然と座り込んでいたが、抱えていたはずのものを思い出して、がばりと身を起こした。
「ウロ!」
片膝をついて背を丸め、目元を覆ったまま、黒衣の少年も動けないでいるようだった。秋人は恐る恐る肩に触れてみるが、はっとしたマリーに腕を引き上げられてしまう。
「お前、“目が化石してる”な?」
耳に覚えのある言いようにギクリとして、秋人はマリーに掴まれたウロの腕を奪い返した。濡羽の右目が、二重の金環蝕のように金の枷を嵌められて、視点が合わない。目元を撫ぜると、酷く熱かった。火傷しそうだ、と秋人は思ったが、またそれが自分たちにしか触れられない熱さなのだとも分かった。ウロはやっと身じろぎして、秋人の手から逃れようとする。
「ウロ、何を見た」
マリーの低い声に、定まらない視線が震えて俯く。言葉を発しないウロの
「報告しろ。石に呑まれるとは失態だな」
「……申し訳ありません」
怜悧なほど美しいマリーの顰められた眉に、ウロはそれでも視線を逸らして黙秘する。秋人は無謀にも間に割って入った。
「俺が鏡に取り込まれたのがいけないんです」
「それは確かにお前の問題だが、監督する立場で巻き込まれるとはな。よほど同調しやすい過去ででもあったか」
ウロが喉を引き攣らせる気配を察して、秋人は慌てて答えた。
「清根さんの幼少期の記憶です。親しい男性がいたようで……」
鏡の中で見た男性はどの時代も同一人物だったと思う。幸介の言っていた『貝谷吾郎の息子』だと思い込んでいたが、清根と随分歳が離れていた。
「“サクヤヒメ”はもともと、その男性から清根さんに贈られたもののようです」
何故、あの男性が清根に贈ったはずの“サクヤヒメ”が『廖庵の妻が廖庵に贈ったもの』になるのか。清根のものになったのなら、浩乃に受け継がれていてもおかしくないが、浩乃から廖庵に贈られたのではないのだ。清根から廖庵に妻の手に渡った経緯は何なのか。それとも更に複雑な経緯が有るのだろうか。紫織が浩乃の娘かもしれないことと関係有るのか。最後の光景で清根が言っていた、『娘を華族に嫁がせるために』とはどういう意味だったのだろう。
「それで、絵が入れ替わった理由は」
マリーが無表情にこちらに問い、思考に耽りそうになっていた秋人は背筋を伸ばした。
「順を追って話します。日本支部のオフィスを借りてもいいですか」
傍らの運慶を振り向くと、指でオーケーと言ってくれたが、その珍しく沈痛さを隠した視線の先が、秋人は気になった
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