たぶん、いつもより眺めがいい右に

 最近、槇原敬之を聴くようになった。


 というのは、なにを隠そう(別に隠すこともないけど)――僕は中学時代、マッキーソングにどっぷり浸かっていた。

 中一のときにたまたま耳にした『冬がはじまるよ』に「なんだこの透き通った歌声は!?」と衝撃を受け、それからというもの(いま三一なので)もう二〇年近く彼の曲を聴いている。


 思春期に聴いていた音楽はその人の人生観に大きな影響を与えるというが、僕は中学時代、槇原敬之の曲を聴きまくったことで、良くも悪くもロマンチストとなった。

 モノの考えかた――特に、恋愛に対する考え方が槇原色に染まり過ぎて、周りからはよく「お前は生まれる時代を間違えた」とか「失恋ソングばっか聴いているから、いつも振らr」と、絶滅危惧種扱いされてきた。


 ※ちなみに、当時同級生の間で流行っていたのは、BUMP OF CHICKEN、CHEMISTRY、高校になると、GReeeeN、コブクロ、ORANGE RANGE、EXILE


 大学のとき尾崎豊にハマってからちょっと聴かなくなった時期もあるが、それでもやっぱり自分の中でラブソングといったら槇原敬之だ。

 彼の曲の歌詞は、それ自体が物語となっている。現実の世界を巧みに描写しつつ、とても綺麗なファンタジーもひとつまみ足してあるから、彼の曲は「こういう経験したことあるわ」「『HOME WORK』の女の子めっちゃ可愛い……」と、共感と憧れの二つを気持ちよく感じられる。


 このバランス感覚は、小説を書く上で物凄く参考になっている。――というか、モロに影響を受けている。

 ……ファンタジーの足しすぎで「雰囲気小説になりすぎじゃない?」と突っ込まれることも多いが。


 そうそう。「悪い意味で雰囲気小説」と突っ込まれるとき、高確率で「情報が足りない」「自己完結のロジック」これらの感想もセットでついてくる。


 僕は小説でも映画でも「語らずに語る」という表現方法が好きだ。

 ただ、いざ自分でやると、あえて省いた部分が「想像のために残した空白」ではなく「単なる情報の抜け落ち」「読み手に不親切な文章になっている」と指摘されがちである。


 作者の中ではびしっと筋が通っていても、読者に伝わらなければ、やはりそれは独りよがりなロジックなのだ。

「伝わる人にだけ伝わればいい」と「視野の狭さ」は違う問題だろう。「伝わる人にだけ伝わればいいさ」と変に開き直る前に、僕は一度、自分の力不足を認めるべきだ。



 ……小説の話がちょっと長くなってきた。


 小説の話だけなら槇原敬之云々の話をすることはないのだが、なんでわざわざ彼の話からエッセイを書き始めたかというと、なんとなく『もう恋なんてしない』を聴いていたとき、「語らずに語る」問題について(あ、こういうことか!)と発見があったからだ。


 二番のサビだ。


 別れた彼女宛の郵便物が届く→彼女は住所変更の手続きを→彼女もまだ前に進めずにいるのかもしれない


《別れた彼女の郵便物》=《彼女の


(これこそまさに語らずに語るだよなぁ)と、『もう恋なんてしない』の凄さを改めて感じた。

 そうなのだ。はっきりと描かれていないだけで、この曲には彼女のドラマも存在しているのだ。もしかしたら「さよなら」を言った側にこそ、もっとセンチメンタルで複雑なドラマがあるのかもしれない。

 なんせ彼女は「さよなら」の理由を告げないまま、彼のもとを去ったのだから……。


 二番のサビについては前々から(エモい)と思っていたが、小説の技法と結びついたのは今回が初めてだった。



★★★★★★★★★★


 ※以下の文は今回のエッセイを書いている間に膨らんできた妄想


『もう恋なんてしない』の歌詞を引っ繰り返してみると、とても面白い!

 彼女の視点からだと、また違うドラマが見えてくる。


(なんでもかんでも人任せだったから、たぶん紅茶のありかも分かんないんだろうな)

(ろくに料理もできない人だからコンビニ弁当ばかり食べてそう)


 彼がゴミ箱抱えて思い出の品を整理しているとき、彼女は彼女で、彼の部屋になにを置き忘れてきたか、一つ一つ思い出しているかもしれない。


(歯ブラシ……ああ、日用品はほとんど置いてきちゃった)

(私がすすめた服まだ着てるのかな)


 住所変更の手続きをいつまでも先延ばしにしているところなんか想像しがいがありますけど、今回はこのへんで……。

 たまにはこんな妄想も楽しいかも。


★★★★★★★★★★


 槇原敬之関連でいうと、大学時代、一人カラオケに行ったとき、隣の部屋の人と槇原敬之歌合戦をしたことがあります。

 こっちがマッキーを歌ったら向こうもマッキーを歌って、向こうが歌い終わったらこっちもまたマッキーで返すという、あれは凄く面白い体験でした。

 

 突然始まったので、お隣さんも面白がっていたでしょうね。なんの打ち合わせもしていないし、部屋越しの歌合戦だったので、しっかり聴かないとお隣さんがなにを歌っているのかお互い分からないわけですよ。それでも、二人とも息ぴったりで一時間ぐらいやってたかな。

 嘘みたいな、でも本当にあった話です。



 音楽絡みのエピソードは他にも色々あるので、それらもいつか書きたいですね。

●THE YELLOW MONKEYの『フリージアの少年』から生まれた二人称の長編小説

●小説を書き始めたきっかけは尾崎豊

 特に尾崎豊の話は。


 

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