硬直世界

 年を重ねるにつれて心が硬くなってきている。

 好奇心、開拓心、喜怒哀楽の振り幅……。

 10代、20代と迷走期が長かったので、30歳になってようやく落ち着きが出てきたのか。

 いや、違う。そんなポジティブなものではなく、たぶん物事全般に対する心の反応が年々硬く鈍くなってきているのだ。

 

 たとえば、最新のゲームや高いプラモデルを買ったきりで放置している人達。

 学生時代の僕は、彼らのことが分からなかった。

 稼いだお金で欲しいものを買ったというのに、なぜ買ったきりで遊ばないのか? 作らないのか?


 かく言う僕も、買ったきりで長年放置している本(いわゆる「積ん読」)が何十冊とあるわけだが、積ん読に関しては、日頃本を読む人やカクヨムユーザーならある程度は大目に見てくれると思う。大目に見てくれ。


 話を戻そう。

 欲しかったものを買ったのに、なぜ彼らは買った途端に熱を失ってしまうのか。

 買ったことで満足した。それもあるだろう。

 しかしそれ以上に「買ったはいいが遊ぶ時間がない」「昔みたいに集中力が続かない」こっちの声が多い。

「今度の休みは思いきり遊ぶぞー」

 これの繰り返しで箱すら開けず、あるいは一回遊んだだけで売ってしまう。

 そういう人達のことが分からなかった。

 だが、僕もいまではすっかり「買ったきり族」シルバー会員と言ったところか。


 昔は、買ってすぐは読めなくても「今読んでいるやつを読み終えたら、次はお前を読んでやるからな」と、読書スピードと積ん読のレースを楽しんでいるところもあったが、今は買ったきり。「どうせ読まないだろうな」と諦めてさえいる。本棚をチラと見てはときどき「ごめんな。お前達……」と謝りたくなるぐらいだ。

 小説だけでなく、漫画までこうなってきているのが本当にきつい。

 軽い内容の漫画でも一気読みができなくなってきていて、長編漫画を読むのを一度中断してしまうと戻るまでに時間がかかってしまう。

 読めば面白いのは間違いないのになかなか手が伸びず、結局漫画にしても既読のものばかり読んでいる。ザ・マンネリ。


 好奇心、開拓心が弱くなってきているのだ。

 僕はまだ30代にちょっと足を踏み入れただけだ。体力の衰えを言い訳にするには若すぎる。

 モノを書く人間にとって、読書や映像作品の鑑賞といったインプットは栄養補給も同然で、定期的に(というか毎日)摂取していないと、書く力もだんだん弱くなってくる。

 執筆中は他の人の作品は読まないようにしているという人も多いが、僕は逆で、公募の締め切りが目前で、執筆以外のことをしている余裕がない、そういうとき以外は毎日なにかしら読むようにしている。


 読まないと文章がガタガタになるのだ。リズム、呼吸、品格。それらの質がガクンと落ちる。

 僕は読んだ本の影響を受けやすいし、模倣もバリバリする。物語の展開や文章をパクったりはしないが(それをやったら大問題だ)、感覚的にいいなぁと思ったものはポンポン取り入れる。

 よくも悪くも影響を受けやすい僕は、ひたすら読み続けるべきなのだ(つーか読め)。二時間書いたら四時間読むぐらい、執筆量の倍は摂取していないとすぐ空っぽになってしまう。

 そんな人間が好奇心や開拓心を失ったらおしまいだ。


 義務感で本を読んでたらそりゃつまらなくなるよ――と、言い訳して自分を慰めたいところだが、もうそんなことを言っていられる時期でもなくなった。

 そんな自分を許したらおしまいだ。

 インプットを義務として捉えていて、その義務を果たせないことに「きつい」だの「苦しい」だの弱音を吐いている時点で、クソ重症である。


「とりあえずこの100冊から読んでみな」と軽く言ってくれる人がそばにいてくれたら……と甘っちょろいことを思ったりして、そんな自分がまた情けなくなる。

 僕は元々好き嫌いが激しいほうだから、合う本合わない本の傾向もはっきりしている。ただ、それにしても、ここ一、二年の好き嫌いはひどい。

 もう少し心を広く持たないと。

 でないと、まだなにも成し遂げていないのに、人生がマンネリ化してしまう。

 これは本当にまずい。


 だがしかし、僕は今夜、現状と向き合うことができた。

 問題を明確にして、今が「悩みの底」だという自覚も持てた。

 なら、まだ大丈夫だ。

『ぼんやりと、薄暗くて』は、二回目にして最早エッセイというより筆者の自己対話・自己分析になってきている。

 内容らしい内容がない。そりゃそうだ。構成などまるで考えずに書いているのだから。

 しかし、これはこれでいいんじゃないだろうか。

 イッツ・オートマチックの精神でキーボードを叩き続けているから、変にあれこれ考えてない分、結構正直な読み物になっている。


 好き嫌いが激しい。ピンと来ないものに手を伸ばさなくなってきた。

 よくはないが、だからといって絶望まではしなくてもいいか。

 それは悩みすぎである。 


 ま、気楽にいこう。

 合わなかったら合わなかったでいいじゃないか。

 次に行けばいいだけの話。無理に付き合うこともない。

 合わないものに無理やり自分をあてはめる努力をするよりも、運命の出会いを求めてメチャクチャに動き回ったほうがいい。僕はたぶんそっちのほうが性に合っている。

 好きなものを見つけたときに、そいつをとことん愛してやればいいのだ。

 硬直世界――ようはそれだけの話。


 だから、そう急かすな。お前のことちゃんと見つけてやるから。

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