第16話 ツツキ

「地球で初めてできた友達に、どうしても渡しておきたいものがあったの」

 百代はそう言うと、ズボンのポケットに手を入れ、取り出した右手には数センチほどの——宝石のようなものを握っていた。

「なにこれ?」

「説明は難しいのだけど……代々私たちの家に伝わる宝石……と言っては言い過ぎかもしれないけど貴重な原石なの」

 手渡された石は半透明だが表面は磨かれたように滑らかで、黒曜石のような発色をしていた。百代の貴重な原石という言葉から両手で気を付けて受け取った。

「……?」

 無骨な宝石のようなそれに、物珍しさから目を近づけてみると、普通の石にはない違和感に気付いた。

 その石を月明りで透かして見ると、内部は空洞になっている事が見て取れた——だけではなく、一つの不思議な光が空洞の中で漂っていることに気が付いた。

「こういうのは見たことないな」

「珍しいでしょう。私たちの星でも滅多に見つからないものみたい」

「……いいのか、もらっても」

「私の両親も、ぜひ渡して来いって言ってたから……」

「それなら……ありがとう。遠慮なく貰っておくよ」

 百代からの贈り物をポケットにしまう際に、それが少しだけ暖かく、意志を持ったように動いた気がした。もう一度その石を確認するが、何事もないように不思議な光が揺らめいているだけだった。

 

           *


 俺と別れのあいさつを終えた百代は、彼女が言う宇宙船のスロープへと歩きだし戻って行った。これで彼女に会えなくなると思った俺は、何とか会話の糸口を見つけようと百代の背中に声を掛けていた。

「百代さ、俺を呼んだ理由っていうのは……」

「うん。餅太郎君が友達になってくれたお礼と、さっきの原石を渡したかったの」

 俺の言葉に立ち止まり、振り返った百代が笑顔を浮かべ返答してくれた。

「……それに三つ目の目的って言うのは何なんだ?」

「そう……いずれ餅太郎君にも説明できると思う。そんなに遠いことじゃないと思う」

「それは、また百代と会えるってことか?」

「うん」

 百代が宇宙船に両足をついて乗り込むと、その足元にいつの間にか先程の黒猫がいた。前足で自身のひげを触りながらこちらを見ている。

 直後、宇宙船の表面に走る回路のようなものが再び光り始め、唯一の出入り口がゆっくりと閉まり始めた。

「百代! また今度たくさん話そうな、俺たち、友達だろ!」

「うん、ともだち!」

 そう言った百代は、何か考えるような表情を浮かべた後、再度、俺の方へと向き直った。

「餅太郎君!」

「なに?」

「ツツキでいいよ!」

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