第15話 かたおもい
「突然この光景目の当たりにして、いまだに信じられないけど……夢じゃないよな?」
「ふふ、そうだよ、現実」
悪戯っぽい表情を浮かべた百代は、珍しく得意気に話していた。
「本当のこと俺に伝えたかったって言ったけどさ……近所の人たち驚いているんじゃないか?」
俺が今いる位置からでも敷地外の近隣住民が目に入り、明かりもついている。
「それは大丈夫。外からは普通の学校にしか見えないから」
百代は笑顔で浮かべてそう言い、俺は一つの引っ掛かりがとれた。
「学校に入ってから、不思議な感覚があるんだけど」
「うん、これ、私たちが乗ってきたもの。ここに来るために必要なことだったの」
百代と俺の視線上にある不思議な物体。
「……宇宙船?」
「宇宙船」
「……そうだよな」
さらりと述べる百代に対して、不思議な現象を数十分体験した俺も驚きをあまり感じなくなっていた。今思えば校門の近くに黒猫を発見した時が、いちばん現実感を持って驚いたのかもしれない。
*
「三つの目的があったの」
「目的?」
「そう、地球に来た目的のこと」
百代とのミステリアスな会話を、いつのまにか受け入れてしまった自分がいる。
夜の校庭で、しかも宇宙船を背景に据えれば、人はすんなりとこの状況に慣れるものだと実感する。
「一つは地球がどのような場所なのか、この目で見たかったこと。それに地球人と会うのも初めてだったから」
「どうだった?」
「最初は……急に襲われたり、食べられたりしないかちょっと不安だったの」
「……」
百代は冗談で言っているのかもしれないが、俺でも宇宙人と会う状況が生まれたら同じように考えるかもしれない——でも百代って宇宙人なのか、怖いなんて言う印象は全く感じないけど。
「二つ目は、その地球人と友好を深めて……その、友達を作りたかったの」
百代が二つ目の目的を話し始めると、いつものように少しだけ伏し目がちに顔を赤くしていた。
「友達という曖昧な定義。それに地球人と互いに認め合わないといけない、それはとても大きな壁のように思えた」
俺は黙って彼女の言葉を真剣に聞いていた。
百代は少しだけ間を取って続けた。
「片思いだと思っていたの」
「え?」
「ごめんなさい、学級日誌見させてもらったの」
「……ああ、そうか……なんか、その、恥ずかしいな」
俺は百代の言わんとしていることが伝わり、いま彼女と同じように顔を赤くしているだろうと自覚した。
「俺も片思いだと思っていたよ」
生まれてから一度も言ったことのない言葉が、すらすらと出たことに自分でも驚いた。
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