第14話 約束

 横に倒した卵のような——コンピューターマウスのような形をしたそれを、立ちすくみ、茫然と見ていた。

 すると中央辺りに長方形の光が走ったかと思うと、音もなくゆっくりと上部から開き始めた。

 飛行機の昇降口のような形で落ち着き、内部からは明るい光が漏れている。

 恐怖や不安も感じてはいたが、この奇妙な状況に目を輝かせるくらいの好奇心に溢れていた。

 どうにか中の様子を伺えないかと考え、意を決してゆっくりと足を忍ばせ始める。

「……あっ」

 数十メートル付近まで近づいた際、扉付近に人影が見えた。思わず近くにあった花壇の影に身を潜めた。

 顔を半分出して恐る恐る確認すると、扉から二人の男性が出てきた。先程の昇降スロープを下りるとその両脇に立ち、周りを入念に確認しているように見えた。

 地面に降りた二人の男性はかなり大柄に見えた。身長は二メートルくらいあるかもしれない。ノーネクタイで黒いタキシードのような服装、その風貌から若干の威圧感も感じる。

 周囲の確認を終えたのか、開いた扉の内部に向かって何やら声を掛けていた。しばらくすると、マウス型の物体からまた一人顔を出した。

「……そうか」

 頭の隅で薄々感じていたことだが、やはり現実となった。

 この数か月間で見慣れた一人の少女だった。百代だ。

 スロープを下りた百代を確認した二人の男性は、彼女に近づくと小声で何やら耳打ちをしているように見えた。

 しばらくの間、彼らに耳を傾けていた百代は小さく頷いた後——三人揃ってこちらに目を向けた。

「やれやれ、仕方がないな」

 自分でも意味不明なことを口走りつつ、ゆっくりと立ち上がった。居場所がばれていたことによる驚きと恐怖はあった——けれど百代がいることに多少の安心感はある。

 立ち上がった俺の両足は震えていたが「落ち着け、落ち着くんだ、俺」と心の中で唱えつつ百代の元まで向かった。


           *


「……」

「……」

 百代の前に立ち、無言で目線を合わせた。彼女は俺の姿を確かめた後、背後の二人の男性に目配せをした。百代に頷いた男性たちは下りてきたスロープに戻っていく。

 その姿を確認した百代は、もう一度俺の方に振り返った。先日までよく見た優しい表情を浮かべていた。

「よう」

「……ありがとう。本当に来てくれた」

「約束だからな」

 百代と軽く会話をしながらも、その後ろにある不思議な物体に何度も目配せしてしまう。彼女も俺の視線に気付いたようで俺と同じ方向を向く。

「暫くのお別れになると思うから。餅太郎君には本当のことを伝えたかった」

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