第13話 校庭
校門を抜け、普段靴を履き替える下駄箱も通り過ぎる。まもなくして学校の校庭が目の前に見えてきた。
深夜の校庭ではあるが、学校敷地外に面する街頭から明かりが差し込んでくるため、見慣れた校庭の外観はうっすらと確認できる。
腕時計に視線を移すと時刻は二十三時五十一分を指していた。深夜の学校に一人で来るという状況は、大人でも勇気がいることだろう——ただ、自宅を出てからは不思議と不安は感じなかった。運よく誰とも出会わなかったということもあるが、誰かに見守られているような、理由の分からない安心感があった。学校の敷地内に入ってからはその感覚はさらに強くなり、足取りも妙に感じるくらい軽かった。
「……そういえば校門空いていたな」
休日の学校では、特別なイベントでもない限り校門は普段閉められていたことを思い出した。
「まあいいか……とりあえず〇時まで座って待とう」
校庭に降りるための階段に座り込み、約束の時間まで待つことにした。本当に百代が来るのか分からなかったが、とりあえず十分くらいは待ってみるか。
二十三時五十五分。ふと横を見ると先ほどの黒猫が隣に来たかと思うとその場で座り込んだ。全く動じる気配を見せないのでゆっくりと手を伸ばしてみた。
「もともと人懐っこいのかな」
黒猫の背中を簡単に触れることが出来た。続けて撫でていても逃げるそぶりを見せない。掌に癖になるような温かさを感じて少しだけ時間を忘れた。
「……あれ?」
何気なく前方を見ていると、校庭の中央辺り一点が光っているように見えた。見間違いかと思ったが、よく目を凝らしてみても、やはり一メートルくらい校庭の地面が薄く白光している。自分の腕時計を確認してみた。ちょうど〇時を回ったところだ。 百代との約束の時間だが、俺の関心は目前の現象に奪われていた。
白光する地面は光の強弱や形を変えながらゆっくりと広がっていた。その現象に合わせて校庭の砂が揺れ動いている——上部の乾いた砂が動いて、その下にある黒く湿った地面が顔を出す——見たことのない模様が浮き上がっているようにも見える。
ゆっくりと面積を広げていた光が、徐々にスピードを上げているように感じた。
「…………」
俺は既に口を大きく開けて、無言で座り込むことしかできなかった。
白光の広がるスピードが、俺の走るスピードを超えたあたりからは、瞬く間に校庭全体が光に包まれた。その地面には見たことのない複雑な模様が浮かび上がっている。
俺はこの特殊な現象を、自分以外も見ている偽りない光景と確認したかった。辺りを見回しても近くにいるのは黒猫のみで、同じように校庭に視線を向けている。
「何だ?」
もう一度校庭に視線を移した際、校庭中央の景色が先ほどと違うことに気付いた。蜃気楼のように揺らめいている。
蜃気楼のように揺らめいている。
そう思った。
壁面に回路のような光が走る二十メートル程の不思議な物体が突如として表れた。
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