第11話 理由
気持ちを落ち着かせようと、教室の窓から何気なく空を眺めていた。
大きな入道雲が時間の流れとともに、少しずつ形を変えていく。窓枠から見えなくなるまで眺めて、ようやく気持ちの整理がついた。
百代からもらった便箋をランドセルに入れた後、自身の席からを立ち上がって、教室の後方扉にまで歩いて行く——と目の前で扉が急に開いた。
「うわっ!」
「おっと、すまん」
俺の目の前に両手を軽く上げた先生が立っている。
「今ちょうど百代とすれ違ったが……もう帰ったのか?」
「はい、今さっき」
先生は俺の頭越しに教室を見渡した後、ゆっくりと確認するような口調で声を掛けてきた。
「……餅太郎」
「……?」
少しだけいつもと違う雰囲気に、ためらいがちに俺は返答を返した。
「百代と仲良くしてくれてありがとうな」
「……別にそんなことは」
突然感謝の言葉を掛けられたのは予想外だった。恥ずかしくも嬉しくもあり、思わず否定の言葉を返してしまう。
*
「餅太郎には話しておこうか」
少し考えこんだ様子だったが、俺の顔を改めてみると、何か思い至った表情を浮かべ百代について話し始めた。
まだ学校に残っている生徒たちに下校を促す為、受け持つ学年の教室を見回っていたら俺たちのクラスの扉が開き、教室から百代が走って出てきたのを見たらしい。
百代は俯きながら小走りに駆けて行き、先生にも気付かず横切っていった——その際に先生がみた百代の表情は、印象的残るものだったらしい。
「あんなに嬉しそうな百代は見たことがなかったよ」
この学校に百代が来てから、クラスの誰かと特段仲良くしているのをみたことがなく、彼女の学校生活を心配していた先生。彼女にも良い理解者がいたと思い安心したらしい。
「……先生、ちょっと気になっていたことがあって」
この機会に百代について不思議に思っていたことを聞いてみたいと思い先生に問いかけた。
「そうなんだ、知らなかった……」
先生の言葉を聞いて初めて知った——理解できた——不思議な気持ちになった——なんだろう、胸が熱い。
百代は親の仕事による都合で転校を繰り返してきた。その為、同世代の子たちとの関わり合い方が分からないと言っていたようだ。この地の子供とも仲良くしたいとも言っていたらしい。
百代が朝に早く登校したり、夕方には少し遅くまで残っていた理由。
百代は皆が気付かずにいた、教室内の片づけや花の水遣り等、自ら進んで行っていたようだ。
人付き合いが苦手という自覚のあった百代は、どうしたらクラスの一員になれるか考えていたらしい。
百代が出した結論は「綺麗な教室で皆が気分よく過ごすこと」百代らしい答えだった。
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