第5話 興味

 図書カウンターで借りていた本の返却処理が終わると、南側のテーブルを利用していたクラスメートの百代が気にかかった。

 百代のテーブル横に来たが、彼女は本に熱中しているようで俺のことに気付いていないようだった。

 彼女は小学生が読むには極めて熱い本を読んでいた。小さい体に不釣り合いな本を、目を輝かせながら隅々まで目を運ばせながらページをめくっていた。

「その本面白いのか?」

「……ふぁっ!」

 百代は俺の顔を確認した後、何故だか一秒くらい遅れて、素っ頓狂な驚き声を上げた。

 さらに自分の挙げた声を認識すると、次第に顔を赤くさせ持っていた本で顔全面を隠した。

「ごめん、急に声を掛けて」

「……」

 百代の顔が隠れた代わりに、気になっていた本の表紙が確認できた——『history of space』と表紙に書かれていた。

「興味あるのか、宇宙」

 百代は隠していた表情を目元までを見せると、俺の問いかけに対して小さく首を縦に振った。

 しばらくの間二人で視線を合わせていると、百代は手に持っていた本を俺に見せてくれた。百代が開いたページには、今まで幾度となく見てきた——教科書に載っているような月の写真と説明文がそこにあった。

「懐かしい」

「そうか……え、どういうこと」

 百代が発した言葉の意味が理解できなく、反射的に思わず彼女に聞き返した。

「あ……、あの気にしないで」

 百代は目を丸くしてそういった後、もう一度本へと視線を移した。

 若干気になるところはあるが、視線を百代に向けると既に本の世界に没頭しており、彼女の赤い表情を確認して、声を押しとどめた。

 暫くすると、また彼女がページを読み進める表情はいきいきとしきて、真剣な表情から驚きを感じている様まで変化に富んでいた。

 小さい手で本をぎゅっと掴み、充実した表情を浮かべる百代は、教室では見ることのできない姿だった。

 百代の感情が俺にも伝わってくるようで、なんだか——ぽかぽかしたような暖かい気持ちを感じていた。

 百代の時間を遮ることはやめた俺は、彼女の肩に軽く手を置いた後、その場を後にした。

「うーん……」

 昼休憩の時間が迫っている中、いつもは来ない図書室の本棚前に来ていた。

 学校に置かれている書籍の中でも、先生たちが授業の参考に活用するような本が並んでいる。

 百代が読んでいたものと同じくらいの難易度と思われる本が並んでいる。百代に触発されて専門的な科学的本を開いてみた——そっと閉じた。

「しまった。もうこんな時間だ」

 図書室の時計を確認すると、俺は独り言をつぶやき、しっかりとした足取りで図書室を後にした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る