第4話 図書室
教室に備え付けられているスピーカーから、聞き馴染みのある音が聞こえてきた。
「今日の授業はここまでだ。何か質問があれば職員室まで来なさい」
先生がそう告げると同時に、待ち遠しかった放課後のチャイムの音が鳴り終わった。教室内が騒がしくなり、慌てふためくようにランドセルを背負う男子や女子同士は集まり、笑顔で談笑を始める姿が目に入る。
俺が帰宅の準備を終えた時には、外の校庭で子供たちの楽しそうな声が耳に届いてきた。
放課後の教室を見渡すと、クラスに残っているのは数名だけだった。帰宅の準備をした俺は後方の扉から教室を出ようとした。
ふと教壇の方に視線を向けると百代と先生が何やら話し込んでいた。
転校してきてからの百代は物静かで、授業には熱心に取り組みテストの成績もよかった。
「百代、放課後も学校に残ってるみたいだぞ」
朝練習の際、クラスメートが百代について話していた言葉が頭をよぎった。
授業で分からないことでも質問しているのだろうか、放課後に残るのもそのためだろう。このときの俺は、その考えしか浮かばなかった。
*
さらさらと小さな音を立てながら雨が降っている俺は校舎の窓から校庭を眺めていた。午前中から降り続く雨の影響で、校庭の砂が浮き上がり、ゆらゆらと動いている。
六月に入ると雨が降る日が多くなった。毎年恒例のことではあるが、憂鬱な気持ちで学校に来ることがおおくなる。面倒くさいことに傘も持参しないといけないし。
何気なく窓についた水滴が流れてく様子を見ていた。下に流れていくにつれて大きくなるとスピードを上げてサッシまで流れていった。
もう一度、視線を教室に戻すと、花瓶に飾られた花が蛍光灯の光に照らされ、みずみずしく映えていた。
次の授業の準備でもするか、と考えての机の教科書受けに手を入れると、触りなれない感触が返ってきた。
机からそれを取り出すと、一冊の本が出てきた。
「……あっ、忘れてた」
本の表紙を見て思い出した。国語の授業の参考にと、先週図書室で借りてきた本だった。
時計の針は午後十二時三十分を回ったところだった。午後の授業までは少し時間がある。
借りた本を手に持つと「仕方ないな」と心の中で呟いた——まあ、せっかくだし面白い本がないか見に行くのもいいだろう、と少しだけ前向きな気持ちを持って教室を後にした。
*
西校舎にある自身の教室から渡り廊下を抜けると東校舎に行ける。東校舎は主に図書室音楽室などの専門科目を学ぶ際に使用される部屋が割り当てられている。その為に西校舎に比べて人の姿はまばらだった。そこから階段を昇り最上階まで来ると長い直線の廊下に出る。ここを突き辺りまで進むとようやく図書室と書かれたネームプレートが目に入った。
「もう少し近くてもいいのに」
図書室の前に来ると生徒たちのはしゃぐ声は、ほとんど聞こえなかった。
扉をくぐり脇に抱えていた本を手に持ち直す。右手に図書カウンターが見え、図書室を訪れた目的を達成するためカウンターに向かった。
*
櫃休憩時の担当である上級生であろう図書委員に本を渡し、手続きが終わるまでカウンターの前で待っていた。周りを見渡すと、次に読む本を選ぶため、本棚の前で吟味する者や机に座り分厚い本を熱心に読む女子——百代がいた。
「ひゃ……」
右手を上げて声を掛けようとした際、カウンターの中にいる図書委委員の女子が少し強めの視線を向けてきた。
「すみません」
ゆっくりと上げた手を下げ、少しだけ強張ったであろう笑顔とともに、謝罪の言葉を伝えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます