短編集

春瀬莉久

豪華な朝

 窓からの朝日で目が覚める。君がつけている香水の香りが隣から漂ってきた。とても良い朝だ。

 君の頭をそっと撫でる。君の細くて白い手が、握って欲しいと僕の方へ伸びてくる。まるで甘い誘惑のようだ。少し冷たい君の手を、僕は優しく握り返した。

 君のスマホのアラームが鳴る。時間を確認していなかったが、アラームより早く起きてしまっていたらしい。君は身じろいで、ゆっくりと瞼を開けた。

「おはよう」

 手を繋いだままアラームを止めて、君に声をかける。君は小さな欠伸をしてから笑った。

「おはよ」

 お互い、手に少し力が入る。握っている感覚と、お互いの体温を共有する。君の微かな脈が伝わってくる。僕の体温を伝える。僕らは互いに微笑んで、暖かな朝を感じていた。


 君のスマホのアラームが再び鳴る。君は慌てて手を離し、スマホの時計を見て肩を落とした。

「今日、仕事?」

「うん、ごめんね。もう出ないと」

 君は豪華なベッドから抜け出し、放り投げてあった下着とシャツを着て、壁に掛けてあったスーツを手に取った。

「昨日はすっごい楽しかったよ、ありがとう」

 君は一番の笑顔を僕に向けて、僕の頬に軽くキスをした。

「じゃ、電話してくるね」

 夢の出口へと向かう君の背中は、少し寂しそうな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編集 春瀬莉久 @HARUSERIKU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ