第7話

○どうするのかフレッド


 実は、フレッドには、表に出せない、深いいきさつがあった。

それを利用され、本人の知らない所で転がる雪玉のように膨れ上がって大きな陰謀となり始めていたのだが、秘密裏に進んでいるため、フレッドは知る由もなかった。

 

 あの夜は、ただ自分の思いだけで、レイラを連れて逃げようとした。

その後は、悩ましく考え込み、先走って失敗をしたと自分の行為に唖然とするフレッドだった。


ジュリアに咎められ、我に返ったものの、レイラを儀式に行かせたくない、本気でレイラを連れ出したいと思っている。


 チェスの最中にさりげなく尋ねたことがある。

 「儀式がどんなものか、ご存知でしょうか」

アルバートはなぜか厳しい顔つきになる。

そして

「あまり、聞かないで欲しいな」

と、苦笑いに変える。


話しずらいのはわかっていた。

けれど、問いたかったのだ。

言葉として聞きたい。


「レイラさんを儀式の日まで守るのが私の任務です。しかし儀式のことについては何も知らないのです」

「そうか、そうだったね。でも、実は、僕もすべては知らないんだ。

君と同様、儀式の日までのミッションだからね」

アルバートが腕を組みながら言う。

軽い拒絶か。


「その時、その場での指示で臨機応変に動いているだけで、自分の乗っている船か何のために、どこへ行くのかさえわからない。そんな気分です」

アルバートはゆっくりとうなずきながら聞いている。

フレッドは。自分のボルテージがあがっていくのがわかるが、じっと抑えていた。

「ご存知のことだけでいいのです、ぜひ」

しつこく食い下がる。

「うーん、そういうことならわかったよ」 

根負けしたのか、不本意だが、これも自分の役割なのかもしれないとつぶやき、アルバートは言葉を選びながら儀式について知り得たことを話してくれた。


城の最高会議が決定し、代々続いている。

この度は、ジョーンズ家のエマが、選出され任されている。

特別な少女は、世俗とは離れて、安全に守り育てられ、城に送られ、選ばれたパートナーと儀式を迎える。

特別な少女の16歳の誕生日が儀式の日となる。


アルバートは、儀式の詳細は知らないと言う。

たとえ他に知っていることがあるとしても、それは憶測でしかなく、語る立場ではないとも言った。


「儀式が近づいたら、エマさんが詳細を話してくれるはずだから、それまで待とう」


アルバートは、あまり考え過ぎないようにと、考えても、現状は変わらないんだ、問題が発生したら、その時に考えよう、と諭された。

その後、アルバートは城に上がり、様々な仕事を兼務するようになり、話すことも会うことさえ、できなくなった。


 儀式とは、知れば知るほど、理解に苦しむ。

なんのための儀式なのか。

なぜレイラが、特別な少女となっているのか。

とうてい許されるべきではないイニシエーションだと、レイラが生贄にされるイメージを想像したこともあった。


特別な少女だからと、言い聞かされ、運命を受け入れ、まわりの言う通りに、健気に従っている。

そんなレイラを、幼さが残る頃からずっとそばで見つめ、影として守り寄り添って生きてきた。


一度は、暴走してしまったけれど、後悔はしていない。

儀式に関して、さらに受け入れ難いことがあったなら、即、連れて逃げようと、心に決めていた。

ジュリアの視線を気にしながも

レイラのために、今、何をすればいいのか、どうするべきかと自問自答していた。


 久しぶりに会ったアルバートとは、通りの関係で、変わりはない、

「何が相談があればいつでも聞くよ」

と言ってくれた。

「その時はお願いします」

と今はそう答えるしかない。

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