第3話
○芽生える不安
「ふ、ふ、ふ」
レイラのため息のような笑い声が聞き取れ
振り向くと、ケットで顔を隠す。
「Good morning」
「Morning」
「起きて着替えましょう」
「はい、今日は白でお願い」
アルカイックスマイルの口元も愛らしい。
クローゼットから白いドレスを選び
トレイに乗せて運ぶ。
脇を押さえながらベッドから降り
衝立の後ろに立つ。
誰にともなく
「左の脇のここが痛いの」
そう言ってネグリジェを脱ぐ。
「どうしたのかしらちょっと失礼」
キャミソールをめくると脇の下に
擦れたような痣があった。
あ、瞬時に光景がフラッシュバックする。
影の剣の位置だ。
コルセットもしていないネグリジェ姿だから痛みもあったに違いない。
何事もなかったかのように扉の横に影が立っている。
手を動かしながら、衝立越しに微動だにしないで立つ影を一瞥し
「どうしたのかしら何か覚えはある?」
「うーん、何もわからないわ」
首を傾げまた微笑む
着替えがすむと鏡台に移り、肌を整え、髪を結い上げる。
メイドが朝食をセットしている。
屋敷には通いのメイドが2人いる。
食事も全てこの部屋で済ませているのだ。
内ドアを開ければバスルームがあり、クローゼットも、作業部屋も、庭に続くテラスもある。
食事の後は、窓際のソファに座り、刺繍をして、本を読み、ねだられ時々読み聞かせをする。
そのうちに、姿勢良く座っていたレイラがすっとソファにもたれかかる。そして、沈み込む。
意識が飛び、半裸に瞼を開け夢うつつ夢心地になる。
高い窓から陽が差し込む
「カーテンをひいて」
影が動く。
レイラは夜歩く。
毎夜のルーティンだ。
昼中は目を離すことなく、そばにいるが、夜はベッドに寝かせてから眠るようにしていた。
夜も影がいる。
常に付かず離れず見守っている
感情が読み取れない端正な顔立ちで、背が高く動きも機敏で有能な兵隊だ。
直感か、インスピレーションか。
昨晩は眠らず待っていたのだ。
一抹の不安を払拭するためだったが、今は得も言われぬ不安に囚われている。
明日は、叔父が訪ねてくる予定だ。
月に一度来てくれる。
どう報告するべきか。
手を伸ばし、ずり落ちそうになっている刺繍リングを膝に戻しながら、夢うつつのレイラを見つめていた。
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