聖獣の乙女は静かに暮らしたい~婚約破棄を取り消したい? ごめんですー!~

ことはゆう(元藤咲一弥)

婚約破棄したならもういいですよね?





「ルーナ、お前のような輩とは今宵を持って婚約破棄だ!」

「そういうことなの、ごめんなさい」

 私ルーナ・プレーナにそう言うディーフェ王子と、キニス令嬢。

 見下し笑いが酷く気に障ります。

 私ははぁ、と息を吐いて背を向けます。

「分かりました、では今後はお二人で頑張ってくださいね」

 そう言って夜会を後にしました。



 向かう先は聖獣のいる私の館。

「ノワ、ノワ」

『ルーナか、どうした』

 館の庭にいる聖獣の白銀の大狼フェンルリであるノワに声をかけます。

「私、婚約破棄されてしまったわ」

『何?』

「婚約破棄するような相手の国を守りたくないの、だから出て行く。ついて来てくれる?」

『勿論だ、支度をしてくれ、背中に乗せよう』

「ありがとう」

 私はさっさと必要な荷物を、マジックリュックに詰め込んで背負い、ノワの背中に乗ります。

 勿論書き置きを残して。


『どこがいい?』

「静かなところがいいわ」

『わかった』


 ノワはそう言うと、私を乗せて月に照らされる夜空を駆けて行きました。



 ノワの上で眠っている間に、つきました。

 人の居ない広い場所。

 山があり、川があり、海があり、広い場所。


 ノワが遠吠えをすると、一瞬で一軒家ができあがりました。

 ノワは聖獣の姿から、獣人に姿を変えて私の荷物を持ちます。

「ここで、二人で生活しよう」

「ええ、ノワ。貴方と一緒なら」

 私がそう言うとノワは優しく微笑んで頭を撫でてくれました。





「ディーフェ!! お前はなんと言うことをしてくれたのだ!!」

 ディーフェとキニスは国王に呼び出されて怒鳴られていた。

「『ディーフェ王子に婚約破棄されました。見下し、婚約破棄するような方の国は守りたくないので国を出ます、探さないでください』とルーナは出て行ったんだぞ!!」

「あんな女に一体何ができるというのです父上?」

 ディーフェはまだルーナを見下したように喋る。

「馬鹿者!!」

 実父たる国王は激怒した。

「ルーナ嬢は、彼女は聖獣の乙女だ!! 我が国を守っていた聖獣白銀の大狼フェンルリを使役できる唯一の存在!! 我が国を守っていたのはその聖獣だ! 意味が分からんのかここまで言って!!」

「ま、まさか……!!」

 ディーフェは漸く事態を理解し、顔面蒼白になった。

「その通りだ!! 館にいったら聖獣はおらずもぬけの殻! ルーナ嬢は聖獣とともに国を出て行ったんだ!!」

 国王は頭を抱える。

「聖獣の結界が無くなった今、既に魔物が我が国に侵入し始めていると聞かされている、どう責任をとる!?」

 国王は青ざめる二人を怒鳴りつけた。

「ルーナ嬢と聖獣を連れ戻すまでお前達は国土を踏むことは許さん!! いいな!!」

「そ、そんな父上!!」

「あ、あんまりですわ国王陛下!!」

「うるさい! 連れて行け!!」

 わめく二人を連れて行かせると、国王は再度頭を抱えた。

「どうする、どうしたらいい?! この小さな国が存続できていたのは聖獣のおかげ……既に被害がでている、どうしたら──」





「ルーナ、今日は魚を捕ってきたぞ」

「まぁ、美味しそう」

「料理してくれるか?」

「ええ、勿論」

 私とノワが生活を始めて半年、少しだけ疲れますが、それでも充実した毎日を送っていました。

 聖獣の力で畑や果樹園を作り、聖獣の力で作物を一気に成長させる。

 便利です。


「ノワって本当何でもできるのね」

「まぁ、聖獣だからな」

 食堂でそう話ながら食事を取ります。


「今日も畑仕事を頑張ろうか」

「はい」


 ノワとの生活は楽しくて素晴らしいものでした。



 ですがそれに水を差す者が現れました。



「やっと……見つけた……!!」

 少しみすぼらしい姿になってますが、ディーフェ王子とキニス令嬢でした。

「……何のようですか?」

「お願いだ!! 僕が悪かった!! 婚約破棄は無かったことにして国に戻ってきてくれ!!」

「お願いルーナ!! 私が悪かったの!! だから国に戻ってきて!!」

「嫌です」

 即答してそっぽ向くと二人がすがりついてきました。

「そんなこと言わないでくれ!!」

「お願い!! そんなこと言わないで!!」

「言わないでもなにも、婚約破棄して私が悪いように言ったのは貴方達でしょう?」

 私は二人を払うとノワの元に向かいます。


「ノワ、二人と、一緒に来た人達を追い払って」


「わかった」

 ノワはそう言って聖獣の姿になり、二人と一緒に来た人を追い返しました。


 それからです、毎日のように「戻ってきて欲しい」、「私達が悪かった」と同じ言葉を繰り返してやってくるようになったのは。


 追い返しても追い返してもキリがありません。


 しばらくするとノワは言いました。

「ルーナ、クトゥス王国他の国の属国になったぞ」

「そう」



 私はここで、二人にその事実を言いました。

「と言う事でお二人さん、どうぞ戻ってくださいな。私は必要、ないでしょう?」

「それとも今度こそ本当に食い殺されたいか?」

 二人と従者達は悲鳴を上げて逃げていきました。



 漸く静かになったと思いました。

 ですが、クトゥス王国を属国にした国の偉い方が来て──


「どうか、聖獣とともに私達の国に来て欲しい」


 と、言ってきました。

 私は断り、ノワが追い返しました。



 それと、あの二人は母国で針のむしろになり、いられなくなり何処かに逃げ隠れるように暮らしているそうです、私の知ったことではありませんが。



 私達の静かな暮らしが来るのはまだ遠そうです。

 ですが、それでも、幸せな生活が今あるのは確かです。







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