第12話 ノア大躍進

一息ついたところで、ノアの活躍についてお話しましょう。

セリカはお茶と菓子を補充する。

ーなにやら企てがありそうですねー

ええ。

マリアルイス・ハーロットが仕組んだ謀。ですが、この謀が彼女の思惑とは裏腹にノアの名を一躍有名にしてしまうのです。

さて、どのようにノアは名をあげるのか?

お聞きください。

          1

朝。

メディテーションで自分の調子を確認したノア。

「そうだ。折角だから『もう1つの魔力回路』に挑戦してみよう」

ノアは全身を巡る魔力のスポットに気付いていた。

頭、胸(心臓)、両手、両足の6ヵ所である。

そのスポットを繋げたものが魔力回路である。

そして、ノアは右手の魔力回路に異常をきたしていたわけである。

「魔法はイメージ。魔力は精神の力。なら…」

これもノアの持論だが、的を得ているものである。

ノアは先ず、頭に2つ目の魔力スポットをイメージし始める。

「魔力の色は透明か白…」

ノアはイメージを強め色のない魔力をイメージする。

暫くしたところで…

「痛ッ!」

頭に激痛が走る。

覚えのある痛みだ。そう、魔力回路を痛めたときの右腕の痛みと同じだ。

気を抜くと気絶しかねない痛み。気が遠くなるが、ノアは逆の発想をする。

「つまり、この痛みに耐えきれば新しい魔力回路を張り巡らせることが出来るってわけね。そうすれば、精霊魔法も神聖魔法も使えるようになるハズ!よゆー♪」

とはいっても、今は止めておき、校外実地訓練に臨む事にするノアだった。

            2

ノアは鼻歌を歌いながらキッチンでお湯を沸かしている。

そして、ゴリゴリと珈琲ミルで豆を挽いている。

珈琲はとても貴重なものなので、なかなか市場には出回らない。ノアはキャラバンから「商品に出来ない2等品の珈琲」を貰っており、それを飲もうとしているのだ。

「おはようございま…」

と言い、ニーナが部屋から出てきたところで動きが止まる。

「の、ノアがキッチンに立ってる…」

今まで1度もお茶を淹れなかったノアが「何か不思議な香りの飲み物を用意している」のだ。

「あ、おはよー。服、ありがとうね」

いえ、と短く答え、ノアの作業を覗き込んでくるニーナ。

「何をしてるのです?」

「ん?珈琲淹れてるの」

「こーひー?何ですか、それ?」

「ムフフ、良いものよ。2人の分もやるから待ってて」

ニーナはうなずき、部屋から本を持ってきて読み始める。

「何か不思議な香りだな」

ナイルも香りにつられて起きてくる。

ちょっと待っててね~。と、ノアは挽いた豆にお湯を注ぎ珈琲を抽出していく。

「出来たよー」

と、ニーナとナイルの前にはカップに注がれた良い香りのする謎の黒い液体。

「飲めるかな~」

とノアはそのままコクコクと飲み始める。

ニーナとナイルは顔を見合わせてコクリと頷いてから恐る恐るその黒い液体を口にする。

「「苦っ!!」」

ニーナとナイルの声がハモる。

「あはは、やっぱりそうだよね?」

ノアは反応を予測していた様だ。

「確かに苦いが、私は嫌いな苦さではないな」

「そうですね。苦くて驚きましたが、これはこれで美味しいですね。何より香りがいいです」

ノアは2人が珈琲を受け入れてくれたことが嬉しかった。

「南国の特産品で、結構、高価なものなのよ」

と、ノアは珈琲の説明をする。

クイッ、と珈琲を飲み干し、ん~っと伸びをするノア。

「あら?ところで貴女、首飾りはどうしたのです?」

ニーナはノアがいつの間にか首飾りをしていなかったことに気付く。

「ああ、って今更?あの石像に殴られた時に弾け飛んじゃった」

ノアは遺跡でファムムを庇い石像に殴られた時の事を2人に話す。

不思議な空間で母親にあった夢の事。

「…と、いうわけ。きっとお母さんが守ってくれたんだね」

そうでしたか…と、ニーナ。

「さて、今日は無駄に早いからもう行くね!」

機嫌よく出ていくノアを2人は快く送り出した。

           3

ノアが意気揚々と部屋を飛び出していったその頃、マリアルイス・ハーロットは自室でゆっくりと気だるげに目を覚ます。

隣には昨晩の相手の男性が眠っている。

マリアルイスはイースリアス神聖帝国随一の豪商の家の一人娘である。

幼い頃から甘やかされ育ってきた。

更に、お金の力というものもこれでもかと言うくらい教え込まれてきた。

奔放にわがままに育つ。自分の思いどおりに行かず癇癪を起こすこともよくある。身体の発育もよく、男遊びは14で覚えた。

隣の男性もこの学校で見つけた遊び相手の愛人である。

「おはよう、起きてたのか」

男が目を覚ましマリアルイスに声をかけると。不機嫌そうに男のおとがいに指を当て顔を持ち上げる。

「おはようございます。マリアルイスお嬢様、でしょ?口の聞き方に気を付けなさい」

ぐっと悔しそうな表情をする男性。

「あら?いいの、私に向けそんな顔して」

と、マリアルイスはベルを鳴らす。

「何でしょう、お嬢様」

「ああ、この男の家に貸しているお金の利息を今月から倍にして頂戴」

とたんに男の顔が青ざめていく。

「失礼しました、お嬢様。お許し下さい」

と、男性は床に両手をついて謝る。

「分かればいいわ。私を愉しませて、満足させればあなたの家の借金は減っていく。逆に怒らせれば、利息は増える」

腕を組み、男を見下ろすマリアルイス。

「あなたのお父様とお祖父様が事業に失敗なさって多額の借金を作られた。その分の借金を肩代わりし、子爵家の体裁を保たててあげたのは、だあれ?」

「ハーロット家の皆様です」

分かればいいわ。と頷くマリアルイス。

言うまでもないが、この男性の家を嵌めて借金地獄に叩き落としたのもハーロット家である。

「だから、あなたは私の奴隷なの。昨晩はなかなか愉しめたわ。これからも飼ってあげるから安心なさい」

男は悔しそうに「ありがとうございます」とだけ、言う。

「でも、昨晩の事は昨晩の事。今の失礼な態度は、また別の話」

マリアルイスはくっくっくと喉を鳴らす。

「お嬢様、お許しを。如何すれば許していただけますか?」

そうねぇ…と答え、羽織っていたローブを脱ぎ捨てるマリアルイス。

「今からもう一度、私を愉しませてくれたなら、許してあげるわ」

「か、かしこまりました」

と、男性はマリアルイスと事に及んでいく。

「お、お嬢様。本日のご予定が…」

マリアルイスは男を突飛ばし、侍女風の少女が止めに入る。

「あなたも、自分の立場が分かっていないようね」

それを聞いた侍女はビクッと身体を震わす。

この侍女の少女もハーロット家により貶められたのだ。

「あなたが此処にいられるのは誰のお陰なの?ちょっとムカつくから、軽く10人くらいに飽きるまで犯させることにするわね?」

侍女の少女が青ざめていく。

ハーロット家の権力はそこまで絶大なのだ。

「お、お許し下さい、マリアルイスお嬢様」

侍女の少女も床に手をついて謝る。

この少女もハーロット家によって多額の負債を負わされた家の者である。

マリアルイスが娼館に売り飛ばすくらいなら侍女として飼ってあげる。と気紛れで助けた少女だ。

「はぁ~、仕方ないわね。そうだ!なら、あなた達2人が今からしなさい。見て愉しめればとりあえず、許してあげるわ」

マリアルイスに逆らうことが出来ず、2人はマリアルイスを愉しませるためだけに男女の行為に及ぶ。

部屋には只、只。マリアルイスの嘲笑が響き渡るだけだった。

            3

マリアルイスが歪んだ欲望を満たしている時。一方のノアは朝食をすませ、校外授業訓練の集合場所に来ていた。

「しまった…気合いが乗りすぎて早く来すぎちゃった…」

最初のクエストで痛めた腕も万全!

久しぶりに全力で魔法をぶっぱなす事ができる!

ノアのやる気はすこぶる高い。

「見てなさいよ~。Cランクの汚名を挽回してやるんだから!」

因みに、汚名は返上であって決して挽回してはいけない。単純にノアの勉強不足である。

「いいや。他の人来るまで魔力回路の続きしよう」

魔法探求のためなら時間は無駄にしないのがノアの主義である。

静かに息をして魔力の流れを感じる。頭から胸への回路を繋げていかなくてはならない。

頭の痛さはなかった。それは、2つ目の頭の魔力スポットが完成できたことだとノアは核心する。

頭のスポットから首、胸へと激痛が進む。

この痛みをノアは「気を抜くと気絶する」とか「傷口に赤熱するくらい熱した針金を通す感じ」と表現している。

痛みは胸に。頭の比ではない痛みだ。「心臓を動いたまま熱湯に浸けている感じ」の痛みが襲う。「血液が沸騰しそう」ともノアは表現する。

次第に胸の痛みが引く。そして、胸の痛みが完全になくなる。

「よし、じゃあ残りは面倒だから一気に…」

胸に溜まった「沸騰した血液が全身を巡らせ」そのあと火傷した後に「赤熱した針金をゆっくりと通していく」感じの痛みをただ、耐える。

そして、痛みがなくなった後、心臓から全身に「水路に雪解けの冷たい水が一気に流れる」感じで何かがながれ、全身を循環しだす。まだまだ、弱く少ない水の量だ。

「出来た…」

ノアは2つめの魔力回路を完成させたと核心した。

「何が出来たのです?」

と、声をかけられる。

ノアがゆっくり目を空けると…

「げっ!先生…」

ノアの天敵、担任の女性の先生が怪訝そうにノアを見ている。

「じゃなくて、おはようございます、先生」

「とりあえず、宜しい」

気が付くと、回りにはそのやり取りを見てクスクス笑っている黒魔法科の生徒達がいた。

「先生、今何時くらい…ですか?」

「?集合時間の15分前。朝の8時15分ですが」

ノアが部屋の時計を見た時は7時を少し回ったところ。1時間くらい集中していたのだ。

「え?そんなに経ってたの…」

「集合場所に来てみたら、立ったまま目を閉じて顔をしかめている貴女がいた。そんな状態です」

なるほど。と頷くノア。

「ところで、先程の質問に答えなさい」

ノアは一瞬、答えるか迷ったが、とりあえず本当の事を答える事にする。

「えーっと、信じてもらえる貰えない、何言ってる、言ってる事分からないとかはぬきとして、2つめの魔力回路の開通が終わった…です」

その発言を聞いた面々はただぽかーんとしていた。

ノアの思っている様な表情をするクラスの面々。

「先生、あたしのことはいいから。そろそろ時間よ…ですよね?早く行きましょう!マリアルイス・ハーロットがいないけどね」

と、ノアが先生を急かす。

一同はマリアルイスを恐れて何も言わないが、担任は決断する。

「ノアさんの言う通りですね。予定の刻限も過ぎてますし、時間はきまってますので参りましょう」

担任の決断に一同は従い、学校を後にする。

……

街を出て30分ほどの平原に着く。

「では、今日は校内で出来ない、実際に魔法を使ってみる練習です」

ノアを含むCランクの生徒5人が痛い視線を浴びせられる。

「ま、せいぜい上手くやれよ、Cランク」

と男子が馬鹿にしてくる。

「ちょっと」

と、ノアが呼び止める。

「あなた、いっっっっつもあたしのおっぱいばっかり見てるけど、今日はあたしの魔法に刮目しなさいよね!」

と自信満々に言い放つノア。

「そこ、私語をしない!先ずはあなた…」

と、今、Cランクの生徒を馬鹿にした生徒に魔法を使わせる。

その生徒は課題の魔法をそつなく使い、拍手を受ける。その時、どや顔でノアを睨み付けるが、ノアは大あくびで気にしてない様子。

「さて、次は…」

と、次を指名しようとした時。

「先生、向こう。何か見えます」

「やだ、あれってもしかして…」

魔法を放った方向から、魔物の群れが迫ってきていたのだ。

『魔物!?』

と、慌てる生徒達。

「落ち着きなさい!落ち着いて対象を…」

予想外の魔物の群れの襲来に担任も同様する。

そこで、ノアは意気揚々と乗り出していく。

「ねえ、先生。あたしがあの魔物の群れをやっつけたら、評価改めてくれる?」

「何を言ってるのです?今は退避が優先です!」

「逃げるより、やっつけた方が早いからサ。まー、見ててよね!」

と両手を前に突き出すノア。

「先ずは、あの数を露払いしまーす。使う魔法は…」

と、ノアの広げた両腕の前に魔法陣が展開される。

海王ダゴンを象徴する魔法陣だ。

「ざっぱーん、と1流し!海王超流波(ダゴンメイルストローム)よ!」

魔法陣から荒れ狂う大波が解き放たれる。

遠目に見えていた魔物が大波の衝撃に飲まれる。

全員がぽかーんと口を開けて見ている。

「ノアさん!まだまだ魔物は残っています!危険ですから退避を!」

「冗談でしょ?絶好調なんだから続けていくわ!」

と、ノアは今度は左手を開いて突き出す。

左手の先には蛇王アスタロトの魔法陣が展開される。

「さて~!水の攻撃でダメージを与えた後の撃ち漏らしには、やっぱり、コレよね!」

魔法陣の回りに雷光がほとばしる。

「蛇王雷毒衝(ヴァイパー・サンダー)!!」

ノアの魔法陣から蛇の様な雷が解き放たれる。

獲物を見定めた蛇が次々と魔物に噛みつき、伝播していく。

「す、凄い…」

「何処がCランクなんだよ…」

ノアの本当の実力を目の当たりにするクラスメイト達。

「あれ?」

「どうしたの?」

「ノアさん、今詠唱、した?」

「そういえば…っ!それって凄いことなんじゃ…」

ノアの方を振り返る生徒もいた。

地上の魔物を一層したところも束の間、空に羽ばたく何かの影が見えてくる。

「わお!ねえ先生!!あれって鳥女?」

ノアの指先指す先には、グラマラスでスタイルの良い女性の身体に腕部が鳥の翼。膝から下が鳥の味。お尻の辺りに鳥の尾羽を生やした亜人の群れが迫る。群れを統率しているであろう個体の羽は他のものと比べて美しい。尚、服は身に付けておらず秘部などは羽毛に覆われている。

10匹程の群れだ。

男を獲物として持ち帰り、種を増やすために使い、孵った雛(子供)のエサにする。それが鳥女、ハーピーである。

「確かこの辺りには生息してないって話よね?」

ノアは先日ちょいワル先生から聞いた話を思い出す。

「ねえねえ、鳥女、すんごいおっぱいよ?あなた拐われてみたら?甲斐甲斐しく世話やいてくれるって」

と、男子生徒をからかうノア。

一瞬、良いかも?と思ってしまう男子生徒。

「ふざけてる場合ですか!鳥女は拐った男を雛のエサにすると言われてます!」

グラマラスで美しい鳥女達にもハーレム的な扱いをされると、思い、一瞬「良いかも?」と思った男子生徒達が数名居たことは想像に難しくない。

「彼女達は猛禽の視力を持つと言われています。もう、逃げられません。皆さん、まとまって!何とか迎撃しないと…」

と、先生も慌てている様子だ。

生徒達にも動揺したりや不安から恐慌状態になる者も現れる。

迫る鳥女の群れ。

そんな中、ノアは堂々と胸を張り、口許は自信に満ち溢れた笑みが浮かんでいる。

その堂々とした姿に安心感を抱く者も中にはいた。

「飛んでる鳥女か…なら、これよね?」

と、右手を握り込み少し腰を落とし、魔力を集中する。

握り込んだ拳の辺りに魔法陣が展開される。

暴風の覇王ベルゼバブを象徴する魔法陣だ。

鳥女の群れを十分に惹き付ける。

ノアの魔法が攻撃範囲に鳥女の群れを捉えるのと、鳥女が攻撃体勢をとるのがほぼ同じ間合いだった。

「覇王暴風拳(ダイナスト・ブロウ)ッ!!」

ノアは拳を突きだし、魔法を解き放つ。

空中に暴風が渦巻く。

攻撃体勢に入っていた鳥女達は回避する間もなく巻き起こる暴風に吸い込まれて行く。

離脱しようとする鳥女の羽ばたきの力よりも魔法の威力の方が上であり、そのほとんどが吸い込まれ小間切れにしていく。

だが、最後方の上位種だけはわずかに魔法の攻撃範囲外だったためか事なきを得て逃走しようとしていた。

勿論、それを見逃すノアではなく、すでに次の魔法の体勢に入っていた。

ノアの両手に風のエネルギーが収束している。

「覇王十字斬(ダイナスト・クロス)っ!」

ノアは左右の手で大きく十字を書く。

解き放たれた風は巨体な十字の刃となり、逃げようとしていた上位の鳥女を十字に切り裂く!

皆が呆気にとられている間に、鳥女は全滅。魔物の影も見えなくなった。

「ま、ざっとこんなもんでしょ?」

と腰に手を当て胸を張るノア。

歓声がおこり、クラスメイト達がノアを取り囲む。

「先生。全部やっつけたけど、どうするの?」

呆気にとられていた教師はハッとして手を2度叩き、この場に留まるのは危険だと判断。今日の校外訓練は中止として学校に戻る指示を出す。

学校に戻るまでノアはずっと話の中心にいた。

特にテストでCランクを与えられた女生徒がノアに話かけている。

街の門で一行は遅れて行こうとしていたマリアルイス・ハーロットに遭遇する。

あれ?という顔をするマリアルイス。

「マリアルイスさん。随分な遅刻ですが?如何しましたか?」

「い、いえ。急な商談が入りまして…」

「そうですか。何はともあれ今日の校外訓練は中止です。戻られて大丈夫ですよ」

と、教師がマリアルイスに言葉をかける。

マリアルイスは特に何も言えず曖昧で素っ気ない挨拶をしただけで去って行く。

「ほんとノアさん、すごかったね」

「ほんとだね。急に現れた魔物の群れをを1人であっという間に壊滅させちゃうんだもん」

と、生徒達の声が耳に入る。

その声が聞こえた途端にマリアルイスは足を止め、憎悪のこもった目線をノアに飛ばす。

マリアルイスの計画では魔物に教われたクラスメイト達を遅れて登場した自分が綺麗に片付けて、学内での評判や地位を上げようとしていた。勿論、魔物達をけしかけたのもマリアルイスである。

それを自分が見下していたCランクの女がいとも簡単に片付けた。しかも、よりによって、自分が一番気に入らなかった女に、である。

この時のマリアルイスは怒りと憎悪でワナワナと震えていたのは言うまでもない。

「ノアさん、ちょっと」

教師がノアを呼び止める。

ノアは身構えて答える。

「この後、すぐに執務室に来なさい。話があります」

ノアは昨日のお説教の嵐が思い出し、肩を落とし、気のない返事をしてトボトボと教師について行ったのだった。

そのノアの後ろ姿をいつまでもマリアルイスは睨み付けていた。

           4

昨日、悪夢を見させられた執務室に再び呼ばれるノア。

「先ずは掛けなさい」

と昨日とは違い椅子をすすめられる。畏まって座るノア。足なんか組んだらどやされる、と心のなかで思っている。

教師は水をノアの前に出す。

私は水しか飲まないから、と付け加える教師。

「さて。先程は凄かった。もう、それしか言えません。貴女の機転で助かりました。ありがとう」

とペコリと頭を下げる。

そして、何故テストの時にその実力を発揮しなかったのかを問う。

「あれ?あの時はですね~、右腕の魔力回路がショート?焼き付いてしまった様になっていて魔力が通わなかった…です。1ヵ月くらい右手は一切使えなかったのよ…です」

時折、言葉遣いを直しながら話すノア。

「つまり、あの時は本調子ではなかったと?」

「そゆこと…です」

「何故それを言わなかったのですか?」

一重に面倒だった。信じてもらえないと思った。とノアは語る。

「そうですか。よく、分かりました」

教師は咳払い。

「さて、貴女の本当の実力を知り、いくつか提案というかお願いがあります」

ノアは。なんでしょう?と身構える。

「1つは、Cランクの子達の面倒をみてもらえないか、というお願いです。貴女は彼女達と仲が良かったように見えますが…」

「はい。同じCランク同士、仲良しだと思いますよ」

それなら是非お願いします。と頭を下げる教師。

昨日、さんざん絞られた先生から頭を下げられ、困惑するノア。

「少なくとも、貴女は黒魔法の使い手としては私より上です。黒魔法の事で教えることはありません」

じゃあ、それならと顔を明るくして身を乗り出すノア。

「ですが、生活態度云々は別の問題です。こちらは一切手を緩めませんよ!」

あはは、とから笑いのノア。

さて、と姿勢を直してあらたまる教師。

教師の提案はこんなものだった。

「万人に使える魔法の様なものがあれば、魔法そのものの幅が広がる」というもの。

「?それって3系統に寄らない魔法ってこと?……ですか?」

ノアは小首を傾げて訪ねる。

「そうです。貴女の発想なら何かやってくれるのではないかと思いました。漠然とした事しか言えませんが、やってみませんか?」

「やる!……やります!!!」

「宜しい。では、宜しくお願いします」

と、ノアに退室を促す。

ノアはペコリと一礼して部屋を退室しようとしたところで、ああ、とノアを呼び止める。

「ところで、貴女。武技はどうしてるのですか?」

「え?何もしてな…ませんけど?」

怪訝そうに、答えるノア。

ため息をついてから教師は続ける。

「武技の授業、最低1種類は必須科目です。卒業できなくなりますよ?決めたら私に知らせなさい。腕の怪我で授業に出られなかったことは私から武技の担当官に伝えておきます。以上です」

はあ、と返事をしてから一礼し、退室するノア。

部屋を出た所で、同じCランクの生徒達が待っていた。

「みんなどうしたの?」

めいめいが今日のノアが凄かったことを話す。

「そっか、ありがと。そうだ、ご馳走するから、これからご飯行かない?良いお店をしってるから!そこであなた達がどの魔法のどういうところが苦手か聞かせて!」

生徒達は喜んで提案を受け入れた。

……

ランチをしながらノアは丁寧に全員の苦手ポイントを聞き出す。

「みんな、勘違いしないで欲しいのは、あたしも魔法習いたての頃は上手く出来なかったってこと」

10歳で例のちょいワル先生から魔法を習ったノアは1日も書かすことなく魔法の修練をしているのだ。

「上手く行かないのはね。みんなの魔力の絶対量が少ないからだと思うのよね」

と、日課のメディテーションのやり方を教え、すすめる。

まずは魔力の量を増やすこと。地道だけどそれが一番の近道。とノアの持論。

ノアの言う通りにメディテーションをしてみる生徒達。

「うんうん。良い感じ!とりあえず、メディテーションを1週間くらい続けてみて。来週、許可取って外で訓練しよ!あたしが絶対、あなた達に魔法使わせてあげる!」

ノアの自信に満ちた言い方は友達を安心させるのに十分だった。

そして、Cランクの少女達は次の週に魔法を上手く使えている姿に心を踊らせているのだった。

           5

部屋に戻ったマリアルイスは荒れに荒れていた。

部屋の調度品を全て床に叩きつける。

「お、お嬢様。お止めください」

と侍女の1人が止めに入る。

「なに?私に指図する気?」

と侍女に詰め寄るマリアルイス。

そして、侍女を見て動きを止める。頭の先から足の指先をなめ回すように見据える。

そして

「あなたのその髪の毛の色。瞳の色、それから…」

ガシッと侍女の胸を鷲掴みにする。

「大きい胸だこと…あいつに似てるわね…」

ひっ、と、悲鳴をあげる侍女。

ベルを鳴らすマリアルイス。

別の侍女達がが駆けつけ、膝をつく。

「うちに借金のある貴族のお坊っちゃま達、素行の悪目なのが良いわね。を5人くらい見繕って直ぐ連れて来なさい。急ぎなさい。私を待たせないでね」

返事をし、部屋を飛び出していく侍女達。

「貴女は向こうに飲み物を用意して」

「あの、お嬢様、私は…」

「こっちに来なさい」

と胸を掴んだままある部屋に連れていく。

「そこで待っていなさい」

しばらくして、侍女が5人程、男子生徒を連れてくる。全員、ハーロット家に多額の借金のある家の者だ。

「あなた達、今から私の言うことをしなさい。すれば借金減らしてあげる」

何をすれば…と男子生徒達はマリアルイスに問う。多額の借金のある身からすれば拒否権はない。

「良い心がけね。まずは、脱ぎなさい。早く」

と、男子生徒達に脱衣を促す。

困惑しながらも、マリアルイスには逆らえないので言われた通りにする男子達。

その間にマリアルイスは豪華なソファーに腰をかける。サイドテーブルにおいてあったグラスを取り飲み物を注がさせる。因みに最高級のスパークリングワインである。

「で、おれ達は何をすれば…」

注がれたスパークリングワインを飲み干し、マリアルイスは無表情で

「その女を犯しなさい。私が「いい」というまで、ね」

2杯目を注がせ、そのまま一気に飲み干し、続ける。

「優しく、なんてダメよ?惨たらしく、乱暴に、徹底的に汚して、犯しなさい!ほら、早く!」

侍女の少女は「ひっ」と縮こまる。

「あの、服はどうすれば…」

訪ねてきた男子生徒にグラスを投げつけるマリアルイス。

「そんなのも想像できないの?バカなの?惨たらしく、乱暴に、よ。服なんてものは破いて捨てなさい!」

そういう事なら、と侍女の服を無理矢理、破いていく男子生徒達。

「いや…お、お嬢様!私が何をしたというのです?」

「ん?何も。ただ、髪の色、長さ、瞳の色、胸の大きさが私が一番嫌いな女に似てたから、かな?恨むなら借金した家族と、その女を恨みなさい?」

そういい、飲み物を飲み干す。

「それだけ、ですか?」

「そうよ。まー、運良くコイツらの誰かの子供でも孕んだら良いかもね?そこそこのお家の出よ、コイツら。ま、借金まみれだけどね?」

そういい、足を組み換え、ドライフルーツを1つ口にするマリアルイス。

そして、男5は少女の服を全て破り、そのままベッドに力ずくで押して倒し、迫る。

「いや、イヤァァァァァァ!!」

侍女の悲痛な叫びが木霊する。

それをただ無表情に口許だけ狂気じみた笑みを浮かべて眺める、マリアルイスだった。

           6

ノアがCランクの生徒達と約束をして1週間。

「あら、ノア。最近は楽しそうね」

朝、お茶を飲みながらニーナがノアに問う。

「ふふ。唯一無二のSSSランク、だからな」

とナイル。

あれからノアの評価は一変した。

担任の教師がノアの魔法の実力を正しく判断しCランクからSSSランクに訂正したのだ。

このSSSランクは「教師を超えた最高の評価」とされている。

「ま、それもあるけどね。今日は友達に魔法の特訓を約束してるのよ。あの娘達も今日でCランクからおさらばだわ」

と自らの事のように嬉しそうにするノア。

「ねえねえ、あたし、汚名挽回できた?」

「「……」」

ニーナとナイルはノアの言葉の間違いに直ぐ気づき絶句する。

「ノア」

「何よ」

「汚名は挽回しない、返上だ。名誉挽回、だ」

と、正しい言葉の使い方を聞き、固まるノア。

「よかったわね。わたくし達に言うだけで。これからは魔法以外もちゃんと勉強しないといけませんよ?」

とニーナ。

ノアは恥ずかしそうに「はぁい」と答え、3人でカラカラと笑うのだった。

「時間あったら2人も来てみない?面白いもの見せてあげるからさ♪」

ノアは2人に時間と場所を伝え、部屋を出ていく。

予定していた時間。

ノアは校外での訓練の許可をきちんと取ってきた。キャラバンの娘だから許可を取るなどの手続きなど、その辺りはしっかりしているのだ。

「ノア」

そこに、ニーナとナイルがやってくる。

「ノアちゃん!早いね!」

と、Cランクの生徒達がやってくる。

「おはよー。調子はどお?」

と他愛ない会話。

「あ、紹介するね。ルームメイトのニーナと…」

ノアが紹介を終える前に

「な、ナイルさまだ!!」

「ほんとだ、ナイルさま!ああ、何て綺麗なの~」

皆、紹介する前にナイルのことをよく知っていた様だ。

「有名人ですね。ナイル」

「あ、ああ。その様だ…」

そう、ナイルは自分が思っている以上に有名人で皆の憧れになっている様だ。

「まぁまぁ、後でナイルとは話させてあげるから」

じゃ、始めよう!と意気揚々に言うノア。

「魔法の実習に行く前に。あたしなりに色々考えてみたよ」

何で、皆が上手く魔法を使えないのか、魔力不足以外に理由はないのか?等考えていた。

「皆、右手の掌を上に向けて、魔力を集中してみて。折角だからニーナとナイルもね」

全員がノアの言われるまま右手に魔力を集中させる。

「そしたら、右手に集めた魔力で球体を作り出すイメージをしてみて」

もう一度、ノアに言われるまま、右手の魔力で球体を作り出すイメージをする。

すると。

「わぁ!何か出た!」

皆の右手の掌の上に魔力でできた球体が出来上がる。 「よしよし、良い感じよ」

そしたら…と良い、地面に手を当てるノア。

すると…

ンゴゴゴゴゴ!ンゴーー!

と土で出来たずんぐりとした人形。クレイゴーレムが現れる。

「!?クレイゴーレム?」

ノアはニヤリと微笑み「そ」とだけ答えてウインクする。

「こいつにその球体をぶつけてみて!」

全員が言われるまま、クレイゴーレムに球体を放ってみる。

ンゴ!ンゴ!ンゴ!

とクレイゴーレムの身体を削っていく。

「やったね!皆成功よ!」

訳が分かっていない一同。

「まぁまぁ、説明はもう少し後でするから、今は体感してみてね。じゃあ、今度はそれそれがイメージしやすい形をイメージしてみて。剣でも槍でも球体でも何でもいいよ。魔力を形に出来たらまたこいつにぶつけてみて!」

ノアに言われるまま、同じことをしてみる。

各々の魔力がイメージのまま形を取る。

そして、同じ様にクレイゴーレムにぶつける。

そうすると、同じ様にクレイゴーレムにダメージを与える。

「一体これは?」

ノアはふふん!と胸を張り、説明する。

「これが新しい魔法の形よ。3系統に寄らない誰でも使える魔法。実際に黒魔法科じゃないニーナとナイルにもできたてしょう?」

ノアの理論はこうだ。

皆が持つ魔力。その魔力だけで形を作り、攻撃等に使用する。と、いうもの。

「魔力の量と強さとイメージで何でもできると、思うよ?」

ノアもこの新しい技術に無限の可能性を感じていた。

「さしずめ、『法術』とでも名付けようかな?」

この法術は後に魔法を使うものの中で最もスタンダードなものになっていくのをこの時のノアはまだ知るよしもなかった。

「この法術と黒魔法の何処に関連性があるの?」

ノアはニンマリと微笑み。

「あなたの苦手なパズスノヴァだけど、今の法術の要領で魔力だけをイメージしてやってみて。つまり、両手で魔力の大きな球体を作って、魔力を圧縮させていきながら、ね」

あなたは~、と次の娘にも法術の要領でやってみることをすすめていくノア。

「それで、できた!と思ったらガンガン、こいつにぶつけてみて!」

と指示をする。

「この法術と各魔法の何処に関連性があるのです?」

よくぞ聞いてくれました!といわんばかりに説明をするノア。

「大きな魔法は詠唱しながら無意識で魔法を形にしているの。さらにそれにそれぞれの特性や属性を付与しているわけね。後、詠唱には術者の負担の軽減の意味合いも含まれているの。どちらかと言うと軽減の恩恵はかなりあるわね」

その説明の中、次々と自分の苦手な魔法の形を作ることに成功していく生徒達。

「よ~し、皆、できたわね!じゃあ、次は今の魔力の形成をイメージしながら本格的に詠唱をして魔法を放ってみて!」

ノアの言われるまま、生徒達は魔法を詠唱し始める。

「ところで、ノア」

「何よ」

「何よ、じゃありません。何で精霊魔法がつかえるのですか?」

よくぞ聞いてくれました!という顔をするノア。

「ムッフフ♪神聖魔法もつかえるよ?」

「貴女は…何をしたのです?」

「何って、言ったじゃん。複数の魔力回路が出来れば、精霊魔法も神聖魔法も使えるようになるって。だから、魔力回路を2つ増やしただけよ」

と、さらりと言い放つノア。

「ただ、魔力回路完成までは気絶するくらいの痛みが伴うけどね。だから、止めた方がいいよ。やろうとするの」

はぁ、とため息のニーナ。

「こういうの何て言うんだっけ?女子3日会わざれば刮目して見よ!だっけ?」

「男子です。まぁ言わんとしてることは分かりますが…」

その時、クレイゴーレムが爆散して、その泥がノアの服を汚す。

「わぁ!ノアちゃん!大丈夫?」

「うん、へーきへーき。ズボン、とブーツが泥だらけだけどね」

クレイゴーレムが爆散したのを見て、ノアは皆が魔法を成功させたのを確信する。

「皆、やったじゃん!これで先生も納得だよ。同じ様に他の魔法にも挑戦してね!早速、午後見せよう!」

「いや、その前に貴女、服は?落ちませんよ、その汚れ…」

「着替えないし、このままかな?」

衣服をあまり気にしていないノアに、友達の生徒達が提案する。

「あのさ!私達が新しいの見繕ってあげる!ノアちゃんには魔法を使えるようにしてもらったし、いつも美味しいお店でご馳走してくれるから…」

どうしようか?とニーナとナイルを見るノア。

「お言葉に甘えると良い。お前は彼女達にそれだけの事をした」

「そっか。じゃあ、お願い!流石に泥だらけじゃあ、先生にお願いにいけないからね!」

あはは、と全員で笑い、ノアはニーナとナイルと別れ、クラスの子達と服を買いに行く。

           7

服屋。

今時のお洒落な服が立ち並ぶ。

ファッションに疎いノアからすれば何が良いのかわからない。余談だが、ニーナもナイルもファッションにはこれでもかと言うくらい疎い。

そして、訳がわからないまま友達達に「これじゃない、あれじゃない」と色々と渡されるノア。

そして…

「え~ッ!!こんな短いの穿くの?」

と渡されたのは黒いプリーツタイプのミニスカート。

上着の下から少し見えるのがカワイイ!との意見。

「でもさ、これって見えちゃわない?おパンツ?」

それなら!といわんばかりに、同色のショートパンツを用意される。

「今時の女の子はこういう対策キチンとしてるから♪」

そして、スカートと同色で、上着と同じ赤のラインが入ったハイソックス。スカートの丈とソックスの間はわすが10~20cmほど。

「この隙間に萌えるのよ!」と揺るがない娘がいたので採用。

ブーツも少しヒールのある膝から下の濃いベージュの編み上げのロングタイプ。

「お洒落には多少の面倒さはガマン!」

という持論の娘達に推されて編み上げブーツを履くことになるノア。

さらには白い手袋も渡される。

スカートにしろソックスにしろブーツにしろ、手袋にしろクラスメイトのノアに対する「お洒落でカッコよく可愛くいて欲しい!」という想いが爆発したものだった。

程なくして、ノアの新コーデが出来上がる。

鏡で全身を見てみるノア。

「うん!悪くないかも!ありがと!」

と、友達のセンスを讃える。

(ちょっと、ニーナにどやされそうだけどね…)

そして、新コーデのまま担任のもとにやってくる。

「失礼しまーす」

と、担任の執務室に入る。

「あら、ノアさん。どうしましたか?」

担任は眼鏡をくいとあげノアを見る。

「はい!Cクラスの娘達、魔法出来るようになりましたよ!それから、例の新しい魔法も出来たので、午前中に申請したところに来てください!」

「?いきなりですね。でも、よいでしょう。楽しみにしていきます」

「はい!きっとビックリしますよ?」

と、部屋を出ていくノア。

(以外に何もいわれなかったな。あたしが思ってるより普通なのかな?この服装…)

と、心の中で呟く。

……

そして、午後。

「あ、先生が来たわ!」

ノア達は並んで礼儀正しく先生を出迎える。

「それで、皆さん魔法が出来るようになったそうですね?」

「「はい!」」と生徒達が口を揃えて自信を持って言う。

教師は、あれだけ自信なさげ、につまらなさそうに授業を受けていた生徒達が活力に道溢れている姿に目頭が熱くなるのを感じていた。

「まずは黒魔法の実践を先生にみてもらいまーす」

と、クレイゴーレムを作り出すノア。

「!?ノアさん、今なにを?」

「えへへ…とりあえず、あたしのことは後で先ずは見てあげてください」

いいわよー、と合図をするノア。

次々に自分が苦手としていた魔法をクレイゴーレムに繰り出すCランクの生徒達。

「す、凄い…こんな短期間で…」

「ノアちゃんの教え方が良かったんです!」

と、口を揃えて他の生徒達が言う。

さて、とノアが他の生徒達にウインクする。

「先生。これからこの間話していた第4の魔法?を彼女達に実践してもらいま~す。良いよ~」

生徒達は、ノアの合図と共に各々のイメージ通りの魔力を形成してクレイゴーレムに放つ。

「?これは?」

「えへへ。これがあたしの作った第4の魔法、法術です!」

理論を説明するノア。

とりあえず、先生もやってみてください!!と生徒達がやり方を教える。

教師も言われるままに魔力を形成して放つ。

「こ、これは…」

「どうです?これが3系統関係なく使える魔法、法術です」

教師も法術の可能性をすぐに感じ取り、ノアの肩を揺すり興奮気味に言う。

「す、凄いです!ノアさん!この法術は!すぐに理論をまとめて!発表してもらいます!」

法術のあまりの興奮にノアがしれっと精霊魔法を使ったことはとりあえずスルーされた。

……

数日後。

ノアは大々的に法術を発表する場を与えられた。

この法術の発明はノアの功績として後世まで語られることになる。

3系統に寄らない法術は誰にでも使えること。法術により、魔法への理解度が爆発的に早まることが分かったからでもある。

勿論、そのノアの躍進を面白く思わない人物もいるわけだが、この時点のノアはその人物の事を露とも思っていなかったのである。



如何でしたか?これがノアが大魔導士としての道を歩み始めた日の話です。

ー確かに大魔導士どのの才能は凄いものですが、それを妬む方、あの方のされた行為が恐ろしいですねー

確かに。マリアルイスは悪女として歴史に名を残していますね。マリアルイスを超える、もしくは同列の悪女はそう現れていません。彼女はこの後、生涯に渡りノアを苦しめる不倶戴天の敵になります。

ですが、それはまだまだ先のお話です。

さて、一息入れましょう。

次はニーナの話をしましょうか。

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