第11話 魔法学校での日常

星導宮に客人が来た翌日。

セリカは客人を温室に誘う。

セリカが手入れしている花達が客人を出迎える。

ー見事な温室ですねー

ありがとう。ふふ、神というのも存外に暇なのですよ?

食事は如何でしたか?久方ぶりに他人に振る舞いましたからお口に合いましたかしら?

ーはい。おいしくいただきましたー

今日は花のお茶を用意しました。

さて、昨日の話は如何でしたか?

ー剣聖殿の食欲には驚きましたー

うふふ、そうですね。ニーナとノアも驚いたそうですわ。

さて、昨晩もお伝えしましたが、今日は彼女達の魔法学校での日常からお話し致しましょう。

           1

3人が魔法学校に入学し、約1ヵ月が経った。

花のシーズンは徐々に終わりを告げ真新しい新緑が眩しい。

生徒達も学校での生活に慣れはじめてきている。

そんなある日、緊張した面持ちで佇んでいるのは、ナイルだ。

正装様の衣裳に身を包んでいる。

場所は議場。

今日は西側諸国の代表者がルーンヴェスタに集まり、定期会議をする日である。

ナイルはアークザイン王の名代として、会議に参列することになっている。

祖父からは「お前の感じるままにやりなさい」と言われている。ナイルからすれば勉強のための場でもある。

事前にアークザイン王とルーンヴェスタのアレン公子の間で話がついており、ナイルも承諾していることである。

「で、あるからして。やはり大陸を通して統一の年号を定めるのが由と思うが、如何か?」

今回の議題は、年号を定めよう。というものだ。今まで歴史書等でも年号はなく、おおよそ何年前など不確かなものが多かったのだ。

「統一年号は『神帝暦』はいかがか?聖者ヨシュアが邪悪を平定し我がイースリアス神聖帝国を興した年を元年とした」

3大国家の1つであり、最も力を持つイースリアス神聖帝国の宰相からの提案である。

「して、今回は東のアークザイン王国からナイル王女が名代てして参られている。ご意見伺いたい」

いきなり指名されるナイル。

「はい」と、動じずに立ち上がり一礼するナイル。

凛とした美しさと精緻な刺繍の施されている民族衣裳のナイルは諸公の目を惹く。

「この度はわたくしのような若輩者を大事な会議の末席にお加え頂き、恐悦至極でございます。さて、我が国ではわたくしの魔法学校入学を期に、西側諸国との交流を活発化していきたく考えております。我は我が国で独自の年号を定めておりますが、わたくしどもが西側諸国の歴史や文化に触れ、学ぶにあたっても西側諸国との共通年号を定める事はよろしい事かと存じます」

一礼をして着席するナイル。

ナイルの堂々とした姿に自然と拍手が起こった。

その後、会議は滞りなく進み、統一年号として『神帝暦』が採用された。

なお、この年は神帝暦517年と定められた。

この会議でのナイルの所作が噂を呼び、男性貴族からのナイルに対するアプローチが増えたのは言うまでもない。

           2 

午後の一時。ノアは部屋でナイルから借りた精霊魔法の教書を読んでいた。

「ふーん、なるほどね~。こんな感じになってるのね」

と教書を読みながら一人言のノア。

そこに、ニーナが大きな本を抱えて部屋に戻ってくる。

「あら、ノア。また精霊魔法の教書を読んでいたの?」

「うん。勉強になるよ。使いたいな~」

「それは無理ではありませんか?」

「ま、今のところね」

魔法の法則として、神聖魔法、黒魔法、精霊魔法の3つの系統の魔法は1系統しか習得できない。

すでに黒魔法を体得しているノアには他の系統の魔法は使えないのだ。

「あたしは歴史上1番の魔法使いになるのよ?絶対、3系統の魔法を使えるようになってみせるんだから」

ニーナは、ハイハイ。という感じで席に着く。

「そういえば、先日の技能テストの結果が張り出されてましたよ。受付で同じものを頂いてきました」

ニーナはテーブルにテスト結果の紙を広げる。

結果は

ニーナ・カンダーナ

武技     魔法  A

剣術  D  一般教養 B

槍術  D  算術   C

斧槌術 C   基礎身体能力 C

弓術  S

体術  D

ノア・セリーナ

武技    魔法  C

剣術  D 一般教養 C

槍術  D 算術   A

斧槌術 D 基礎身体能力 B

弓術  D

体術  C

ナイル・フォン・アークザイン

武技    魔法  B

剣術  S 一般教養 B

槍術  B 算術  C

斧槌術 C 基礎身体能力 S

弓術  D

体術  B

……

「ノア」

「何よ」

ニーナはため息1つ。

「貴女ほどの方が魔法Cとかありえないのですが…」

ノアは、ああ、その事。と言わんとしている顔だ。

「だって、石像との激闘の直後の試験だったのよ?あの時は右腕は痛いし、魔力通わないしって状態で試験受けたの。左手でやったから課題の魔法がうまく出来なかったからね~」

と肩を竦める。

「ところで、右腕の痛みってどんな感じだったのですか?」

「…ん~。常に気合い入れてないと気絶しそうなくらいには痛かったよ。今は大分よくなったけどね」

とにこりと微笑む。

「ま、誰かさんに1度気絶させられたけどね~」

と、意地悪な笑みを溢すノア。

「そ、それは貴女がわたくしの気にしている事をおもしろおかしく話すからです!」

「あはは。ゴメン、ゴメン。ニーナの反応が可愛かったから、つい…」

もう、と言わんばかりのニーナ。

その時、部屋の戸が開く音がする。

「ただいま」

ナイルだ。

「おかえりなさい。公務お疲れ様です。お茶を淹れます、着替えてきたら?」

ナイルは、そうするよ。と、短く答え部屋に戻る。

「こうして見ると、やっぱりお姫様の品格あるわよねナイルって」

「そうですわね。それに比べて誰かさんは品性の欠片もありませんが?」

「あはは。まー、それは育ちの差だからしょうがないでしょ~」

と、何気ない会話が繰り広げられる。

……

「「統一年号?」」

ナイルは今日あった会議の内容を2人に話す。

歴史好きのニーナからすれば今までそういった年号がなかったのがおかしい事だと思った様だ。

「ただ、困ったことがあるんだ…」

ナイルが珍しく神妙な表情をする。

「殿方からの誘いが増えてしまった…」

今回の会議でナイルに目をつけた男性貴族は少なくない。今も、議場からここに戻るまでに何人かに声をかけられ、困ってしまったよ。とナイルは付け加える。

ナイルは男性のことをあまり意識していない。と、いうよりはある意味理想が高い。

ナイルの最低限男性に求める条件が「自分より剣の腕が立つ」である。

ノアが魔法バカなら、ある意味ナイルは剣術バカと言っても過言ではない。

そもそも、王族なので、恋愛結婚などは考えていないのだ。

時が来たら適切な相手に嫁ぐ。

この事をナイルは理解しているのだ。

「ナイルも大変ね」

ニーナは3人分のお茶をだす。

「全くだ。しかも、目をつけられたのは殿方だけではなくて、だなぁ…」

ニーナとノアは顔を見合せ、うなずく。

「なになに?」

「どういうことなのです?」

食いぎみで迫る2人をみて、ため息をつき、お茶を啜るナイル。

「大したことではないのだが、あれは…」

と、話を始める。

           3

ある日の事。

剣術の授業にナイルは出ていた。

この魔法学校はただ、魔法技術を習得するだけではなく、広く武技や教養も身に付け養う事も大きな目標としている。

尚、武技とは大きく分けて剣術、槍術、斧槌術、弓術、体術の5種類と定めてられている。

この5つの武技全てを高い水準で身に付けたものには『ウェポンマスター』の称号が与えらるのだ。

ナイルは、西側諸国の剣術に興味津々だった。

どんな使い手と手合わせが出来るのか、それが楽しみだった。

ナイルが1人訓練場で待っていると、多くの取り巻きを連れた女生徒が現れる。

きらびやかで美しい女性であることはナイルにも感じられた。

「エリザベート様、今日も美しゅうございます」

等と取り巻きがその女性を褒め称えている。

ナイルは取り巻きではない女生徒に訪ねる。

「すまない。あの御仁はなんという方なのだ?」

それが聞こえた女生徒達は震え上がった。

「エリザベート様を存じない!?何て女なの!」

「此方のお方はイースリアス神聖帝国の皇族に連なるパール家のお生まれ。高貴なお方なのよ!」

取り巻きの少女達が捲し立てる様にナイルに詰め寄る。

「控えなさい」

と、エリザベートと呼ばれた少女がナイルに迫る。

「誰かと思えば、東国の田舎姫ね。全く、ワタクシの事を知らないなんて。万死に値するわ」

ナイルは、何かめんどくさいのに目をつけられてしまったなぁ、と内心思っていた。

めんどくさい?今まで、ナイルはそのような考えを持ったことがなかったが、ノアの考え方に少し影響受けたか?と1人心の中でクスクスと笑っていた。

そんなナイルを他所にエリザベートは足を一歩踏み出し。

「でも、ワタクシは優しいの。ワタクシの靴を舐め、膝をついて謝るなら赦してあげるわ」

「?私は何も悪いことをしていないし、あなたに害を加える様な事もしていない。謝る必要を感じないが…」

ナイルも一歩も譲らず、エリザベートに応じる。

そこに、担当教師が現れ、ナイルとエリザベートのやり取りを止めさせる。

「見てなさい、田舎女。今日の手合わせで格の違いを思い知らせてあげるわ」

と、捨て台詞を残して、離れて行った。

そして、エリザベートたっての申し出でナイルとエリザベートが手合わせをすることになった。

ナイルは礼節に則り、一礼して構える。

エリザベートも大きな動作から優美に構える。

(何だ、あの構えは…スキだらけじゃないか…)

ナイルは相手の構えを見て思う。

「行くわよ、田舎女!」

はじめ!の合図とともに無造作に突進してきて突きを繰り出すエリザベート。

ナイルはその動きを最小限の動きでいなし、相手の急所に剣を突き立てる。

「え?」

と言わんばかりのギャラリー達。

「くっ!まぐれですわ!」

もう一度構え、ナイルに斬りかかるエリザベート。

だが、結果は変わらず、同じ様に最小限の動きでいなし、剣をはたき落とし、首もとに剣を突き立てるナイル。

そこまで!と止めの合図がかかる。

ナイルは一礼し、踵を返し控え場に戻ろうとする。

エリザベートは落とされた剣を拾い、ナイルに斬りかかろうとする。

「試合は終わりました。背を向けた相手に斬りかかるのは貴女の品位に関わりますよ?」

と、エリザベートを見向きもしないで牽制するナイル。

悠然と去るナイルを悔しそうに睨み付けることしかエリザベートにはできなかった。

授業の後…

ナイルの回りをエリザベートの取り巻きの女生徒達が取り囲む。

ナイルは何かされるのかと警戒するが…

「ナイル様!何て美しいの!」

「ナイル様!お強いのですね!憧れます!」

「ナイル様!一生ついて参ります!」

ナイルは何が起こっているのか全く理解が追い付かなかった。

「あ、ああ。ありがとう。次の予定があるので失礼する」

と、その場は退散すべし。と、感じたナイルはそそくさと訓練場を後にする。

「あ~ん!お待ちになって~!ナイル様ぁー!」

と、ナイルを追ってくる少女達。

取り巻きの女生徒達がエリザベートからナイルに乗り換えた、ということをナイル自信が理解するまで数日を有した。

「と、いうことがあったんだ。それから剣術の授業に行けば、彼女達が取り巻いてくるし、エリザベート殿には睨まれるしで少し食傷気味だよ」

とナイルはため息をつく。

「色々と大変ですね。確かに、そのエリザベートさんは神聖魔法の授業でも横柄な態度をしておりますし」

「全くだよ。嗚呼、甘いものでも食べたい…」

「じゃあ、隠れ家的な名店があるけど、たまには外にお茶しに行ってみる?」

何度もルーンヴェスタに来ているノアは街のお店に詳しい。

ニーナとナイルは顔を見合せて。

「行く!」「行きます!」

と同時に答える。

「じゃあ、今飲んでるの飲み終わったら行こうか?」

ノアの提案に、2人は二つ返事で応じ、外での気分転換をするのだった。

            4

「うん!隠れた名店とノアが自信満々に言うだけはあるな!」

「そうですわね。ベリーのパイとお紅茶のバランスが最高でした」

ノアに連れられて行った店から出て、街を歩く3人。

「こうして、ゆっくり街を歩くこともしてませんでしたね」

と、ニーナ。

入学早々に、クエストを受け、それから戻れば基礎能力確認試験。勉強したいこと、調べたいことが山積みのニーナは女子寮と学校と図書館の往復しかしていない。

それはナイルも似たようなものだった。

「ルーンヴェスタは交易の要所だから色々なものを取り扱ってるのよ。南方からの交易ルートだと帝国に行くにしろ王国に行くにしろ必ずここを通るの」

ノアは2人に街を案内する。

「ほら見て。あれは染め物のお店よ。この時期は大陸全土から染料が届くから、何処のお店も腕を競ってるワケ」

ノアは2人を染め物のお店の前に連れていく。

「あ、丁度、染め物のお仕事してるみたい。見学していく?」

ノアの提案に2人は頷く。

白い生地が鮮やかな赤に染まっていく行程をみてニーナとナイルの2人は感心する。

「わたくし達の服もこの様に染められているのですね」

「確かにな。凄い手間隙だ。職人に感謝だな」

「それにしても、1度染まってしまった白い生地がもう白く戻れないのは不思議ですわね。お茶をこぼした後などでしたらキレイに出来ますのに」

そうだねー、と適当な相槌を打ったところで、ノアはハッとする。

「1度、染まったらもとに戻らない…か…って、ニーナ!それよ!」

ノアはニーナの両肩を掴む。

「え?何がです?」

「魔力の話!こうしちゃいられない!あたし、一足先に部屋に戻って今思い付いたこと紙に書き起こしてみる!2人は街でのんびりしてきて!それじゃ!」

と、物凄いスピードで寮へと帰っていくノア。

「何なんだ?」

「さあ…染め物と魔力、何がどう結び付くのかしら?」

呆気にとられたままニーナとナイルの2人は染物屋の前に取り残されたのだった。

           5

ノアは今しがた思い付いた理論をすぐに書き留めようと街を駆け、学校内を駆ける。

校内からテラスを通り、女子寮に入ろうとしたところで、声をかけられる。

「誰かと思えば、落ちこぼれグループのノア・セリーナじゃない」

と、一際室のよい衣服やアクセサリーを身につけた少女が数名のお供を連れテラスで優雅にお茶をしていた。 

「げっ!マリアルイス・ハーロット…」

ノアはその少女の名前を呼ぶ。

マリアルイス・ハーロット。

彼女はノアと同じ黒魔法科で基礎能力試験で黒魔法科で魔法ランクAを取った数名の人物だ。

マリアルイスが引き連れているのも同じAランクの生徒である。

マリアルイス達はノア達Cランクの生徒達を「落ちこぼれ」と称しているのだ。

また、ハーロット家は帝国きっての豪商の家だ。その富は言うまでもなく、帝国上部との繋がりも深い。最も、色々と良くない噂もあるが…

キャラバンの娘のノアと豪商の娘のマリアルイス。境遇も似ている。ただ、ウマはこれでもかと言うくらい合わない。

「何?あたし、急いでるの。アンタ達みたいに暇じゃないのよね」

「何?落ちこぼれさん、魔法の練習でもするのかしら?明日の実地訓練、大丈夫なの?」

「魔法の練習?しない、しない。する必要ないし」

と、顔の前で手を左右に動かすノア。

「あ、それから実地訓練のことすっかり忘れてたわ。教えてくれてありがとう。じゃ」

と、ノアはそそくさとその場を後にする。

教書で教わる魔法は全て体得しているノアからすれば魔法の練習は必要ない。強いて言えば、ノア自信が利き手でない左手で魔法を使う練習をするくらいだ。

試験の結果が悪かったのも魔力が上手く練れない状態だったからである。

「な、何なの、あの女!せっかくこの私が声をかけてやったと言うのに!」

ほぼ、無視状態に苛立ちを隠せないマリアルイス・ハーロットだった。

このマリアルイス・ハーロットがこの後も事あるごとにノアに絡んで来たのは言うまでもない。

急げ、急げ~!と言わんばかりに走るノア。

「ノア・セリーナさん!」

今度は何?と言わんばかりに声をかけられるノア。

「げっ!先生…」

声をかけたのはノアの黒魔法のクラスの担任の女性だ。眼鏡をかけて理知的な女性である。

「げっ!とは何ですか?げっ!とは!」

因みに、本能的にノアが苦手としているタイプだ。

「な、何?じゃなくて、何ですか?あたし、忙しいんですけど…」

なお、ニーナ以上に言葉遣いに五月蝿い。

「何がどう忙しいのか分かりませんが、明日の実地訓練の準備はどうなってますか?貴女はCランク評価なのですからしっかりと練習なさい!」

「あはは、今練習してきた所です(練習なんか必要ないけどね)」

と、頭を掻きながら誤魔化そうとするノア。

「では、何でそんなに急いでいるのですか?」

「え?それは新しく思い付いた理論?を書き留めておこうと思って…ですね」

「ほぅ、それはどんな理論ですか?」

「気にな…ります?魔力には色があるって、理論よ…です」

ノアは徹底的に敬語や丁寧語が苦手である。

そして、この先生は、そこが徹底的に厳しい。そう、完全に合わないのだ。

「面白いですね。続けなさい」

「えーとねぇ。発端は何で1つの系統の魔法しか使えないか?って所なの」

言葉遣いが悪いので思い切り睨まれるノア。

「それで、染物を見てて思い付いたのよ!1度染まったら戻らない、戻れないって」

「染まったら、もどらない?」

「そう!仮説はこうよ!3系統の魔法を習得する前は人の魔力は色に例えるなら白とか、透明なの。そこで3系統の1つでも習得すると、例えば黒魔法なら魔力の色が黒く染まって、もとの色にはもどらない、他の色にも染まらない。ってこと」

「だから?」

「だから、1つの系統を取得したらその時点でその人の魔法人生が決定!どうしてもその魔法が合わなくても戻れないの」

「成る程。言いたいことは分かります。それで、変わらない、変えれないのを分かっていてどうするのですか?」

「そう、そこが問題なのよー」

「そもそも、何でそのような考えをすることにしたのですか?」

先生は眼鏡をくいっ、と上げる。

「え?あたしが神聖魔法や精霊魔法を使えるようになるにはどうしたらいいのかな~って、考えてるの…デスワ」

持論を語るのに夢中になり言葉遣いがいつも通りになり、終始睨まれていたことに今、気付くノア。

「他の系統の魔法は使えない。貴女が今、自分で言ったばかりの事ですよ?前例もない」

「だから、あたしがその前例を打ち破ろうとして…マス」

先生の眼鏡がキラリと光る。

「それは大した夢、です。が、その前に貴女には言葉遣いを覚えてもらいます。人としての常識を勉強する必要がありますね」

そして、ノアの肩をガシッと掴み。

「これから特別補修を行います。今のままでは明日の実地訓練も思いやられます」

「え、いや、あの、あたしにはやることが…」

「問題無用です。それに、普段から授業中に足を組んで居眠りしてるのはだれですか?その分も含まれます。先ずは座学からです。貴女が逃げないように特別に私の執務室で行いますよ。ほら!」

と、嫌がるノアを無理矢理引きずっていく先生。

「い、いやぁぁぁ!た、助けて~!」

ノアを助ける者は誰もいない。

そして、この後、授業がなかったノアはみっちりと生活指導で絞られる。因みに、生活指導9.5魔法勉強0.5の割合になったのは言うまでもない。

           6

ニーナはナイルと一緒にルーンヴェスタの街を見て回った。

人里から少し離れていた孤児院に住んでいたニーナと東国のナイルからすれば物珍しいものばかりだ。

食べ物の屋台がある度にナイルが足を止め、買い食いをしていたのは言うまでもない。

「本当によく食べますね、貴女は…」

ため息混じりにニーナはナイルに言う。

「だって美味しいからな!この前も言ったが、私は毎日、秘剣の修行をしている。戦いでなくても身体のエネルギーをかなり消費している様だ」

「はぁ、それだけ食べて、そのスタイルが全く崩れないのは本当にうらやま…」

「ん?どうした?」

「いえ、何でもありません!」

実はニーナは自分のスタイルをかなり気にしている様だ。細身ではあるが、それに伴い胸は小さめ。

ノアとナイルは胸が大きいので、ニーナは正直、羨ましかったりする。

「さ、さて。わたくしは最後の時間の授業がありますから行きますね」

と、誤魔化す様に学校に戻るニーナ。

……

ニーナは史学の授業に出ていた。

世界のあらましから授業が始まり約1月がたつ。

今日は神々の話しになっていた。

神々と聞いてニーナは移籍の壁画の3女神を思い出す。

7枚の翼を持つ光纏う女神。

竜の特徴を持つ白銀の女神。

獣の特徴を持つ黄金の女神。

今のところ大図書館のどの文献にも現れてこない神々だ。

神々の大戦にも現れていないのか?となるともっと古い時代の神なのか…ニーナも思考を巡らせる。

「ニーナ・カンダーナくん。少しぼんやりしてますな。今の質問に答えなさい」

考え事をしていたニーナは指名を受ける。

「は、はい。聖者ヨシュアと共に邪悪な存在を退けた方。セリカという方とナーシャという方が死後、神の座に召されました。セリカ様は今もなおこの原界の何処かでわたくし達を見守っておられるという説があります」

「あー、よろしい…」

ニーナは質問に的確に答え、授業は滞りなく進む。

授業が終わった所でニーナは教授に質問に行く。

「先生、質問があるのですが…」

「なんだね?」

「はい。今、調べている神がいまして…」

と、壁画の三女神について話すニーナ。

「フム。その様な女神については私も知らないですね。可能性としては原界の史上の記録が残される前の時代の神々かもしれないね」

「成る程。では、図書館で最も古い時代の文献をしらべてみますわ」

「フム。私も神学者として興味が湧きました。私も何か分かったら伝えましょう」

ニーナは一礼して、教室を後にする。

           7

大図書館に寄り、一番古い時代の文献を借り、食堂で食事を終え、部屋に戻るニーナ。

「あら?2人ともまだ戻っていないのね」

お茶の用意をしながら寝巻きに着替えるニーナ。寝巻きだと少し寒いのでストールを羽織る。

薄い寝巻きの胸元を見る。

やっぱり、小さめ…

実のところ孤児院にいた頃から弟妹たちにからかわれていたこともあるのだ。

「わたくしが小さいのではなくて、ノア、ナイル、ファムムが大きいのです!」

と、1人声を荒げる。

ー揉んでみたら?大きくなるかもよ?ー

と、ノアの言っていた言葉を思い出す、ニーナ。

「ふ、2人もいないことですし、少しくらいなら…」

と、寝巻きの上から自分の胸を揉んでみようと恐る恐る両胸に手を当てるニーナ。

意を決して揉んでみようとしたその時…

「ただいま。あ~、お腹いっぱいだぁ♪」

と、ご機嫌で帰ってくるナイル。

「ひゃあ!」

ビックリして両腕をあげるニーナ。

「どうしたんだ?」

「い、いえ。どうもしません」

そうか、と短く答え自室に戻り着替えるナイル。

お湯も沸いたので2人分のお茶を淹れるニーナ。

「そういえば、ノアはもどってませんね」

「ああ。あれから戻ってなさそうだな」

「何で分かるんです?」

「あ、いや。1度でもノアが帰ってきてたらもっと部屋が散らかってるからな」

あー、と言う感じで物凄く納得するニーナ。

「ナイルはあのあとは何をしてたんですか?」

部屋で着替えながらナイルは答える。

「ああ、あのとは槍術と体術の授業にでたぞ。我が国では槍術や体術を嗜む女子も多いんだ」

寝巻き様の着物に着替えたナイルがリビングに入る。

「それに、剣術の授業でなければエリザベート殿の取り巻きもこないし、な。その後は食堂でたくさん、食べた♪たくさん食べるとオバチャンが喜ぶからな。つい、食べてしまったよ」

から笑いのニーナ。

そこに…

「た、ただいま…帰りましてでゴザイマス」

そこに、げっそりとしたノアが帰ってくる。

ノアのあまりのやつれっぷりに2人は何があったのかと思う。

「黒魔法科の先生にお掴まりあそばせになって、生活指導と言葉遣いについて徹底的にしごかれてゴザイマス」

虚ろな目をしてノアが席に着く。

「正直、ニーナさんの100倍は五月蝿くしつけられてゴザイマス。ご飯もたべてません…ワ」

「そ、それは災難だったな…」

とりあえず、話題を変えてノアの活力を取り戻そうとする2人。

「と、ところで昼間の新しい理論とやらはどうしたのです?」

そこで、ハッとなり、目に光が戻るノア。

「そう!それよ!聞いて~、2人ともー!」

水を得た魚の様に饒舌に話だすノア。

魔力には色がある。1度染まったら戻らない。等。

「成る程。確かにイメージは着きますね」

「でも、どうやってそのことがお前が3系統を使えるようになることにつながるんだ?」

ノアはフッフッフッと言わんばかりの顔をして、持論を展開する。

「1度染まったら戻らない。なら、増やすしかないよね?」

「「増やす?」」

「そ。あたしの身体の中に神聖魔法用の魔力回路と精霊魔法用の魔力回路を作れれば、3系統が使えるって理論」

胸を張ってどや顔のノア。

その時、ぱちん!と音を立て、ノアの上着のボタンが弾け飛びニーナの額に命中する。

「あ、ごめんごめん。ボタン、弾けちゃった。ファムムに貸して緩んだのかな~。あの娘あたしより大きかったし…あ、ニーナ、ボタン着けて~。あたしお裁縫できないから」

と、上着を脱ぐノア。豊かなバストがニーナの視界に入る。

「明日、黒魔法科の校外実地訓練なの。服が乱れていたらまた先生にどやされちゃうからさ~」

と、いつものペースを取り戻すノア。

だが…

「うーーーーーーー!納得いきませんわぁぁぁぁ!」

と、半泣きで部屋に戻るニーナ。

「どうしたの?」

「さ、さあ…」

何が起こったのかノアとナイルには分からなかった。

ニーナが自分の胸のサイズを気にしていることなど、2人、ノアは確信犯的なところがあるが、ナイルは分かっていないのだ。

因みに、翌朝にはノアの上着にはボタンがキチンとつけられ、ほつれも直されていたのだった。

……

学園内。某所。

寮に相応しからぬ豪華な調度品が部屋に飾られる。

財力により「特別」に個室をあてがわれたマリアルイス・ハーロットの部屋である。

部屋の奥からは男女の営みの声が漏れてくる。

そこに…

「お楽しみの所申し訳ありません、お嬢様」

と、1人の男性が声をかける。

「構わないわ。守備は?」

マリアルイスは気だるげに答える。

「万全でございます」

「そう、下がっていいわ。ありがとう。報酬はテーブルの上に置いてあるわ」

男はドア越しに一礼し、報酬と呼ばれた金の入った袋を取り、立ち去る。

そして、また部屋の奥からは淫らな声が漏れてくる…

翌朝。

ノアは自室で毎朝のメディテーションを行っている。

「うん。右腕の調子は万全ね。1ヵ月ガマンした甲斐があったわね」

痛めていた右腕に十全な魔力が巡るのを感じるノア。

万を持して校外実地訓練に挑む。

この時ノアはすでに巡らされていた企みなど露とも知らない。ノアを待ち構えるものは一体何か…



ある日の日常の様子を語りました。

ー何処にでも妬みを抱くものがいるのですねー

はい。

マリアルイス・ハーロットとエリザベート・パール。この2人も3人の運命に大きく関わる人物です。勿論、お察しの通り、よくない方に、ですが…

さて、一息いれた後は、回復を果たしたノアがその才能を大いに発揮し、大躍進する話をしましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る