第10話 はじめてのクエスト 後編 ~遺跡の試練~

こうして、無事、小鬼を退治した3人です。如何です?

あの娘達は学校に入学した時点で同じ学校の生徒達に比べると十分な強さを持っていた様です。勿論、天性のものなどではなく、彼女達の努力の賜物です。

ーしかし、聖女殿の目は天性のものでは?ー

そうです。天より授かりし力ですね。その話も順を追って、ですわ。

さて、遺跡の探索に乗り出す3人ですが、その遺跡での出来事は3人の、特にニーナの運命に大きく関わります。

お茶はまだありますか?次をお淹れしてから、続きを話しましょう。

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洞窟の奥とは思えないほどの立派な造りの遺跡。

その中をニーナ、ノア、ナイルの3人とお目付け役の先生と助けた少女ファムムの計5人で進む。

「邪悪な気配が一切しないな」

ナイルは呟く。

「長い間埋まっていた。その様な感じですね。かなり古いものの様です。一切の風化も見られないのは、すごいですね」

壁を見て触れながらニーナは呟く。

「詳しいのね」

「いえ、本で読んだ程度の知識です」

ニーナとノアのやり取りを見ながらちょいワル先生も壁に触り、材質を確認する。

「大理石のようだが、どこか違うな。この石自体が少し光を放ってるからな…もしかしたら未知の素材か?」

ファムムはノアの後ろに隠れる様に歩く。とは言ってもファムムの方が少し大きいので隠れられていないが。

「ノアちゃん。寒ぐねぇだか?」

「大丈夫よ。ありがと」

わずかな休憩の間に3人とファムムはすっかり打ち解けていた。

小鬼に拐われ服を着てなかったファムムは何の躊躇いもなく自分の上着を貸してくれたノアに心から感謝している。なので特にノアに懐いている。

他愛もない話をしながら遺跡を進む。

「あ、ノアちゃん。素敵な首飾りだす~」

「あ、これ?いいでしょ?お母さんの形見なんだ」

「あ、形見っでごどは、ノアちゃんのお母さん、もういないだすか?」

「うん。あたしが3歳の頃、死んじゃったよ」

「あ、なんが、ゴメンだす」

「ん?全然平気よ。ありがと、ファムム」

ファムムは少しばつの悪そうな顔をするが、ノアは気にしていない様だ。

ノアの上着は大きめだが、ファムムが着ると丈の塩梅が際どい。

ファムムも、はじめて見る遺跡に興味を持ちあちらこちらを見ては触ったりなどしている。

だが、丈が際どい事から屈んだりすると所々で見えそうになってしまう。

「先生。ファムムの後ろを歩いてはいけませんよ?」

「お、おう。分かってるぜ」

ニッコリと微笑むニーナ。その微笑みの下の凄みに気圧される先生。

どうやらニーナは口には出さないがハレンチな事や、はしたない事が大嫌いな様だ。

服も露出のほとんどないものを身に付けており、人前で肌を晒すなども好まない。その辺りは潔癖な様だ。

……

回路を進むと、開けた空間に出る。

「ほえー。おったまげだす~。お山の中にこげに広いとこがあるだべや」

空間の広さに感心するファムム。

「あら?壁に…何かしら壁画?」

広い部屋の3面に神秘的な壁画が描かれていた。

「鳥かしら?それとも天使?」

ニーナはある1面の絵に見とれる。

背中に翼を生やし、弓を構える女神。それと重なるように大きな鳥が描かれる。特徴なのは7枚の翼である事と、まるで光を背負うかの様に神々しく描かれている。

「凄いよ。こっちは…竜種かな?おとぎ話に出てくる竜種の特徴にそっくり」

ノアが見ているのは、銀の髪の女性の絵。頭に角や側頭部にエラの様なものが生えているのが特徴的だ。また、この絵も女性と重なるように白銀の竜の姿が。

なお、余談だが原界には竜種はいない、とされている。おとぎ話に出てくるくらいだ。ヒトの歴史の中には現れない。一説によると、神々と共に原界を造りだし、その後、原界を去った、という。

「これは、半獣とでもいうのかな?ネコ化の、獅子のような特徴がある」

ナイルが見ていたのは、猫の様な耳や尻尾を生やした女性の絵。その女性に重なるようにに黄金の獅子の様な動物。金色の野。半獣の女性は先頭に立つ。騎士や戦士、それに寄り添う様な武装した女性の戦士。半獣の女性が多くの軍勢を率いているような絵だ。

3人はそれぞれが別の壁画に見入っている。

……

「先生、3人とも絵の前から動がないだすね」

「そうだな。何かを感じているンだようよ」

「わだすは、部屋の真ん中の石像さ、気になります。まるで今にも動きそうだす」

「おいおい。そういう事は言っちゃいけねえ。本当に動き出すぞ」

とファムムとちょいワル先生が話す。

「あら?」

翼の女性の絵に見入っていたニーナが何かに気づく。

壁画に近づくニーナ。

そして、壁画の弓に手を伸ばす。

すると、ポコッ、とその弓が壁から外れる。

「どうしただす?ニーナちゃん」

ファムムが近くに来ていて声をかける。

「い、いえ。壁画の弓が浮いて見えたので触れてみたら、とれてしまいました…」

ファムムの声を聞き、ノアとナイルもやってくる。

「ホントだ。何か、大分、古いもののみたいねー」

「ああ、だが何か神秘的なものを感じるな」

「お、なんだ?」

壁の古い弓に注意が集まる。

「お、どうしたい?」

「先生。こういった遺跡で手に入れたアイテムなどの所有権はどうなるんでしょうか?」

ニーナは冒険者の基本ルールについて訪ねる。

「おう。基本的に早い者勝ちだな。その弓が欲しければ、お前さんが持っていっちまってもルール的には問題ねえよ」

「そうですか…」

ニーナは壁画から落ちた弓を手に取る。

古い弓で、構えて引いてみるが、弦を引くことができないほど硬い。古さ故なのか、何か他の別の理由があるのかは分からない。ただ、何か力を秘めていそうだと、ニーナは感じた。

その時、部屋の真ん中の石像がゆっくりと動き出した。

誰も、石像が動き出したことに気づかない。

石像はゆっくりと近づき、拳を振り上げる。

そして、その拳をファムムに向け突き出す。

「ファムム!危ない!」

石像の攻撃に気付いたノアは咄嗟にファムムを体当たりで突き飛ばす。

ファムムのいた場所を襲う石像の拳は鈍い音と共にノアを捕らえる。

ものすごい勢いで壁に吹き飛ぶノア。

「くっ!『物理障壁(プロテクション)』!」

壁に激突する直前でニーナの魔法のフォローが間に合い、衝撃はある程度は緩和された。

ドカッ!という鈍い音と共に壁に激突するノア。

激突の衝撃と共にノアの首飾りもプチプチっという音と共に弾け飛ぶ。

「かはっ!」

と、血を吐き、崩れ落ちるノア。

「ノ、ノアちゃん!」

ファムムはノアに駆け寄る。

ノアは気を失っている。

「ノアちゃん!ノアちゃん!大丈夫だか?しっかりするだ!」

ファムムはノアを揺さぶる。

「ファムム、揺さぶってはいけません。わたくしに見せて」

ニーナはノアに近づき様子を伺う。

「ニーナちゃん、ノアちゃんは大丈夫だか?」

おろおろするファムム。

ファムムを安心させるようにニーナは言う

「魔法も間に合ったから大事ないと思います。わたくしは医術も少し心得てますから。ナイル!」

「ああ、心得た!」

ニーナの意図を察したナイルは石像の注意を引き出す。

石像の動きは単調だ。ナイルが見切るの訳はない。

だが、その意外なスピード。大きさから来る圧がナイルを脅かす。

ナイルは、気づく。こういった無機物との戦いははじめての事。人間にしろ、魔物にしろ小鬼にしろ呼吸をしている。その呼吸を感じ取って、対応していたのだと。

こと、相手の攻撃を読み取り最小限の動きで捌く事がナイルの身に染み付いている戦い方なのだ。

「くっ、呼吸が感じられないとは、こうも戦いにくいのか…」

普段と違う捌きをしているためか、体力を使う。

相手の攻撃力は先程見た通り。ナイルにも緊張がはしる。

一方、ノアを診るニーナ。

「よかった、外傷もないし、骨にも影響はありません。今は気を失っているだけです」

ニーナは立ち上がる。

「ファムム、先生。ノアは多分、すぐに目を覚ますと思います。わたくしとナイルで石像を引き付けますから、とりあえずはこの部屋の外にノアを運び出して下さい」

「わ、分かっただす」

「おう」

そういい、2人は慎重にノアを運び出す。

「さあ、行きますよ!もとはといえばわたくしが不用意にあの弓を手に取ったのが原因ですから」

ニーナはホーリーアローの魔法を放つ。

          2

ノアは不思議な空間にいた。

ぼんやりとした淡い白い光に包まれた空間だ。

「あれ?ここどこ?確かファムムを庇ったんだけど、もしかして、死んだ?あたし」

ノアは周囲を見渡す。

「こら!勝手に死んじゃダメよ」

と、ノアによく似た女性が現れる。

「あ、お母さん」

そう、ノアの目の前に現れたのはノアが3歳の頃に亡くなった母親だったのだ。

「やっぱり、お母さんがいるってことは、あたし、死んだ?」

ノアは何処か妙に冷静だった。

「勝手に死なないの。あなたはまだまだ、此方に来てはいけません」

そういい、ノアの頭を軽く小突く母親。

「そっか、死んでないんだ。よかった。でも、何でお母さんがここに?」

ノアは腕を組み、小首をかしげる。

「うふふ。あなたの成長を見に来た、かな?」

「そっか、元気にやってるよ、あたし。友達もできたよ。ちょっと口煩いけど、ね」

ノアはニーナとナイルのことを話す。

「…そう。いい友達ね。ほら、その友達が頑張ってるわよ。助けにいかなきゃ!」

母親はノアの肩をポンポン、と叩く。

「お母さんが見守ってあげられるのはここまでよ」

「うん」

「それと、お母さんとの約束、覚えてる?」

「勿論!」

「「いつ、どんな時でも笑顔を絶やさない。辛いときこそ笑う。その笑顔がみんなの勇気になる!」」

そうして、2人は目をあわせて「あはは」と声をあげて笑う。

「よし!じゃあ、行きなさい!」

「うん」

ノアは母に背を向けようとし、1度向き直る。

「お母さん。あたし、歴史上1番の魔法使いになるから、見ててよね!」

「はい、行ってらっしゃい!」

「うん!行ってきます!」

そう言い、手を振りながらノアは駆け出したのだった。

            3

「かはっ」

と、目を開くノア。

全身が、痛い…でも、生きてる。ノアはそう、感じた。

「ノアちゃん!先生、ノアちゃんが目を覚ましただす!」

「ファムム…ケガ、ない?」

「わだすは大丈夫だす。ノアちゃんが守ってくれただす。ノアちゃんは大丈夫だすか?いだいとごろねぇでか?」

ファムムは涙目でノアに抱きつく。

「あはは、凄く痛いよ。でも、大丈夫」

から笑いをしながらノアはファムムをぎゅっと抱き締める。

そして、ゆっくりと立ち上がる。

「先生、ファムムを宜しくね」

「ノアちゃんはどうするだか?」

ノアはファムムに微笑みかけて言う。

「やられたらやり返す!見てなさいよ~」

そう言い、痛む身体を引きずりノアは部屋の入口に立ち、魔法の詠唱を始める。

『其は、魔界における6柱が王の1つ。深淵たる大海の王ダゴン。汝が掌にて、我が敵を圧壊せよ』

ノアの右手に魔力が集中される。それは徐々に水の様なもので巨大な掌へと変わっていく。

「ニーナ!ナイル!離れて!」

そのノアの言葉を聞き、石像から間合いを取る2人。

『海王圧壊掌(ダゴンプレッシャー)!!』

ノアは右手を突きだし、魔法を放つ。

超巨大な水で型どられた掌が石像を捕らえる。

魔界6魔王が1柱、海王ダゴンの直接攻撃魔法だ。海王ダゴンは魔王達の中でも一際巨大だと言われている。

放たれた水の掌はゆうにノアの身長くらいの大きさがある。

その掌でノアは石像を捕らえ、握り潰そうと自身の掌の動きを合わせる。

「ぐっ、ちょっと何この石像、すんごい、パワーなんだけど…」

ノアは石像を握り潰そうとするが、なかなか自身の手を握り込む事ができない。

歯を食い縛り、力の限りで、手を握り込む。

ノアが手を握り込むと大海が弾ける様に水が弾ける。

「やっ、やっただか?」

固唾を飲んで見守っていたファムムは身を乗り出す。

「いや…ダメだな」

冷静に答えるちょいワル先生が答える。

魔法の効果時間が切れ、水が霧散する。

だが、石像は健在で大したダメージがあるとは思えない。

「あれま、効いてない?」

ノアは自分の魔法が対して効いていない事に驚いた。

だが、ノアの口の端は上を向いている。

「の、ノアちゃん。笑ってるだす…」

ファムムはそれを見て、少し安心する。

「先生、あれ何?」

「さあなぁ、ただのゴーレムや動く石像(リビングスタチュー)の類いじゃあ無さそうだな」

その時、声が響く。

ー…なる弓を、手にしようとするもの…試練を受けよ…ー

「「「しゃべった!?」」」

3人は驚く。

「守護者(ガーディアン)か!不味いことになりやがった。おい!お前らこいつはやべえ相手だ、逃げろ!」

先生は3人に逃げるよう促す。

3人は顔を合わせるうなずく。

「冗談!だったらその試練とやら乗り越えてやるんだから!次、行くよ!!」

ノアは再び魔法の詠唱に入る。

『其は、魔界における6柱が王の1つ。暴威たる風の覇王ベルゼバブ。汝が暴威持て、我が敵を屠らん』

再び、ノアの右手に魔力が集中する。

「げぇ!この狭いところでそれ使うのかよ!ファムム、伏せろ!」

ちょいワル先生はノアの使う魔法を察し、ファムムに防御体制を取らせる。

『覇王暴風拳(ダイナストブロウ)!!!』

ノアは魔力の集中する右手を石像に突き出す。

凝縮された魔力の塊が石像に命中すると、そこを中心に暴風が渦巻く。

「す、すごい、魔法だす。まるで嵐だす」

ファムムはノアの魔法に驚きの声をあげる、

「ナイル!あの石像は斬れますか?」

「分からない。だが、やってみよう。息を整えるから少し時間をくれ!」

そう言い、ナイルは刀を大上段に構え、呼吸を整え始める。

「分かりました。ならば、わたくしも魔法で!」

ニーナは弓を置き、両手を祈る様に組む。

『天を守護せし6大の天使、汝、苛烈なる火の力、ミカエル…我が求めに応じ、その力を顕現せしめたまえ…』

ニーナが魔法を詠唱しだすと組んだ手の前に火球が形成され始める。

『火熾天裂弾(イグニスバレット)!!』

ニーナが使ったのは天界を守護する6大天使、火のミカエルの魔法だ。苛烈を象徴する天使だ。

火球はニーナの手元で爆ぜ、小さな炎の弾丸の嵐となって石像を襲う。

渦巻く暴風と炎の弾丸の嵐が石像を襲う。

並みの攻撃ではビクともしなさそうな石像も動きを止め次第に表面が少しずつ削れだし、押し戻していく。

「す、すごいだす」

部屋の外で見守っていたファムムにも超強力な魔法が連続で繰り出されているのは感じ取れていた。

そして、渦巻く暴風と炎の弾丸がおさまった瞬間をナイルは見逃さない。

すぅーっと息を一気に吸い込むナイル。

そして、裂帛の気合いと共に大上段に構えていた刀を振り下ろす。

「秘剣・烈風!!」

最大の気合いを放ち、踏み込み、刀を振り下ろす。

巨大な風の刃が石像を襲う。

風の刃は見事に石像の右腕と右足の1部を斬り飛ばした。

足の1部がなくなったためも石像の動きがわずかだが鈍くなった。

「くっ、烈風でこれだけしか斬れないか…」

ナイルは、ニーナとノアの元に戻る。

「いや、あたしの魔法でもたいしてダメージ与えてないっぽいのに、腕斬り落とししちゃうんだもん、すごいよ、ナイル」

だが、そのナイルも呼吸がわずかだが乱れている。

「この、烈風は一撃必殺の剣。限界まで力を溜めてから放った。これ以上は秘剣は使えない。私の身体がちょと、持たない」

ナイルは今の自分の状態を2人に話す。

ノアも今の余力を2人に話す。

「あたしは、後、使えて2回ね。大きな魔法は」

最も、あれだけ強力な黒魔法を連発していてまだ余力があるノアがすごい、を通り越して異常なのだが…

「わたくしは…」

と、ニーナが2人に状態を伝えようとしたところ。

(え?『星』?)

ニーナが目を見開いて石像を凝視しているのに気づく、ノア。

「どーしたの?まさか、例の星が見えたとか?相手、無機物だけど」

「え、ええ。そのまさか、です」

「「え?」」

ノアとナイルは驚きの声をあげる。

確か、ニーナの説明では星は生物にしか現れないはずである。

「わたくしも驚いています。ですが、数が問題です」

ノアとナイルは小首を傾げる。

「6つ、見えています。動物や魔物には1つしか現れなかった星が、6つ、です」

ノアは僅かに思考を巡らす。

「うーん、こういうのって、多分、その星6発同時に射ぬかないといけない系よね」

「私もそう思う。ニーナ、何か手はないのか?」

2人に促され、自分の予想が確信に変わるニーナ。

1度に6つの標的を同時に射ぬく魔法があるかどうかを思い出す。

「とりあえず、時間稼ぎの1発、撃つよ!」

ノアは石像の移動スピードを考慮して、そろそろ限界だと判断し、魔法の詠唱に入る。

『其は、魔界における6柱が王の1つ。暴威たる風の覇王ベルゼバブ。汝が風の力にて、我が敵を十字に斬り裂け』

ノアは両手を大きく開きながら魔法の詠唱をする。ノアの左右の手に覇王ベルゼバブの風の力が収束されていく。

『覇王十字斬(ダイナスト・クロス)ッ!!』

魔力を解放しながら左右の手をそれぞれ縦と横に一閃させるノア。

そこに巨大な十字の真空の刃が生まれ、石像に向かい放たれる。

「これで、どーよ」

と石像を睨み付けるノア。度重なる攻撃で表面にダメージは入ってる。

ナイルが斬り落とした方の逆の腕を狙い巨大な十字の刃がさらに切り裂こうと石像を押し戻す。

「まー、あまり効かないだろうけど、時間稼ぎにはなるよ。どうする?ニーナ?早く考えて」

「そ、そんなこと言われても…1度に6つの標的を射ぬく魔法、そんなものが神聖魔法に…」

ニーナは思考を巡らす。

1度に6つの標的。そんなものを撃てる魔法が…

ニーナは、ハッとする。

あった…

『神性武器顕現』

6大天使の持つ神器の力を一時的に借りる、最上位の神聖魔法だ。その中にある、ある神性武器なら確実に6つの標的を同時に射ぬく事ができる。

問題は、1度も使ったことがないことだが、教書を読み込み、使い方は分かる。もう、やるしかないのだ!

「…ありました。1つだけ。最早それしか手段が考え付きません」

ニーナは決意を持って頷く。

「使ったことがない魔法なので、どうなるか分かりません。ですが、それしかない以上、やります」

ニーナは祈る様に手を組む。

「少し時間がかかると思われます。2人はまた足止めをお願いします」

ニーナの決意を聞き、ノアとナイルは頷く。

「分かった。私も魔法で応戦するが、私の魔力では1度しか使えないと思う。ニーナ、頼むぞ」

ナイルが魔法の準備を始めたところで、ノアの放った魔法が石像のもう片腕の肘から先を斬り落とす。

「へへ。どーよ。って、動きを止める様なモノじゃないんだよね~、アイツ」

ノアは石像を見て言う。

確かに、連続して繰り出された魔法により石像にもダメージが蓄積されている。

腕も破壊したが、まだどのような攻撃をしてくるのか想像できない。今のところ両の腕で殴り付けてくるだけだったが、油断はできない。

「流石だな。ノア」

「いやいや、あたしが此だけ魔法繰り出して腕1つでしょ?あなたの秘剣?ってのの方が凄いよ」

その時、石像が咆哮を上げた、様な気がした。両腕を破壊しても歩みが止まることはない。着実に3人との距離をつめてくる。

「そうか?それは嬉しいな、っと、ゆっくり話をしているわけには行かないな」

「そだね。やろうか!」

ノアとナイルは魔法の体勢に入る。

『光精ウィスプよ、集え』

ナイルが魔力を集中し、言葉を発する。

ナイルの回りにポツポツと火の玉の様なものが1つ、また1つと数を増やしていく。

それが光の精霊ウィスプだ。

「へー、それが光の精霊なんだ」

「ああ。精霊魔法はお前達の魔法みたいな詠唱がない。自分の魔力とイメージで精霊と対話することが大事だ」

なるほど、とノアは頷き、次の魔法を使おうと右の拳を腰の辺りまで低く。

覇王暴風拳(ダイナストブロウ)の体勢だ。この魔法が一番、攻撃回数が多いためのチョイスである。

「ッ!?」

その時、ビキビキッ、と言葉にできないくらいの激痛がノアの右手を襲う。

(な、何、この痛み。ハンパないんだけど。でも、今は

痛いとか言ってらんない!)

ノアは魔力を集中し、詠唱を始める。

激痛に耐えながら魔力を集中し、詠唱をするノア。

ナイルの回りのウィスプもかなりの数になった。

「よし、いくぞ!」

ナイルは左手を開き突き出す。

『ウィスプ・レイ・ブラスト!!』

ナイルが魔法を放つ。

周囲のウィスプ達は球体に形状を変化させ、そこから次々と光線を放つ。

光線1つ1つの威力も少なくはないだろう。しかも攻撃回数に関してもかなりのものだ。間断なくウィスプは形状を変化させ、光線を放つ。放ち終わったものは1度火の玉形態に戻り、一呼吸置くようなかたちで球体になり光線を放つ。

ナイルの放つ光線は石像の動きを押し止める。

そこに、ノアが追撃する。

『覇王暴風拳(ダイナスト・ブロウ)ッ!!』

再度、魔法を放つノア。

「っ!?」

魔法を放ったとき、右腕がブチブチと、音を立てた様な気がした。

再度、石像を中心に暴風が渦巻く。

渦巻く暴風と間断なく放たれる光線が石像を押し止める。

「2人とも流石です。わたくしも…」

ニーナは魔力を集中する。

『天を守護せし6大の天使、汝、安寧をもたらす闇の力、サリエル…我が求めに応じ、汝の持つ神より賜りし聖なる武器を我に与えよ…』

ニーナの魔力が高まっていく。

魔力の高まりからふわっとニーナの髪やスカートが揺らめく。

ニーナの周囲に1つ、また1つと光を纏う漆黒の球体が顕現していく。

「くー、流石にあたし限界~。ニーナ、まだぁ?」

ノアは魔法の維持に限界が来る。

腕の痛みも尋常ではない。

ニーナの周囲の球体が6つまで形勢される。

「くっ、私も限界だ、ニーナ!」

光線の嵐と、暴風がおさまる。

「お待たせしました。行きます!!」

ニーナは右手を突きだし、魔法を放つ。

「フライ・クーゲル!!」

ニーナの放つ力と共に6つの魔弾が放たれる。

神性武器フライ・クーゲル。

闇の大天使サリエルの持つ神器(アーティファクト)である。

使用者の意思の通りに動き、望む標的を撃ち抜く魔弾だ。

ニーナの放った魔弾が不規則な弾道を描き、石像に向かう。

そして、6発の弾丸はニーナの意のままに動き、石像の『星』を6箇所同時に物凄い速度と威力で撃ち抜く。

『星』を撃ち抜かれた石像は動きをピタリと止める。そして、その6つの点、そこから石像の全身にヒビが走り、終に石像は崩壊する。

それを見届けた3人は安堵の息をもらす。

ー…見事なり、天眼を持つものよ、汝、…の所持者足りうる…か…ー

その言葉を最後に石像は動きを完全に止めた。

「や、やった!やりましたよ!試練に打ち勝ちました!」

ニーナが真っ先に声をあげ喜ぶ。

「ああ!どうなるかと思ったぞ」

ナイルも安堵の表情をする。

「うーん。ニーナの魔法もナイルの魔法もいいなぁ、使ってみたいな~」

ノアはウンウンと頷く。

そこに…

「ノ・アちゃーーーーーーん!!凄かっただす!勝ててよかっただす~!」

ファムムはノアに駆け寄り右腕に抱きつく。

すると、ノアは

「あぎゃーーーーー!痛い!痛いから離れてファムム!」

と、16歳の少女とは思えない悲鳴をあげる。

「どうしただすか?ノアちゃん」

ファムムはさらにぎゅっと腕に抱きつく力を強める。

「いっっっッたいから!お願いだから離れて!」

ノアの反応を見て、その場にいた全員は明らかになにかがおかしいことを感じる。

「どうした?ノア」

ちょいワル先生がノアに寄ってくる。

「いやぁ、右腕が痛くて」

と左手で頭を掻きながら言うノア。痛いという右腕は力なくだらーんとしている。

「見たところ外傷などはなさそうですね」

ニーナも目視でノアの腕の状態を確認する。

「多分、魔力回路がダメージ受けてるんだな、こりゃ」

「「「魔力回路?」」」

聞いたことがない単語に3人の声がハモる。

「何だ、知らねぇのか。魔力回路ってのは…」

先生は魔力回路について説明をする。

魔力というものはどんな人間も持っている。人間を構成する要素の中で必要不可欠なものなのだ。

魔法、という技術などを知らない限り魔力を自発的に操作することはまずない。目には見えない物で、魔力回路というのはその中を魔力が通り、全身に巡らせているものだ。血液が血管の中を流れているのと同じような感じである。

そのノアの魔力回路が何らかしらの事情でダメージを受け、ノアの右腕に激痛を走らせているのだ。

「お前さん、今日、何回大魔法つかった?」

「え?うーんと…」

と指折り使った魔法の数を数えるノア。

「6回ね」

その中でも、特に右手に負担がかかる魔法を3度使っていた。おそらく、それが原因だろう。

「ハッキリ言って、魔力回路からのダメージについては俺にも直し方はわからん。とりあえず、痛みが収まるまで極力右手は使わない、右手で魔法を放たない、だな」

「はぁ~い」

と気のない返事をするノア。

「よし、お前ら。とりあえず今日のところは引き上げだ。もう十分だろうし、この遺跡が気になるならまた来れば良い。それに、これ以上の余力もねぇだろう」

先生の言うことは最もだった。

先生に先導され、部屋から出ていく一行。ニーナは手に入れた古い弓を握りしめ、最後に7枚の翼の女神の壁画をもう一度、見る。

(この壁画の女神とこの弓の関係はいったい、何なのでしょうか?それに、この目。石像は確かに『天眼』と言いました。『天眼』とはいったい…)

「ニーナちゃん!置いてくだすよ~」

ファムムの元気な声で我にかえるニーナ。

小走りで壁画の部屋を後にする。

           4

洞窟の外は日が傾き始める頃合い、午後の3時くらいだろうか?

「最後に、こういった洞窟探索なんかは時間感覚が狂いがちだ気を付けろよ」

先生から注意を受け、村へと戻る一行。

「みんな~!ただいまだす~!」

村に戻るとファムムが元気よく駆け出す。

「ファムム?何処さいってた?」

「小鬼にさらわれでますた。ノアちゃんたちが助げてくれますた」

それを聞いた村の人たちはこぞって3人にお礼を言いにやってきた。

ニーナ達は、はじめて人を助けたことによる喜びを感じていたのだった。

「さあ、できたよー!たんとお食べ!」

ニーナ達の宿。

さながら宴会の体である。

「嗚呼!なんて美味しいんだ…」

ナイルは運ばれてくる料理を片っ端から食べては、頬っぺたに手を当てうっとりしている。

「ナイルちゃん、良い食べっぷりだす~。どんどん食べるだすよ~」

ファムムもお手伝いに来ている。

ファムムは次の腸詰めのセットをナイルに持ってきながら言う。

オバチャンはナイルが色々な腸詰めが食べたい!と言ったので村の家々の腸詰めを用意してくれたのだ。

「ノアちゃん。食べてるだか?腕さ痛いけろ?わだすが食べさせるだ。あーんしてな、あーん」

甲斐甲斐しくノアの世話を焼こうとするファムムだが、ノアは「大丈夫だから!左手で食べられるから!」と断る。

「しかしまぁ…ナイルのあの細い身体の何処にあの食べたものが収まってるんだか?見てるだけで胸焼けしそう…」

胸焼け、という言葉を聞いたナイルはノアに

「そういう時はこの酢漬けキャベツだ!口の中と胃がさっぱりするからまたいくらでも食べられるようになるぞ!オバチャン。シチューをお願いします」

と、口一杯に酢漬けキャベツを頬張りながらおかわりをする。

「実際、秘剣はものすごく身体のエネルギーを使うんだ。だから食べなければ身体がもたない。腹が減っては戦は出来ぬ、だ」

そう言い、次々と運ばれてくる料理を嬉しそうに食べるナイル。

ナイルの食べっぷりに注意が集まっているところで「ファムム、ファムム」とニーナがファムムを呼ぶ。

なんだす?とファムムはニーナの側に行く。

「あの、ですね。参考までに、教えていただきたいのですが」

「なんだす?ニーナちゃんみたいな賢い娘でも分からないことあるんけ?」

ニーナは顔を赤くしてファムムに小さい声で聞く。

「わたくしにも分からないことはたくさんあります。それはそうとして、あくまで、参考として、なのですが、何を食べたらファムムみたいにお胸が大きくなるのですか?」

「なにけ?ニーナちゃん、おっぱい大きくなりたいだか?」

ニーナは更に顔を赤くしてシーッ、と指で動作して。

「声がおおき過ぎます!ノアに聞こえます!」

「ん?ノアちゃんに聞かれたらまずいんけ?」

「不味いに決まってます!だからどうか内密に…」

「うーんそうだすなぁ。わだすは毎日、自分の牧場の牛っこのお乳さ飲んでます。それしか考えられないだす」

「わかりました、ミルクですね!よーし…」

話に夢中でノアの接近に気付いていないニーナ。

ノアに気づいたファムム。今度はノアがシーッ、と指をする。

「そすて、ニーナちゃんはおっぱい大きくなってどうしたいだか?」

ファムムのしゃべり方を真似して聞くノア。

「それは勿論、ノアに自慢を…」

「な~んだ、やっぱりあなたもおっぱい大きくなりたいんじゃない!な~にが、わたくしには今の大きさがちょうどいいです!っよ」

ノアにすべてを聞かれていたことを知ったニーナは顔を更に赤くして頭から湯気を出す勢いで恥ずかしがっている。

「ほらほらぁ、何か言いなさいよー、優等生のニーナちゃん」

ノアはニヤニヤ笑いながら問い詰める。

「もう!貴女達がみんな大きいから流石のわたくしも気になります!」

「それなら、ナイルみたいにたくさん食べれば?胸に栄養行って大きくなるかもよ?」

「そんなの世間の噂話も良いところです!お胸が大きくなる前に比例して太ります!」

「じゃあ、よく、揉んでみるとか?キャラバンのお姉さん達、よくやってたよ」

「じ、自分で揉む何て…そ、そんなはしたないこと出来ません!」

「じゃあ、寝る時、上だけ下着しないで寝るとか?締め付けがよくないってお姉さん達言ってたよ?」

「…下着着ないでなんて寝れません!はしたない!」

「それじゃあ、いっそのことテキトーに発体験済ましてオンナになってみるとか?」

「そ、そんなこともっと出来ません!わたくし達には早すぎです!」

どんどん、顔が赤くなるニーナ。

「ところで、ノアはどうして大きくなったのです?」

「どうしてって、自然と…」

下唇を噛むニーナ。

「い、今、初体験って言いましたが、まさかとおもいますが、貴女はまだ経験してませんよね?」

「ん?したよ。あまり良いものだと思わなかったなぁ、あたしは。男はもういいや。男より、魔法よね!」

そこまで聞いたニーナは半泣きになって。

「ノアのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」

と、ノアの痛めている右腕を両腕で力一杯握りしめた後ニーナは逃げるように部屋に駆けて行った。

「ひ、みギャーーーーー!!」

余りの痛みに16歳の女の子とは思えない悲鳴を上げるノア。

「ノアちゃん?ノアちゃんどうしただか?」

ノアは白眼を剥いてぐったりしてる。余りの痛みに気絶したのだ。

「先生!ノアちゃんが気絶してるだ」

「ん~?まぁ、ほっとけ。そのうち起きるだろ?」

と、言うかノアが気絶する程の痛みを耐えていたという事実に気付いていたものはいないのであった。

ニーナとノアの口喧嘩に気付いているのかいないのか、ナイルは何処吹く風で食事を続けている。

「おかわりをお願いします!」

翌日。

「お世話になっただす~、ニーナちゃん、ノアちゃん、ナイルちゃん。また遊びに来てほしいだす~」

ファムムをはじめ、村の面々が見送りに来ていた。

「はい!また来ます。あの壁画をまたゆっくりみたいですし」

「元気でね、ファムム」

「うんだす。ノアちゃんも元気で!わだすもノアちゃんみたいな魔法使いになりたいだす~」

ファムムはノアが魔法を使った時のポーズを取る。

なお、ノアの服は洗濯して返した。

「ご馳走様でした!お土産までいただいて」

ナイルも頭を下げる。

そして、手を振りながら村を後にする。

          5

星導神セリカはお茶を飲み干し、客人に話しかける。

如何でしたか?

この村での経験が3人に大きな意味を持ちます。

最も、この時点ではまだ3人は気付いてません。

ニーナが手に入れた古い弓。

ニーナの眼、天眼とは。

壁画の3女神。

そして、ノアは今回のケガをバネに更なる成長を遂げます。

ちなみに、このファムムですが、彼女との友情は末永く続いたそうです。

さて、今日はもう大分遅くなってしまいましたね。

続きは、また明日に。

客室や湯を用意させています。ご自由になさってください。

さて、明日は彼女達の魔法学校での日常からお話し致しましょう。

それでは、おやすみなさい…


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