第8話 はじめてのクエスト 前編

クスクスと笑い話を終えるセリカ。

如何です?殿方には少しわからないかもしれませんが…兎に角、3人があったばかりの頃のノアは本当にガサツでだらしなくて、ニーナはかなり気を揉んだそうです。今でもたまにこの話を持ち出すくらいですから。

と、お茶を一すすり。

さて、前置きが長くなりましたが、彼女達のはじめてのクエストに話を戻しましょう。

           1

朝食を終えた3人は、クエストに同行する講師の待つ部屋に向かう。

クエストとは、学校側が生徒側に課す仕事の事。街の冒険者が仕事を受けるのと同じ要領だ。依頼は国を通してのものであり、報酬も支払われる。支払われる報酬の一部が学校に支払われ、その資金が学校の運営資金にもなる。

貧しい生徒が費用を殆ど必要とせずこの学校に通えるのはこの制度のためである。

クエストは基本的には部屋単位で受注し、学科関係なくクエストの仕事こなすのは必須事項なのである。

今回は、はじめてのクエスト受注ということで学校側の講師がお目付け役として同行する。クエストのレベルはとりあえず駆け出しの冒険者と同レベルのもの。大きな危険はないハズたが、生徒の実力を推し量る意味も込めて講師が同行し、いざというときのフォローをするのだ。

そして、3人は同行講師の待つ部屋にやってきた。

「「「失礼します!」」」

3人は部屋をノックし、返答を得てから入室する。

そこではすでに男性の講師が背を向け外を見ながら3人を待っていた。

「ようこそ。はじめまして私が貴女達の担当の…」

と、講師が振り替える。すると…

「あ~~~~っ!ちょいワル先生!」

そこにはノアの見知った男性がいた。

「げぇ!ノア!よりによってお前さんの担当かよ」

ノアの登場により、威厳のありそうな態度が一瞬で崩されたちょいワル先生。

「あの~、2人はお知り合い?」

ニーナがおずおずと質問する。

「あ~、何だコイツとは昔馴染みというか、一応魔法の師というか、そんな関係だ。とりあえず、嬢ちゃん2人自己紹介してくれねぇか。名前と出来ることくらいでいいぜ」

ちょいワル先生に促されニーナとナイルは自己紹介する。

「ニーナです。神聖魔法が使えます。後は弓が得意です。それからお料理は得意です」

「ナイルだ。精霊魔法科だ。どちらかといえば、魔法より剣の方が得意だ」

ウンウン頷くちょいワル先生。

「ねえ先生。クエストって何するの?」

「ああ、簡単に言えば小鬼退治だ」

ノアは「また小鬼か~」と言わんばかりの顔である。

「また小鬼さ。嬢ちゃん達は小鬼とやりあったことは?」

ニーナとナイルは首を横に振る。

小鬼退治は駆け出しの冒険者の多くが請け負う事の多い仕事だ。が、とりわけ人気がある依頼ではない。と、いうのも冒険者側からしては旨味が少ないからだ。かといって、基本的には正規の騎士団などで討伐隊を組むほどの相手でもない。放っておけば被害は広がる。そんな厄介な連中なのだ。

「どんな被害がでるのですか?」

ニーナが聞くと、ちょいワル先生は渋い顔をする。

「あー、その前に小鬼について説明しとくわ。小鬼みたいなヒト型をした堕神の眷属を亜人という」

ちょいワル先生は続ける。

亜人は片方の性別しか持ち合わせていないこと。例えば、小鬼にはオスしか存在していないのだ。

「先生、小鬼がオスしかいないことに何か理由が?」

ナイルの質問に答えにくそうにするちょいワル先生。

「それは、だなぁ…」

口よどむちょいワル先生、言葉を選ばない男なのだが珍しいことだ。

「先生、オスしかいない小鬼はどうやって増えるのですか?」

ニーナが小首を傾げながら質問する。

「だよな。そこ、気になるよな。まぁ、小鬼に限らず亜人全般に言えることなんだが…」

説明は続く。亜人の行動理念は基本的に5つ。「喰う、寝る、奪う、殺す、犯す」である。

喰う、寝る、奪う、殺すは分かりやすいが、犯すというのは?と3人は気になる。

「要は、他の動物とおんなじさ。種を増やすための行動だ。まぁ…まだまだ子供のお前さん方には伝えにくいが…」

小鬼は女を拐うのだ。男は殺される。

「女を拐ってどうするのだ?」

薄々、その答えを感じ、寒気を覚えながらもナイルは質問する。

「決まってるさ。犯して、孕ませて、種を増やす。そして、飽きたり、産まなくなったら殺す。それだけだ」

殺すにしても、徹底的に痛ぶって、苦しめてから、だ。

想像通りの答えに3人は口を押さえる。

「だから、俺は言いたくないけどお前さん達若い女の子にこういったこと教えてるのさ。亜人に囚われた時、どうするか覚悟決めて欲しいからな」

ちょいワル先生なりの女の子への気遣いだった。

小鬼のような亜人に犯され、辱しめられてまで生きるのか、どうか?ということである。

「先生。参考までに教えて。男を拐う亜人もいるの?」

ノアは素朴な疑問を投げかける。

「いるぜ。代表的なのは鳥女だ。まぁ、この界隈にはいねぇからそこまで心配しなくていい」

「ん?鳥女がどうやって人間の男を使って数増やすの?」

「ああ、有精卵と無精卵って知ってるな?要は、鳥女の卵を有精卵にするのに人間の男が必要なんだとさ。因みに、卵産んだ後の鳥女は甲斐甲斐しく男の世話をするらしいぜ」

「その後はどうなるのですか?小鬼の話を聞くと無事には済まさそうですが」

「あー、俺も聞いた話だが、孵った鳥女の雛の最初のエサになるんだとよ」

それを聞いた3人は、気分が滅入ってきた。

「それもあって、亜人は基本的には見つけ次第、全討伐だ。1匹も逃がしちゃいけねぇのよ」

亜人の恐ろしさを感じた3人。

「おっと、話がそれたが、クエストの事だが…」

クエストの詳細はこうだ。

ルーンヴェスタの街から街道を馬車で3時間ほどのところにある町。そこから更に徒歩でやはり、2、3時間のところにある山間の村が依頼元だ。山の麓の洞窟に住み着いた小鬼を退治して欲しいというものだ。

「と、言うわけだ。2時間後の馬車で行くから用意して馬車乗り場で集合だ。今回は村が拠点になるから野宿の準備とかは基本的に要らねぇ。用意するものが分からなければ旅なれてるノアに聞きな。何か質問とか聞きたいこととかあれば馬車の中で聞くから、またその時にしてくれ。じゃ、解散」

そこで1度解散となり、部屋に戻る3人。

「口は悪いけど良い先生ですね」

「ああ、経験に基づいた豊富な知識があると感じたな」

「そお?まー、あたしは小さい頃からしってるからなぁ。ま、いいか。とりあえず、準備しよう。えーっと、馬車の旅では…」

と、ノア主導で手際よく準備をする3人。

必要最低限の荷物だけで荷造りをし、約束の時間の少し前に集合場所に行く3人だった。

          2

穏やかな春の陽射しの空の下、街道をゆったりと進む馬車。

数名の冒険者の護衛がついている。ルーンヴェスタより北の国に交易品などを運んでいる様だ。

「先生、街道では小鬼はこないのか?」

ナイルが疑問を投げかける。

「基本的には来ねぇよ。近くにネグラがあったり高い戦力、例えば魔物なんかを飼ってたりだな。そういう奴らが有利だと思う条件でない限り先ず、仕掛けてこねえよ」

あいつらは知能は低いがバカじゃない。卑怯で狡猾なクズどもさ、と、付け加えるちょいワル先生。

「あと、小鬼どもは夜行性だしな。薄暗くなってからが奴らの本領発揮だ」

だから、暗くなる前に現地入りしておこうって寸法さ。とちょいワル先生は続ける。

「まぁ、街道ででるかもしれねぇのは魔物や野党の類いだが、この道は比較的安全でね。そいつらも先ず出ない」

なるほど。と思うニーナとナイル。

行程は特に問題もなく順調に進んでいた。

経由地の町で軽く食事をする。

屋台で売っているパンに腸詰めを挟んだものだ。用はホットドッグというやつだ。

だが、東国のナイルからすれば珍しく、はじめて食べる食材だ。

「この、腸詰めというのは面白いなプリッとしているのに中はジューシーというのかな?ピリッとした感じの風味がまた食欲をそそる」

と、ニコニコしながら食べている。

「うふふ。そんなに気に入りましたか?」

「ああ!いくらでも食べられそうだよ」

「機会があれば作って差し上げますよ?」

と、ニーナ。

「え?ニーナ、腸詰め作れるの?」

「はい。孤児院ではきょうだい総出で作る一大イベントでしたから」

と、孤児院の思い出を語るニーナ。

食事を終え、目的地の村に向け移動を始める一行。

「たしか、あの辺りの村は、酪農で有名よね、先生」

「ああ、そうだな。また、あそこの腸詰めが美味ぇのよ。麦酒がいくらでもすすむわな」

と、麦酒に心を踊らせる、ちょいワル先生。

「とは、言っても、ここのところの小鬼の被害だな。奴等は家畜も奪ってくからな」

そこで、村からの依頼ってわけよ。と先生。

酪農や牧畜による腸詰めや燻製肉、干し肉といった加工食費がこの山間の地域の名物だ。また、上質な馬を育てることでもしられており、貴族からも馬の育成の依頼を受けるところもある。

それで、ここのところの小鬼被害である。牛や豚、馬や羊などの家畜は奪われる。ある牧場では貴族に納めるハズだった手塩にかけた馬を盗まれた。

王国側としても放ってはおけない事態なのだが、如何せん正規の騎士団を回せる余裕もない。そこで、国からの依頼という形で魔法学校に依頼を出したのだ。

中継地点の町から村までは緩やかな山道だ。

牧畜に適した高原地帯という感じで、時折吹き抜ける風は少し冷たいが心地良い。

「嬢ちゃん達。疲れたら言えよ。それから水はこまめに飲め。喉が渇いた、と思ったらあぶねぇからな」

ちょいワル先生は旅慣れないニーナとナイルに指導をする。

「先生、質問なんですが」

「おう。なんでぇ」

ニーナが疑問を投げかける。

「今回の小鬼達、どういった者が率いているのですか?小鬼英雄とかいうのでしょうか?もし、そういった秀でた存在がいない場合、どういった存在が群れを率いるのでしょうか?」

小鬼についてよく知らないニーナからすれば気になる質問だ。

「そうだな、群れの中でもたまたま頭が良いヤツ、一際強いヤツ。体のデカイヤツなんかが群れを率いるさ。中には呪いができるヤツもいるから、そいつらには気を付けろ」

「呪い、ですか?」

「俺たちの使う魔法みたいなものだ。黒魔法ほどの威力はないが…」

魔法!?と聞きノアを身を乗り出す。

「魔法と呼べるかねぇ、あれは。そうだな、外法や禁呪の類いだ。俺たち人間がつかうものじぁあねぇ」

ノアは「な~んだ、つまんないの」と言わんばかりに口を尖らせる。

……

「せんせーい、置いてくよー」

長旅なのにケロッとしている3人をよそに、遅れてへばっている、ちょいワル先生。

「ちょ、何で。おめえさん達疲れねえのかよ、どんな脚してやがるんだ」

道中、こんなやり取りはあったが、無事、目的の村に着いた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…と、とりあえず、着いたぜ。おめえさん達が元気だから予定より早く着いたな」

息を整えながらちょいワル先生は説明をはじめる。

「とりあえず、俺は村長に挨拶してくる。お前さん達はお前さん達で宿を取りな。これも実地訓練の一貫だ。宿を取ったら村の中を見て、村の連中から実際に起きている小鬼の被害についての聞き取りをしてみろ。わかったか?」

ちょいワル先生の的確な指示に「はい!」と返事をし、宿に向かう3人だった。

村は牧場があることからのんびり、のどかな雰囲気である。普段なら、加工食費の買い付けで行商の人達や牧場の観光でゆったりと過ごしたい人が多く見受けられるが、今日はそれが少ない。

大きめの宿にノアが2人を先導して入っていく。

「こんにちわ~」

と、宿に入る。

食堂、酒場件宿屋を兼ねる店だが、やはり人は少ない。

「オバチャン。3人部屋お願いします」

そう言い、受付のオバチャンに話しかけるノア。

「はいよー、っと。あら、アンタ。セリーナさんのところのノアちゃんじゃないかい?この間来たときはいなかっけど?」

どうやら、オバチャンとノアは知り合いの様だ。

「うん。春から学校に行ってるの。今日はその課題で来たの。あ、2人はルームメイトのニーナとナイルね」

ノアが2人を紹介すると、ニーナとナイルも丁寧に挨拶する。

「あら、礼儀正しい娘達だねぇ。オバチャン、気に入っちゃったわ。ノアちゃんをよろしくね~。この娘、色々とだらしないところがあるから」

オバチャンの一言でニーナは朝の出来事を思い出す。

腕を組んで大きく頷き。

「はい!存じてます」

…余談だが、今朝の様なノアの生活態度をめぐっての口喧嘩は当面の間、止むことはなかった。とナイルは語っている。

「あはは。ま、それは良いとして。小鬼が出てるって本当?」

因みに、「良くありません!」とニーナがツッコミを入れたのは言うまでもない

「そうなのよー。うちの村も色々やられてて。牧場の回りに柵を多く建てたりし始めてはいるんだけどねぇ…街に噂も出てるから人が来なくてね~。って、小鬼がどうかしたのかい?」

「はい。私達が退治します。そのために来ました」

と、ナイル。

「えー、危ないわよぉ。アンタ達みたいな子供がそんなことしちゃ~」

「それが課題なんです。大丈夫です。わたくし達は魔法も使えますし。わたくし、弓の腕前には少し自信がありますから」

先生もついてますから。と、ニーナが続ける。

「そうなのかい?まぁ、ホントケガだけは気を付けなよ。あ、そうだ何か食べたいものはあるかい?アンタ達の夜はそれにするよ」

間髪入れずにナイルが食い気味で。

「では、腸詰めを!後、この村の名物などあれば、それも!」

「わかったわよ。ウチの腸詰めは、うふふ、たのしみにしててね。荷物預かるよ。ノアちゃん。いつもの部屋空いてるからそこにしとくわね」

オバチャンとの会話を楽しみ、荷物を預ける3人。

「じゃあ、ちょっと牧場の方に話を聞きに行ってくるね!」

「はいよー!ご飯、楽しみにしておきなさい!」

「「「はい!」」」

3人は宿を後にする。

          3

牧場へと向かう3人。

「ずいぶん、食い気味ですね。ナイル」

とクスクス笑いながらニーナがナイルに問う。

「ああ!実は西側の食文化が気になるんだ。さっきの腸詰めも美味しかったからな!」

なるほどねー、という2人。

そんな他愛もない話をしていると気が付くと牧場に着いていた。

「おや、お嬢ちゃん達、どうかしたのかな?」

おじさんが声を書けてきた。

「すまない。小鬼の被害について教えて欲しい」

「構わないが、それをお嬢ちゃん達が知ってどうするんだい?」

「はい。わたくし達、王都の学校から派遣されてきました。小鬼の退治と皆さんへのご協力のために参りました」

ニーナが丁寧に説明する。

「お嬢ちゃん達がねぇ。まぁ、話すぐらいは構わないが。被害は…」

と、おじさんは話し始める。この村では夜な夜な定期的に牧場に忍び込んでは牛、豚、羊なんかを盗んで行かれている。見張りや坊柵など建てているが効果が薄い。見張りの人はケガをさせられてしまい、どうしようもない。訓練された者ではないから見張りは厳しいのだ。

「なるほど。では、見張りの問題は今夜は私が何とか出来そうだ」

とナイル。

「ほー、どうするんでい?」

と、ちょいワル先生が髭を撫でながらやってくる。

「はい。精霊魔法にちょっと便利なモノがあります」

「なになに!見せて見せて!」

ノアが食い気味にナイルにたずねる。

「実際に見せよう」

と、ナイルは魔力を集中する。そして、魔法を完成させて、地面に両手を当て、魔力を流し込む。

そうすると、土がボコボコボコっと盛り上がっていき、だんだんと人形を取りはじめる。

『クレイゴーレム!』

ナイルが魔法を完成させる。すると

ごごごごごごご…んごーーーーー!

っと、産声を上げるように全高が1mくらいのずんぐりとした土の人形の様なものが誕生する。

「な、何これーーーーーー!すごーーーーい!すごいよナイル!」

はじめてみる、クレイゴーレムに興奮するノア。

「はは。これはクレイゴーレムという土の精霊の力でつくった人形だ。ごく簡単な命令だけを実行できる。耐久力は折り紙着きだ。何せ土の塊だからな」

ナイルはゴーレムに手を当て、魔力を少し込める。

「命令は、こんな風に…魔力を注ぎ込んで行う。今、牧場の見回りを命じた」

すると、ゴーレムはどすどすと歩きはじめる。

「因みに、防衛本能みたいなものはあるので、仮に小鬼がやってきて攻撃されたら、可能な限り反撃もする。これをもう1、2体くらい作れば今夜の見回りは問題ないと思うが、どうかな?先生」

ちょいワル先生は感嘆の声をもらす。

「なるほどな。悪くねえ。ただ、今夜小鬼が来たら俺らの事を気づかれるリスクがあるくらいだ。ま、牧場の安全を考えるなら全然アリだ。早速やってくれ」

ナイルは分かった、と、返事をし、追加で2体のクレイゴーレムを造る。

「ナイル。あなたの魔力は持つのですか?」

「ああ。こいつらは産み出すときにしか魔力を使わない。術者が解除するか、物理的に破壊されるか、作成時に与えた魔力がつきればその場で土に還る。私が普通に造るクレイゴーレムなら、そうだな。明日の朝までは十分に持つだろう」

ナイルはおじさんに。

「牧場の作業をする者にクレイゴーレムには手を出さないように伝えてくれ。それから、今日は安心して休んで欲しい」

「おお、分かったよ。ありがとうな、お嬢ちゃん。早速伝えてくるよ。今日は久しぶりに安心して麦酒を呑めるなぁ…」

と、嬉しそうに去っていくおじさん。

「存外、直ぐに問題を1つ解決したな。やるな、嬢ちゃん。後はゆっくりしてくれ。小鬼の住みかについては俺が村長のとこで猟師の連中から聞いてきたからよ。明日の朝、また話す」

「「「はい!」」」

じゃあ、な。と牧場から去るちょいワル先生。

見れば山間に夕日がだんだんと沈みはじめていた。吹き抜ける風も冷たい。この辺りはまだ王都の辺りの半月くらい前の気候だ。

「じゃあ、あたし達も風邪引かないように宿に戻ろうか?」

「そうですね」

ノア達も宿に戻るのだった。

……

宿にて

「お帰り~。もうすぐ出来るから~!」

3人が戻るとオバチャンが夕食の用意をしていた。

「はーい。とりあえず、楽な格好になってきまーす」

と、ノアは3人を連れて部屋に戻る。

部屋ではすでにベッドメイクもすまされていた。

「じゃあ、あたしここ!」と帽子と上着をベッドの上に放り投げるノア。

『ノ・アっ!!ちゃんと掛けなさい!はしたない!シワになります!』

「もー、掛けるよぅ。五月蝿いなぁ、全く…」

ぶつぶつ良いながらも、ハンガーに上着と帽子を掛けるノア。その間にブーツをニーナの死角に脱ぎ捨て、ベッドの下に隠す。、宿が用意してくれているサンダルに履き替え。ナイルもアオズズアイとハルカマとブーツを脱ぎ、楽な服装に。ニーナはベストを脱ぐ程度。

「んー。ブーツくらい脱げば?浮腫んでパンパンでしょ?サンダル、ラクよ~」

と、ノアが自分の脚を見せる。

「見せなくても構いません!それもダメです!」

と、言いながらも、ブーツは脱ぐニーナ。

確かに、ノアのいう通り、こんなに長時間歩いて移動したのははじめてだから足もパンパンだ。

「ま、まあ。確かに足はパンパンでしたから…」とそっぽを向くニーナ。

「おい!早く下に行こう!ご飯だ!ご飯!」

待ちきれないナイルは2人をせかす。

「とりあえず、お小言は後で聞くから、今はご飯たべよ」

「そうですね」

2人はナイルを追う。

……

「お待たせ~、ナイルちゃん!これがウチの腸詰めよー」

「おお!」

「「でかっ!」」

運ばれてきた腸詰めは長くて、太い立派なものだった。

それがほどよく焼かれている。

「そうだろー。ウチのは大きさが自慢さ!ささ熱いうちにお食べ。後はオバチャンの特性シチューとパンさね」

とテーブルに茶色いシチューと丸いパンが運ばれる。

「お食べ、お食べ!たくさん食べて元気つけな!」

「「「はい!」」」

と、ナイルは勢い良く食べはじめる。

「美味しい!!腸詰めにも色々と大きさが違うんだな!」

ナイルが食べながら興味津々にオバチャンに聞く。

「ああ。ここいらでは、家それぞれで腸詰めの大きさも詰める中身も違うんだよ。今日は用意できなかったから。明日、お嬢ちゃん達が小鬼退治から戻ってくるまでには村中のを用意してやるよ!」

それを聞いたニーナとノアは胸焼けがしそうな感じがした。

「ホントか?それは楽しみだ!全部食べたい!」

「ははは。ホントかい?じゃあ、用意しようかね!」

そんなやり取りしながら食事は進む。

「んーーーーーーー!このシチューというのも美味しいな!何か肉が口に入れた瞬間に蕩けたぞ!」

シチューの味に大満足のナイル。初めて食べる味に感動しているのだ。

「確かに、シチューも美味しいですね。おばさま。作り方を教えていただいても?」

孤児院で料理を作っていたこともあり、ニーナはレシピが気になる様だ。

「いいわよー。じゃあ、これも明日、あんたらが小鬼退治して帰ってきたら教えようね」

ニーナもお料理の味に大満足の様だ。

「ういー、お前ら。明日は小鬼のあなぐらにカチコミだからな。ほどほどにしとけよ」

と、顔を赤くしているちょいワル先生。

「……ねぇ、ニーナ」

「何でしょう?」

「アレは怒らないの?酒、呑んでるわよ。アレ」

「アレは…ダメですけど…」

「けど?」

「一応、先生ですので…」

「あ、そうなんだ。まぁ、いいけど」

何処か納得のいかないノアだが、出された食事は完食した。

「うん!お腹いっぱい!相変わらず美味しいね、オバチャン!」

「はい。わたくしもお腹いっぱいです。とても美味しくいただきました」

「うーん。もう少し食べたいが…ここら辺にしておこう。明日の戦いに支障がでるかもしれないからな」

と、ニーナとナイルも食事を終える。

そして、部屋に戻り、早めに休むことにした。

寝る前…

「へー、寝る前にもお手入れするんだ」

ナイルが自分の髪を整えはじめる。

「ああ。美しい髪を保つのにも手いれは欠かせない」

「ノア!ハダカで寝てはダメですよ!」

「寝ないよ!このままで寝る」

「寝巻きは?」

「いや、持ってこないよ。荷物になるじゃん」

「貴女は…」

「とりあえず、宿だから静かに、な。先生も言っていたが、早めに休もう」

口喧嘩が始まる寸前でナイルが止める。

バツの悪そうな顔をする2人。

「まあ、いいか。とりあえず、お休み」

3人は床についた。

          4

翌朝。

ノアは3人の中でも早く起きて、毎朝のメディテーションをはじめる。

ノアの回りを淡い魔力の光が包む。

しばらくして、ニーナとナイルが起きる。

「あ、起こしちゃった?」

「いや、何をしていたんだ?」

「メディテーションよ。魔力の絶対量を増やす訓練」

「貴女はそんなことしてたんですね」

「まあね。そうだ、折角だから教えるから2人もやってみなよ。魔力が高くなるというか、絶対量が増えたりするから。やって損はないよ」

ノアは2人にメディテーションを薦める。2人は「少しなら」と、メディテーションを教わる。

「そう、まずは…」

と、丁寧にメディテーションのやり方を要点を突いた形で分かりやすく教えていくノア。

実は、この「教える」ということがノアの隠れた才能なのだが、当の本人は今はまだそれに気付いていない。

そして、小一時間ほど3人はメディテーションをし、身支度を整え、1階まで降りていく。

「あら、3人とも早いのね~。ご飯まだだし、ホットミルクセーキでもやろうかね」

と、オバチャンは手際よく3人に温かいミルクセーキを出す。

「ありがとう、オバチャン。して、これはどういう飲み物なんだ?」

「ああ、これかいこれは牛の乳に…」

と、ミルクセーキの事を説明するオバチャン。

ナイルからすれば西側の食べ物、飲み物は何でも珍しいものなのだ。

温かく、甘いミルクセーキの優しい味が、3人の心も体も温める。

そのまま、オバチャンは3人に、ハムに少し炙ったベーコン、チーズと目玉焼きと酢漬けキャベツとレタスなどの野菜とパンとコーンのスープを運んでくる。

「はい、お待たせ、おかわりもあるから遠慮なくお言い」

食事を始める3人。

「おう。もう起きてたのかい?あ、オバチャン、水ね」

と、二日酔い気味のちょいワル先生がやってくる。

「食ってからで良い、出発の準備を整えたら昨日の牧場まで来てくれ。ヨロシクな」

と、要件を伝え、水だけ飲み、去っていくちょいワル先生。

何かあったかな?と3人は顔を見合わす。

……

食事を終え、準備を整え、牧場へと向かう。

んごご?

そこではナイルのつくったクレイゴーレムが3体とも待機していた。が、良くみるとそのうちの1体のからだに矢が何本か刺さっている。

「ナイル。コイツらを見てどう思う?」

「昨晩、小鬼どもがやって来た、ということだと思う」

「そうだ。俺も同意見だ。ニーナ。これにより俺たちに発生するリスクは?」

「はい。わたくし達の様な者の存在が小鬼に伝わりました」

「そうだ。ノア。お前ならどうする?」

「ん?念のため守りを固める。例えばナイルのゴーレムとかで。その上で小鬼のあなぐらにカチコミ!」

「そうだな。俺もそう思う。ナイル。コイツらの稼働時間を延ばせるか?」

「ああ、問題ない。すぐにやろう」

と、クレイゴーレムに魔力を注入するナイル。これで、クレイゴーレムの活動時間が丸一日程度延ばせしたぞ。とナイル。

「よし。じゃあ、行くぞ!ついてこい」

と、ちょいワル先生の引率の元、小鬼達の巣穴に乗り込む3人。

………

小鬼の巣穴で3人を待つものは、果たして何か。









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