第49話 かぼちゃとおバケの大騒ぎ 21

 ドンッと爆発音がして魔法花火が爆ぜる。歓声の中次々に上がる花火が夜空を染める。

「…綺麗です。」

「…うん。」

 花火に見蕩れる横顔に手を伸ばす。それに気付いても逃げないで許してくれた。頬に触れた。指を滑らす。すべすべで柔らかい。

「ルイの方が綺麗だ。」

「え?!…ありがとう、ございます。」

 心から言っているのに驚かれた。何で驚く?

「テオ様の方がお綺麗です。」

「え?ああ、ありがとう。」

 本当に真面目な顔でそう言われた。綺麗って。他の人間から言われたら気分を害していたろうが、ルイが誉めてくれるなら何でも嬉しい。

 踊り終わったらすっかり魔法も解けていつもの髪に戻っていた。残念そうなルイだったが、そのいつもの色にテオは少しほっとした。

「蜂蜜色の髪も、青空色の眼も…」

 ルイの手が伸ばされ、テオの今は月明かりと花火で銀に金に輝く髪に、頬に触れた。

「…綺麗です。」

「…」

 いつにないルイの積極的な接触。嬉しくてわざと黙ってルイのするままに触れさせる。

 頬に触れられる。指先が頬を擦る。何度も。

「?」

 そこはさっき…。

 どん!

 ひときわ大きな花火の音に二人とも驚く。

 遠くの歓声の中パチパチと火花が散り落ち、あとは静かに月光が降るだけになる。どうやら最後の花火だったようだ。

「っ申し訳ございません!失礼致しました!」

 我に返ったルイは慌てて謝り手を引っ込めようとする。その手を捕まえてもう一度頬に触れさせる。

「いや、嬉しい。謝らないで。」

 ルイから触れてくれるなんて。ルイの手の平に頬を擦る。

「っあのっ…」

 ルイの焦りが手の平からも伝わってくる。

 思わず悪戯心が沸いて震える手の平に口付ける。

「あ…口、付け…」

 ルイが小さく呟く。しまった、余計なことを思い出させた。

「ごめん。避けれなくて。…言い訳になるけど、見えなかったんだ。」

 まずは謝る。見えていたら絶対に躱していた。ルイ以外との口付けなどしたいはずがない。

「え?見えない、のですか…。今も?」

「…うん。」

 今も?と思いながらも答える。

「声もでしょうか?」

「『ありがとう』とは聞こえた気がしたけど…。」

 自信はない。聞こえた気がする、程度だ。

「そう、なのですね。」

 ルイは考え込んでいるようだ。

「他にも何か言ってたの?」

「…あ、お礼と、仰ってました。『ささやかなお礼』、と。」

「…そう。」

 お礼ね。ささやかも何も、お礼にならないなんて、わかっている風だったけどな。

「…ずるい、です。」

 考え込むテオを見上げるルイの唇から言葉が溢れる。

「私もまだ…っ!」

 言いかけてぱっと口を押さえた。夜目にも焦っているのが分かる。

「え?」

 それって、それはもしかして…。えええええ?!

 ルイが?あの、ルイが?!

「いえ!何でもございません!!」

 口を塞いだままルイはむぐむぐと言う。こちらに背を向けてしまった。

 何でそんなに可愛いんだ?可愛すぎて胸が苦しい。吐息を漏らす。

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