第43話 かぼちゃとおバケの大騒ぎ 15

「…あの」

「良かった、ルイだ。」

 違ってたらどうしようかと思った。

 安堵の息と共に仮面を外し、素顔を晒すテオにルイはほっと息を吐く。

「テオ様…。」

 何と言って良いのかわからない。

 無言でダンスに誘われ、背格好からテオだと思いながらも半信半疑で応えた自分の方が今ほっとしている、と伝えても、良いのだろうか。

 仮面を外し、テオを見上げる。

「髪の色、変えてると思わなかった。」

 ふわふわの金色の髪。目の色もいつもより薄い。

「テオ様も。」

 レオと同じ色。それでテオだろうと思ったのだが。

「うん。僕の髪の色、目立つから。」

 テオは前髪を摘まむと曖昧に微笑う。他の人間に寄ってこられると困る。なんて言えない。

「私は、御姉様方に変えるようにと。」

 目立たない色だと思うのですが。というルイに胸を撫で下ろす。エレノアは意地悪込みだろうが、ルイの宵闇色の髪は色こそ派手ではないがルイの髪色として大勢に認識されているのだ。

 髪色を変えていなければ先を越されていたかもしれない。

「それで、僕の色にしてくれたの?」

 金髪碧眼。テオの代名詞のような色。

「はい!昔から憧れでした。」

 嬉しそうに髪に視線を落とすルイにちょっと肩を落とす。これは、僕の色だからというより憧れの色だったからか。

「やはり似合いませんか?」

 そのテオの表情にルイは思わず尋ねる。

「いや、良く似合っている。本物の天使のようだ。」

 いつもより淡い色彩の所為か儚げで、つかまえていないと天へ還ってしまいそうだ。

 不安そうなルイを引き寄せようとする。

「!少々お待ち下さいっ」

 知ってか知らずかするりと躱すとルイは姿を消す。

 空を切った手に視線を落としている間にルイは何処からともなく戻ってきた。手には包み。

「あの、テオ様の分、です。」

 開けてみるとそこには『ルイちゃんの焼き菓子、お祭り仕様。』が入っていた。

「…良いの?」

 自分は外れたはず。

「それは、その、試作品で、ですから、あの、試食!そうです!ご試食頂きたくてっ」

「ふっ」

 しどろもどろなルイについ噴いてしまう。わざわざ取っておいてくれたのだろう。その気持ちが嬉しい。

「ありがとう、じゃあ半分こしよう。」

「え?いえ私は」

「『試食』なのだろう?なら付き合ってよ。」

「は、い。」

「はいあーん。」

「?あ…ん。」

 まさか口を開けてくれると思わなかった。両姫にされ慣れているから思わず応えてくれたのだろう。

 思いがけず『あーん』に成功してしまったテオは内心で喜びに震える。ちぎった焼き菓子を口に運ぶ時にルイの柔らかい唇が指に触れたのだ。

 入学の宴で目にして以来ずっとしてみたかった。食べ物を食べさせるなんて思い付きもしなかった。初めて目の当たりにした時は衝撃で固まった。

 ルイの可愛い唇が開いて赤い舌と真っ白い歯が覗く。そこに食べ物が差し入れられる。

 たかがこれだけの動作に釘付けになった。

 羨ましい。僕もしたい。僕の手からも、あんな風に食べてくれるだろうか。

 それが、叶った。

 内心の歓喜と動揺を隠すように自分も焼き菓子を口にする。

「あ、かぼちゃ?」

「っはい!生地に練り込んでありますっ」

 今さらながら頬を染めて焦るルイが可愛い。慌てて口の中のものを飲み込むと答えてくれた。

「いつものやつも美味しいけど、これも美味しいね。」

「それは、光栄です。」

 ほっとしてルイは嬉しそうに微笑んだ。

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