第34話 かぼちゃとおバケの大騒ぎ6
「ウィリアムズ様。」
「何よ。ああルイちゃんは先に行ってていいわよ。」
ルイが例によってお菓子担当に呼ばれ、ついていこうとするアイラをイライザは呼び止めた。周囲の人々はまたかと思いつつ成り行きを見守る。
エレノアの懸念通りの展開。
アイラは女王寮の手伝いに来ているのだが、手伝いなのだか邪魔なのだかわからない。家事の類いは一切侍女任せだったらしく何もかも初めてなのである。ルイはいちいちそれに付き添い付き合い、にこにこ楽しそうに教えているのだが、結果そっちのけにされているイライザら同級生はそれが面白くない。陰で近付き過ぎだと釘を刺したり嫌味を言ったりという事態になっていた。
「何故今日もいらっしゃるのです?」
イライザは邪魔だと言わんばかりに噛み付いた。
しかし無論黙って噛み付かれるアイラでは無い。
「私、仲良しのルイちゃんがどうしてもと言うからお手伝いに来てあげてるのよ?」
イライザがルイの信奉者なのを知っていてアイラは親しさを強調してみせる。
「お手伝いですか?何をお手伝いいただいてるのでしょう?!」
実際アイラは何か手伝うと言うより話し掛けては邪魔ばかりしているように見える。苛立ちを隠さずイライザは言い返す。周囲の人々もそれには同意の雰囲気だ。
「だからぁ私、出来ないとお断り致しましたのよ?でもルイちゃんが手取り足取り教えてくださるって。そこまで言うからわざわざ来てあげたのにぃ。」
それは本当だ。実はルイはイーサンから頼まれていたのだ。僧正寮はお化け屋敷の内装や仕掛けが担当なのだが、イーサンは副寮長として苦渋の思いでアイラを外した。
独占欲の塊のアイラは、イーサンに近付く者を許さない。それでは共同作業もままならないのだ。
仕方なく唯一仲の良い生徒であるルイに頼み込み、アイラを託すことにした。無論ルイは喜んで引き受けた。
ふふん、とアイラは得意げに笑う。
「仲良しのルイちゃんのお願いですもの、仕方ないじゃなぁい?」
「!!!」
激昂したイライザは思わずアイラに掴みかかろうとするが、それより早くアイラの蔦がイライザに絡みつこうとする。イライザが躱して距離を取った先に罠があった。
四方から蔦がイライザに絡む。
躱しきれず蔦がイライザに巻き付いた。
「放しなさいよっ!」
イライザは声を荒らげる。
「上級生に対する礼儀がなってないようねぇ?」
にいっとアイラは嗤って見せる。ちゃんと加減はしているのだ。本気を出せば怪我をさせてしまう。
「っ!貴女年上なの?!」
心底驚いた声にぴく、とアイラの眉が動く。
「失礼ね!年上に決まってるじゃない!」
かあっとアイラの頬が紅潮する。アイラの感情が蔦に伝わり締め付ける力が増す。
「全然、そうは見えないわ!」
助けようとする同級生達をイライザは目で抑える。騒ぎが大きくなるのはまずい。相手も本気じゃない。蔦は彼女の感情にも反応しているようだ。何か動揺させれば。
「何ですってぇ?!」
「子供みたいにいつもいつもルイちゃんにくっついて歩いて!そんなだからお友達の一人も居ないのよ!」
「!!」
「ルイちゃんは私達女王寮のお姫様なんだから!……」
そこまで言ってイライザは蔦が引いていることに気付く。
俯くアイラの下に雫が落ちていく。後から後から。
「そんなの…わかってるわよぉ」
分かってる。大好きな義兄が何故自分を遠ざけたのか、ルイが何故付きっきりで色々教えてくれるのか。
皆自分が未熟で、感情を制御できない所為だ。
「役立たずなのも、邪魔なのも、わかってるのぉ!」
出来るなら義兄と一緒にお化け屋敷を作りたかった。
周囲がルイを独占する自分をどう思ってるかも分かっている。
「でも義兄様が行っておいでって!だから!…だって私!」
義兄も困った顔をしていた。これ以上困らせたくなかった。他に友人らしい友人もおらず、ただルイだけが受け入れてくれた。
「ルイちゃんの他にっ行くとこ無いんだもん!!」
そう言って声を上げて泣き出したアイラは本当に小さな少女のようでイライザ達は狼狽える。
「ごめんなさい!言い過ぎたわ!ごめんなさい!」
イライザはアイラの頬に手巾を当てて謝る。
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