第15話 テオ side4
ルイを狙う魔法陣。
見つけては解除する。
ルイは驚いていた。
どうして判るのかときらきらした瞳で見られた時は胸が高鳴り反応が遅れた。
何度も仕掛けられる魔法陣にルイはどんどん消耗していく。
怒りが沸く。気にするなとしか言えない自分が嫌になる。
ルイは、少し痩せた気がする。
これも、自分の
ルイがまたノアの
自分が追われたかった。余計なことを考えていたら出遅れ、後を追おうとしたが見失った。
ようやく見つけたルイは、ひどく衝撃を受けているように見えた。
何を言ったノア。その姿で。
でもルイは気丈に協力してくれと言った。
一位になる?何の話だ。
思い詰めた顔のルイに胸が痛む。
ルイを悩ませる気なんて無かった。
自分は何をしているのだろう。
初戦が始まった。
ルイが悪魔の蔓に吊り下げられた。
アイラという少女はルイと同じで事情を知らない。
つまり、加減を知らない。
ルイが大丈夫というから我慢して見守っていたが限界だ。
悪魔の蔓の支配を無理矢理奪った。
アイラに標的を定める。
異界に呑まれようが知ったことか。
怒りに任せそう思っていたが、ルイがアイラを助けようとするのを見て、我に返った。
悪魔の蔓を在るべき世界に。
アイラにも、どうやら気付かれてしまった。意外と聡いお嬢さんだ。
平気だというルイを治癒する。
ルイに触れられる。勿論治癒するためだけど、華奢な手首、細い首に胸が高鳴ったのは事実だ。ルイは困ったように目を逸らしている。幸い痣も擦り傷も綺麗に消えた。
近くで見たルイの唇の端が腫れている。慌てて治す。
悪魔の蔓に噛み付いたなんて。
異界の生物、早く治療しなければ。
医務室まで強引に引っ張って行く。
連れていってから、脚にも痣があるのではと気付く。
走らせてしまった。
渋るルイの脚を
やはり痣になっている。
ルイの綺麗な肌に赤い跡が痛々しい。
丁寧に治す。
ほぼ魔力切れになり、気付いた先生からは
エレノアの所為にして誤魔化した。
次からは怪我をさせないように、何か考えなければ。
両姫が来て、傷を
頬を染めるルイに釘付けになっていたら、エレノアに奪い取られた。
両姫から呼び出しの手紙を貰う。
物凄い怒りの波動を感じる。
妃候補の件だろう。
これは自分が負うべき責めだ。
寮長用会議室で二人と会った。
「逃げずに来たか。」
「一人?」
「ああ。」
両姫と対峙する。
圧が凄い。後ろめたさもあり、気圧される。
「ルイを泣かせるな。」
エレノアが低い声で口火を切る。
「泣いた、のか?」
泣いた?あの後に?この所張り詰めていたルイの横顔を思い出す。
「っそんなつもりは!」
「より悪い。」
フレイヤに両断されて言葉を失う。
「ルイは我々が巻き込まれていると考えている。」
確かに巻き込んだ。やむを得ず。
「自分の所為で。」
「何で!」
何でそうなるんだ。
ルイの所為なんて、そんなわけない。どちらかと言えばディランだろう。
「お前が、言ったんだろう?」
地を這うエレノアの声。
「僕が?」
「その上話しかけるなと。」
そんな事言うはず…、つまり、ノア、か。何で。
自分の姿が言ったのだ。言い訳はしない。ぐっと拳を握る。
「自分の所為だと、泣いていた。」
エレノアの言葉に殴打される。またルイを泣かせた。泣かせてしまった。
自分の焦りの所為で。
「全て王子が悪いと言ったが泣き止まなくてな。」
損傷が蓄積していく。
「我々が腕の中で代わる代わる慰めてやった。」
慰め…。
「
昨夜…愛らし…。
「自分から抱きついてきて離れなくてな。」
自分、から…。
「我々もつい夢中に」
どんな言葉も甘んじて受けるつもりだったが、精神的損傷にもう倒れそうだ。
あらぬ想像にぐらぐらする頭を抱える自分にフレイヤが口を開く。
「エレノアのは、半分、冗談。」
半分?それは、どこまで…。
思わず縋り付くように見てしまう。
「でも私も怒ってる。」
フレイヤにもキリと睨まれた。
「泣かすなら王子にルイはあげない。」
「嫌だ!ルイは!」
それだけは!それだけは
「ルイは、僕の」
「私のものだ。それに、なら何故何も言わない。」
エレノアに遮られる。
「っ」
返せない。
「それが全ての原因だ。」
わかってる、けど。
まだ多分呪も解けてない。そうでなくとも
ちゃんと彼女の自由意思で選ばれたい。
それに、命令と思われた挙げ句…
「断られたら…」
怖い。そんなことになったら…
「ならルイに断るように言う。」
「!」
「その程度なのだろう?」
吐き捨てられた。
「違う!」
違う、けど。
「ならば察しろと?僕はこんなに頑張った。だから愛して?」
「…違う。」
『愛して』
強要する愛を思い出す。
報われたいと思っているのは事実だ。
少しは気持ちが通じて欲しい。
そう思うのは、同じだろうか。
「ルイは我々が大好きだそうだ。」
大好き。羨まし過ぎて涙が出そうだ。
「だからルイを泣かせるような奴には渡さん。」
「ルイが、決めることだろう?」
ルイに選ばれたい、選んで欲しい。せめてこれだけでも言い返す。
「嫌われているのにか?」
「だから、だって、踊って、くれた。」
古傷を抉られ、言葉もうまく紡げない。あのルイとの夜に縋るように言う。
「君が王太子だからだろう。」
「…」
返す言葉を失う。
そう、なのか?
久し振りに名前で呼んでくれたあの夜、不思議そうに、でも嬉しそうに笑ってくれた。そう、思っていたのに。
『嫌い』と言ったルイの顔を思い出す。
あの時のあの表情は…。
そう思い込んでいたいだけなのだろうか。
「とにかく、よく反省しろ。」
時間切れだ、とエレノアが纏めた。
満身創痍だ。
でも確かに時間だ。
ルイの護衛に行かなきゃ。
目を腫らしたルイを見たらもう無理矢理抱き締めていた。
ああ、駄目だ、離したくない。
泣かせてしまっても。例え嫌われていても。
もう、手に入れてしまいたい。
フレイヤに
『弄んで』って一体何の話だ。
勿論ルイになら本望なんだけど。
アイラとエレノアの試合から、指輪の障壁を使うことにした。
二人の試合は、ある意味ディランの一人勝ちだった。
魔法で眠そうなルイが、本当に、本当に可愛かったが、危険なので解除する。
やたらルイを目の敵にするノア。
ルイに怪我をさせる気か。何でそんなに。
ルイの見事な捕り縄術に唖然とした。
泣きじゃくるノアを見て、分かった。悪かったな、ノア。
でも、泣いて縋ろうとするノアが、ちょっと羨ましくもあった。
自分には、出来ない。
それに泣いて縋ってしまえば、きっと優しいルイは自分の意思を曲げても側に居てくれる。それは、望んでしまいそうだが望まない。
ルイが背を擦って笑い掛ける。
自分を傷付けようとした相手に向けられる柔らかな笑み、光背が見える。
それだけで嫉妬している自分に気付く。
抱き付こうとするのは全力で阻止した。
ルイが可愛いって、当然だけど、ノアに言われると複雑だ。
気に入るな、凭れるな、バレたらどうするんだ。
ルイが手巾で傷を覆ってくれた。
もう一生付けていたい。
心配そうに見てくれるから医務室に行くけど。
洗って返すと言ったのに手巾は取り返されてしまった。
これを切っ掛けに後で正体を明かそうかと考えたのに頓挫する。
エレノアにルイの様子がおかしいと聞く。また何かしたんじゃないかと疑われた。
薬を飲んでルイを探す。
ようやく温室で見つけた。
珍しくぼんやりと考え込んでいる。隙だらけで心配になる。
早く見つけられて良かった。
声を掛けると何か途方に暮れている。
「何があった?」
言える範囲で良いと尋ねてみる。
「…ある人と、ある人が、同じ人なのかも、と思って。」
「?!」
もしかして気付かれた?内心の動揺をひた隠す。
「誰と、誰、だ」
声が上擦る。
「それは、内緒。」
内緒?内緒って、本人を目の前に言わないってことか?
混乱する。
「と、言われたので。」
言えません。
生真面目なルイ。
言われた、ということは。
「本人から?」
探り探り質問する。
「…はい。」
返答に安堵の息を吐く。
なら、まだ気付かれてない。
そしてディランへの殺意を取り下げる。
じゃあ一体誰と誰の話だ。
「何故判った?」
「…フードの」
言い掛けてはっと自分を見る。
「っ何でもありません!」
フード。ということはまたノアか。
「…分かった。」
そう言うとルイは
「あの、あの…」
慌てて何か必死に言おうとするルイが凄く可愛い。
「分かった。内緒なのだろう?」
「…はい。」
約束すると、ほっとしたような、後ろめたいような顔でルイは頷く。
「…皆心配している。戻るぞ。」
ぽんぽんと頭を撫でる。
本当は、本当に抱き締めたい。
ノアが両姫に怒られた。
のは、ルイには内緒だ。
ルイが自分とノアが同一人物だと思い込んでいたとは。
あの時、何を考え込んでいたんだろう。
もしかして少しは自分の事を考えてくれたのだろうか。
試合の後、泣きじゃくるノアが気になる事を言っていたのでディランに確認させる。
ルイの呪が、もう解けている。
いつ、いや、そんな事より。
呪が解けるまで、と言い訳して延ばし延ばしにしていた、気持ちを、伝えなきゃ。
その前に、確かめないと。
両姫に協力を依頼する。
エレノアが、ルイの目に触れないよう隠していた皇太后からの手紙をルイに渡す。
やはりルイの呪は解けていた。
森に行きたいというルイに付き添うことになった。
いつ、どう、伝えよう。
森へ向かいながら、その事で頭が一杯になる。
門を出て、森の中の道を歩く。
「やっぱり、誰もいませんね?」
ルイが周囲を見回して言う。
それはそうだ。あの時いた人間など…。
詳しくは言うまい。
魔法陣はノアが剥がして見せてくれた。
隣国への転送魔法の陣。
余程それを使って乗り込んでやろうかと思ったが。
「そうだな。」
自分も一応周囲を見回してみる。
「戻りましょう。」
ルイに頷く。
「ルイ!」
二人きりの今、伝えてしまおうかと突然思い付いた。
「?何ですか、レオ」
やや丸い目でルイが振り返る。
「…、足元に気を付けろ。」
「?はい、ありがとうございます。」
そうだ、今、レオだった。
焦り過ぎだ。
会議室まで送り、薬の効果が切れてから、覚悟を決めて会議室に入った。
しかしあっさりルイに逃げられてしまった。
その後は徹底して避けられ続けた。
見掛けると姿を消す。話し掛けるどころではない。
あの時強引に抱き締めたのが、そんなに駄目だったのか。
怖がらせてしまったろうか。
唯一、レオの時は側に居られる。
このままでは、レオの時に気持ちが抑えられなくなりそうだ。
呪が解けた以上、四六時中の護衛は必要も無くなった。
実は心配していた。
呪が解けたら、もしかして全然別の性格になるんじゃないかと。
でもルイはルイのままだった。
変わったと言えば、前より表情が豊かになった気がする。
より可愛い。
はたと、何で呪が解けたのかと考える。
『恋』だとしたら誰に。
焦燥を覚える。
両姫と居ると前より嬉しそうに微笑うことに気付く。
『大好き』って。もしかして。
そう、なのか?
また姿を消された。
フレイヤに睨まれた。
庭園に居るのをようやく見つけた。
寒いのに、と思い上着を掛けた。
頭を冷やす?怒っていたのだろうか。何に?自分が追いかけ回すことにか?
自分の所為で、こんな所まで逃げさせてしまった。
隣に座れるのも、これまでかも知れない。
でも、レオとして、別れを告げた。
最後に頭を撫でる。指先が震えそうだ。
逃げ続けられて、覚悟を決めた。
とにかく気持ちだけでも伝える。
結局、逃げられても、嫌われていたとしても諦められない自分が居る。
こんな気持ちは迷惑かも知れない。
でも、答えが例え否だとしても、きっとずっと、諦めない。
試合が終わったら、引き留めて伝えよう。今度こそ逃げられないように。
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