第12話 テオ side1
満たされた生活に、特に強い欲を持つこともなかった。
力を自覚してからはなおのこと。
万一の覚悟は持ってはいるが、正直王位に興味は無い。
周りも自分も、気楽な二番目と思っていた。
義姉は、王位に相応しい人物だと思う。
ちょっと、いや、かなり奔放な性格だったが。
「テオくんテオくん、ちょっと私遊びに行ってくるから♪」
「またですか
城を抜け出すのは日常茶飯事、その度に偽装するのも。
仲はそう悪くない。
義姉は言霊の力を知っても、気味悪がったりもしなかった。
度量の広い人だ。
最高の環境を用意され、勉学も魔法も容易かった。
唯一剣術だけは熱中した。筋が良いとは言われるが、師範には勝てないのが良かったのだろう。
徐々に強くなっていくようなのが楽しい。
剣の腕を試したくて、こっそり御前試合に紛れ込んだ。
何故か気付かれて、難なく決勝まで勝ち上がってしまった。
決勝は自分と同じ位の少年だった。
手加減は無く、そして僅かに強かった。
単なる腕試しの自分と違い、何か執念のようなものを感じた。
「…参りました。」
負けを認めると、歓声よりも多くの野次が上がった。
腹が立った。
「言わせておけば良いんですよ、殿下。」
相手は歯牙にもかけず、汗ばんだ髪を掻き上げて笑い飛ばした。
歴代最年少で騎士の称号を得た少年は商人の出だった。
野次はその為か。
そう思ったら、声を掛けていた。
「あのっ!」
「…何ですか?」
尊大な笑顔で聞き返された。
「話す内容を決めてから声を掛けるべきでは?」
あ、面白いこいつ。
「是非友人に。」
にっこりと微笑み、右手を差し出した。
「殿下からのお誘いに拒否権は無いですよね。」
心底面白くなさそうに笑顔で握手を返された。
「ではまた」
少年は手を離すとさっと人混みに紛れた。
見つけた。エレノアと居る。
エレノアは幼馴染だ。
周りは妃候補と思っているが。
あいつ名前、そうだ。
「ディラン!」
声を掛けたら一瞬凄い目付きで睨まれた。
さっと笑顔に取り繕ったが、圧をひしひしと感じる。
「何だ、王子の知人か。」
エレノアは逆にほっとしたようだ。
「さっき友人になった。」
エレノアも試合に出ていた。
早々に敗退していたが。
「ならば友人同士ということか、失礼した。」
笑顔でエレノアは手を差し出す。
「よろしく頼む」
「…よろしくお願いします。」
やや硬い笑顔でディランも握手を交わす。
「エレノア様とお知り合いなんですね」
笑顔のディランの視線が何だか痛い。
その視線の意味がまだ解らなかった。
「ああ、幼馴染だ。」
「良く登城なさいますか?」
「良く、ではないが。」
「俺も登城して構いませんね?」
「…、ああ、伝えておく。」
問題は無い。
圧に押しきられた感もあるが。
次の日からディランは毎日のように登城してきた。
そのうち、たまに登城してくるエレノアやフレイヤとも親しくなっていった。
父王の誕生祭がきた。
国中がお祭り騒ぎになる。
義姉は案の定早々に雲隠れした。
来客の相手やら何やらを全部こちらに押し付けて。
相変わらず要領が良い。そういうところが敵わないなと思う。
父母達がようやく現れたので自分もこっそりと退散した。
庭に出る。もう外は暗くなっている。
これ以上誰かと会話するのは流石に億劫だ。
なるべく目立たぬよう暗がりを目指す。
溜め息を吐く。
ディランはここぞとばかり、人脈を広げていた。
天性の商売人。感心する。
自分も社交的な方だと思っていたが、上には上がいるものだ。
視界の端で何かがふわりと光った。
不審に思ってそちらに近付く。
「あらテオくん、貴方もサボり?」
義姉だった。
義姉の魔法陣。
人騒がせな。義姉はもう城へ向かった。
魔法陣、消してないな。
と思った時だ。
何かが魔法陣目掛けて降ってきた。
曇り空のせいで良く見えない。
光の中に一瞬浮かんだ小柄な人影が闇に紛れた。
子供か?声一つ上げないとは。
もしや刺客か。
義姉をつけて来たのだろうか。
殺気は感じない。とりあえず捕らえてみよう。これも腕試しだ。
狩りをしているようで、不謹慎だが高揚する。
気配を辿る。見つけたと思ったら気配が跳んだ。探して寄ると更に逃げる。
こちらに気付かれている。
捕らえようとやや無用心だが手を伸ばす。躱された。
気配は植え込みの影に逃げ込んだ。
すう、と息を吸い、言葉に魂を乗せる。
「何者だ?」
答えるだろう、と思った。
なのに答えない。何故答えない。
剣を抜いた。是が非でも捕らえなければ。
言霊に反応しないなんて。
剣を振るった。弾かれた。音からすると木の棒だろうか。
切っ先を
驚いた。剣で
声も上げない。
再び剣を振るう。
左に右に逸らされる。
何とか壁際まで追い詰めていく。
ようやく捕らえられると思った途端、人影は宙に舞った。
慌てて自分も跳んで、空中で掴んだ。
身体の均衡を失った人影は地面に倒れ込んだ。
「っ」
不審な人物がようやく声にならない声を上げた。
「何者、なんだ?」
掴んだのは足首だと気付き、その細さに驚く。
「怪しいものでは…」
もしや喋れないのかと思ったら、ようやく発した声が高い。
高い、澄んだ声。声変わり前か、それとも。
「失礼だが、もしかして君は女の子?」
だとしたら随分乱暴に扱ってしまった。
否定しない。心臓が跳ねた。
雲の切れ間から射す月光が、目の前の人物の顔を照らす。
乱れた前髪から覗く顔に目を
何というか、とても、可愛い。
視線に気づいたのか彼女は髪を整え、顔を隠してしまった。残念だ。
立ち上がらないのは自分が足首を掴んでいた所為と気付き、慌てて離した。
抵抗もないし、害意は感じなかったから。
「怪しくないと言うなら、どこの誰だか教えてくれないか?」
剣を納めて微笑んで見せた。敵意は無いと。また言霊を使った。
君のことが知りたい。
「…殿下に名乗れる名などございません。」
やはり
王子だと判ったらしい。
彼女は格好のまま男の子のように頭を垂れる。
「そんなことはない。是非お聞かせ願いたい。そしてどなたに師事なさっているのか。」
更に言霊を込める。こんなに言霊を使いたいと思ったことは無かった。
効いてくれ、と願ったことも。
「私の師は表に出ることを好みません。」
「ご容赦下さいますよう。」
やはり、効かない。初めてだ、こんなこと。
「では君の名前だけでも。」
畳み掛ける。言霊を使ったかどうか、自分でももう分からない。
このままだと不審な者として捕らえなければならなくなる。手荒な真似はしたくない。何とか名前だけでも答えて欲しい。
「…名乗れば帰していただけますか?」
「約束しよう。」
名乗るという言葉につい即答してしまった。
失敗した。
あの不思議な剣の話も聞きたかったのに。
「…ルイ、と申します。」
本当に名前しか答えてくれない。
名前も男の子みたいだ。
「それは本名?」
偽名かと、やや不審に思って聞く。
「父母とも私をそう呼びます。」
「そうか、ならば僕もそう呼ぼう。僕はテオと呼びたまえ。」
父母を引き合いに嘘は吐かないだろう。甘いがそう判断した。
「?!いえ、それは、」
「構わない、友となったのだから。」
勝手に友達宣言をする。
王子には逆らえないだろうことを分かっていて。
我ながら卑怯で狡い。
でもこの機会を逃せば、二度と繋がりを持てない気がした。
「こちらでしたか。」
ディランがやって来た。
正直邪魔に思った。まだルイと少ししか話していない。
自分のその心の動きに驚く。
「ああ、ちょうど良かった。友人のルイだ。こっちも友人のディラン。」
二人に何か言われる前に友人として紹介してしまう。
ルイはずっと困惑気味だったが、ディランの名を聞くと顔を上げた。
「ディラン様?騎士のディラン・テイラー様ですか?」
隠れた瞳が輝いてる気がする。
弾む声に心がざわめいた。
「お会いできて光栄です。」
お辞儀をするルイの口元に笑みが浮かんでいる。
胸の辺りが何故か重い。
「はじめまして、天使に仕える悪魔です。」
ディランは営業用の笑みを浮かべ、皮肉を吐いて右手を差し出す。
「失礼、困らせてしまいましたね」
初めは強めに出て相手の出方を見、スッと引いて惹き込む。ディランがたまに使う手だ。何時もは何とも思わないその手管に妙に心を乱される。
案の定彼女は手を握り返しながらディランを見つめている。
前髪に隠されていても分かるのが腹立たしい。さっきからディランしか見てない。
自分はまだ握手もしてない。
何でこんなに苛々するんだろう。
「ところで、そろそろ戻られては?」
いい加減とっとと戻れと目が言っている。
義姉が戻るまで暫し休憩と思って出てきたが、そういや先ほど戻って行ったな。
居続けるのがあまり良くないのは
「わかってる。」
いつもならすぐ従うが、今日は苛々を込めて睨み返す。
ディランはその視線を不思議そうに受け止める。
「また、会おう。」
絶対。ディランから右手を奪い強引に握手する。
華奢な手。やはり女の子なんだと思ったら心が浮き立つ。
ディランに家まで丁重に送るように言い付け、断られる前に離れた。
ディランはやや不審な顔をしていた。
ディランは割りとすぐに戻ってきた。
式典終わりに聞くと城外に出たところで別れたという。
送れば家が分かったのに。
向こうが断ったし、男にそこまでしてやることはないだろう、と言われて呆気にとられる。
「ルイは女の子だ。」
ちょっとむっとしてそう言うと珍しくディランが驚いた。
「そんなはずは、いや、そうでしたか。」
失礼しました。珍しく詫びた。
そんなはず?もしかして、
「ルイと面識があるのか?」
勢い込んで聞いてしまった。
「無くはないですが。」
ほぼ初対面ですよ。向こうも覚えて無いようですし。
「全く、あの人の何がそんなに気になるんです?」
さも面倒臭そうにディランは言う。
あの人、という呼び方が
何でこんなに苛々するんだろう。
「わからない。」
正直に答えると鼻で
「わからない、けど、興味がある。」
そうとしか言えない。気持ちの正体が掴めない。
「じゃあ調べておきますか?」
「頼む。」
報酬の相談も無しに依頼してしまった。
にいっと嗤ったディランに、これは高くつくな、と思ったが、背に腹は代えられない。
ディランの作戦通りに待ち伏せた。
ルイの稽古場へと向かう道。
あの日月明かりの下で見たルイがこちらに向かって歩いてくる。
ディランが止めるのも聞かず駆け寄って声を掛けてしまった。
「久しぶりだ。」
「…お久しぶりです。」
半分髪に隠れているのに、凄く迷惑そうな顔をされたのが分かる。
ルイは会釈をすると通り過ぎようとする。
「待って。付いて行って良いかな?」
「えっ」
断らないよね、と笑顔で圧をかける。
無言でしばらく固まられてしまった。
「何度も申し上げますが、」
「分かってる。見学だけだ。」
言い掛けるのを遮る。
「許可も取る。」
君に迷惑は掛けない。
と続けると、既に迷惑、という空気を濃厚に漂わせる。
後から来たディランが苦笑する。
「ディラン様!お久しぶりです!」
ちょっと弾んだ声。
何だその態度。面白くない。
「お師匠様に断られたら、ちゃんと連れて帰りますから。」
ディランの言葉にそれならとルイが頷いた。
ディランの言うことは聞くのかと、またもやもやする。
稽古場に、師匠はまだ居なかった。
窓?扉?障子と言うらしい、を開け放ち、ルイは掃除を始めた。
掃除なんてしたことがない。
つい物珍しく見てしまう。
邪魔な前髪を上げ、結んでいる。
ディランが顕になったルイの顔を見て、唖然とした後、こちらをじいっと見る。
「なるほど?」
その言い方に無性に腹が立つ。
でもやっぱりルイは可愛い。容姿に惹かれたと思われても仕方ない。
箒で掃き清め、雑巾でひととおり拭く。
次にルイは木刀で素振りを始めた。
刀という東方の武器を模したものだそうな。
それが終わると床に不思議な姿勢で座り、目を閉じた。
「座禅、とかいうやつでしたか。」
ディランが邪魔をしないよう声を潜めて囁く。
「精神の鍛練に用いるとか。」
聞きながらルイを見詰める。
視線を感じるのか、やや居心地の悪そうな顔でいる。
ああ、どうしても邪魔をしてしまうな、と思いながらも目を離せない。
不思議で綺麗な姿勢を見つめる。
「気が乱れている。」
気付けば師匠とおぼしき人物が立っていた、自分に言われたのかと思った。
ルイが決まりの悪そうな顔をしている。
「どなたかな?」
独特の雰囲気と威厳。いつの間に現れたのかわからなかった。
この方がルイのお師匠様。
「お初にお目にかかります。ルイの友人のテオと申します。」
今日一番の目的は師匠に会うこと。
それは確かだ。
「見学だけでもさせていただきたく参りました。」
出来るだけ丁寧にお辞儀をする。
言霊を使いたかったが、それも不敬に思いやめる。
「そちらはディラン殿か?」
最年少の騎士は有名だ。
「友人にわざわざ来てもらったのだ、無下にすることもあるまい?」
やった!ルイはちょっと不服そうにしていたが、両手を床に揃えて頭を下げた。
変わったお辞儀だが、この流派の流儀なら自分も覚えよう。
「靴は脱いでお上がりなさい。」
見ればルイも靴を履いてない。
正座、という座りかたを教わり、大人しく見学する。
足がだんだん痛くなるが、意地で座り続ける。
ディランは涼しい顔で背筋をぴんと伸ばして座っている。
ルイと師匠は型を使って稽古している。
覚えようと真剣に見る。
稽古が終わり、立ち上がろうとした時に異変が起こった。
痺れと痛みで立てない。
ディランはあっさり立ち上がった。
「大丈夫ですか?」
ルイが手を貸してくれた。ちょっと笑いを
情けない、格好悪い。
「また、来ます。」
師匠にお辞儀をして、足を引き摺るように帰る。
それから城を抜け出しては
掃除も一緒にするようになった。
正座にはなかなか慣れないが。
ようやく木刀を持たせてもらえるようになり、ルイと試合もできるようになった。
初めのうちは
打ち倒される訳ではないが、いつも浅く斬られて負ける。
ルイは息も上がってない。悔しかった。ディランがあっさり勝ったのも。
どうしたら勝てるか、その頃はそればかり考えていた。
ディランを付き合わせて特訓もした。
城の剣術の師範には変な癖が付いたと叱られた。
それでもやめなかった。
そのうち十回に一回、勝てるようになった。
ルイは負けても表情を変えない。
でも次は同じ手では勝てない。
段々、徐々にだが、勝てる回数が増えてきた。
「次に三本勝負をして、僕が二本取ったら、僕を名前で呼ぶこと。」
賭けをした。身勝手に。
テオって呼べと言ったはずなのにルイはいつまでも殿下と呼ぶ。
友だと思っているのはお前だけだと言われているようで嫌だった。
「…わかり、ました。」
まだ勝てると思っているのか、
その日、訪れた自分を見たルイは、少し顔を曇らせたように見えた。
「三本勝負、ですか?」
ルイの問いに頷く。
木刀を持って向かい合う。
師匠はまだ来ていなかった。
ディランが立会人を務める。
「始め!」
ディランの声に、同時に間合いを詰める。
ルイの踏み込みが浅い。
やはりどこかおかしい、気がする。
打ち合ううち、ルイが逸らそうとする切っ先を逆に弾き返した。
弾みで木刀が手を離れる。軽い音を立てて床に転がり滑っていく。
「参りました。」
素手のルイは一礼すると、木刀を拾いにいく。
「体調が悪いなら…」
近くに行ってそっと言いかけるとすっと強い光を湛えた目を向けられる。息を呑む。
それ以上言葉が出なくなった。吸い込まれそうだ。
「…何でもありません。」
一瞬睨まれた気がした。
再度、立ち合う。
珍しくルイから打ち込んで来た。
受け止めて押し返す。
ルイは唇を引き結び、再度打ち込んで来る。
焦っている?
受け止める。ルイと目が合う。
心臓が跳び跳ねる。
動揺して力一杯押し返してしまう。
ルイがよろめく。
思わず手を伸ばしそうになる。
踏みとどまり、一瞬戸惑ったような間があり、もう一度打ち込んで来る。
何故か、太刀筋に怒りを感じる。
余裕の無い打ち込みが続く。
らしくない。
いつものルイなら。
思いながら躱し、受け止め、打ち返す。
二本目も、取れてしまった。
三本目は不要と確認すると、ルイはタオルを掴んで道場から出ていった。
「待って!」
思わず言霊が出た。
ディランが動きを止めた。
「違う!」
怒鳴るとディランがはっと我に返る。
「今のは?」
ディランが物凄く、嫌な笑みを浮かべている。
「後にしてくれ。」
ディランを押し退けてルイを探す。
顔の汗を拭っているのかと思ったら、切れ切れの小さな嗚咽が聞こえた。
そっと近くに行く。
その時、何故そうしたかわからない。
ルイの手首を掴んで顔から引き剥がした。
タオルが落ちるのを掴む。
見開かれたルイの瞳は濡れて輝いていた。
ああ、気付いてしまった。
鼓動が速まる。頬に、頭に血が昇る。
「何を、…返して、ください。」
ルイは隠すように俯いて、差し出したタオルを受け取る。
また顔を
つい、その頭を撫でた。
触れたかった。泣き止んで欲しかった。
ルイの肩がぴくりと動いたが、振り払われたりはしなかった。
「…済まない、僕の所為で、」
謝る。
「?」
ルイはきょとんとタオルから目だけ覗かせた。
目が合うと何となく気まずくて手を引っ込める。
「だからっ、体調、悪いのに、無理にさせた、からっ済まない!」
つっかえる。自覚した気持ちに頭が追い付かない。
「だから、泣かな…」
「泣いてません!」
強く遮られた。
いや、泣いてただろう、とは思ったが。
「そっか、ごめん。」
ルイがそう言うなら、と思ってしまった。
「でも僕の所為だろう、その、落ち込んでいるのは。」
「!違います。」
「自分が、不甲斐なくて…。」
そう言ったルイはしばらく黙る。
涙を
その後、ルイは訥々と話してくれた。
いつでもちゃんと戦えるようにしないといけないのに。
体調も表に出してはいけないのに。その上、手加減してもらうなんて、と。
「そんなことしてない。」
手加減なんて覚えは無い。
ルイを見る。ルイも探るようにこちらを見る。見詰め合い、睨み合い?先に目を逸らしたのはルイだった。
「…、そう、でしたか。」
ルイは吐息のように呟く。誤解が解けたようでほっと息を吐く。
しばらく沈黙が続く。
「私、男の子が良かったです。」
ルイがぽつりと漏らす。
男ならもっと力も、身長も。体調だって。
「僕はっ」
つい大きな声になる。
ルイの目が丸くなる。
耳が熱い。
「…僕は、君が女の子で良かったと思っている。」
ルイは呆気に取られた顔。
その後、ふわっと、微笑った。
初めて、自分に微笑ってくれた。きっと今、顔は赤くなってる。
「…ありがとう、ございます。」
お気遣い頂いて、と続く言葉にがっくりする。
そういうつもりじゃないんだ。
「…賭けはやめだ。」
溜め息を吐き出すように言う。
賭けなんてもうどうでも良い、いや、むしろするんじゃなかった。
「?」
ルイは不思議そうに見上げてくる。
「お願いにする。」
ルイを見つめる。
「少しでも、僕を友と思ってくれるなら、名前で呼んで欲しい!」
もはや友情とは言えなくなった思いを込めて懇願する。
「…分かりました。テオ様。」
少し考えて、ルイはにこっと笑った。
「分かりました。テオ様。」
現れたディランが真似をする。
「いや、お前はいい。」
「じゃあ呼び捨てで良いですね?」
げんなりして言うとそう言われた。
本当に良い性格だ。ルイがくすくす笑っているので、まぁ良いかと思ってしまった。
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