九月二十六日
「ゆげちゃん、片づけ終わった? なに見てるの?」
そう言って【みやじま】……宮仁(みやまさ)は当たり前のように俺の部屋に入ってくる。
「101掃のアルバム。片付けならあらかた終わったぞ。必要なのあったら持っていけよー」
俺が言い終える前、既に宮仁はその辺りに置かれたダンボールに腕をつっこみ宝探しを始めていた。さすが、菅仁の弟というべきか、それなりに図々しい。
「【えたじま】にもいくつか見繕ってあげようと思ってさ」
宮仁の口から出たのは、今まさに練習艦に鍛えられている真っ最中の後輩の名前。俺と長哉が居なくなった後に就役する最新鋭の掃海艦だ。
「おう、廊下にもあるからな」
「はいよー」
宮仁はダンボールの中に視線を向けたまま、俺の呼びかけに適当に返事をする。その後ろ姿はスーパーでお菓子を吟味する子供のようで、畳敷きの俺の部屋に似合わない。
「あっ、ゆげちゃん、これもらっていい?」
そう俺に向かって軽く振られているのは二年前に退役した兄、【くめじま】の退役記念のジッポだ。
「【えたじま】、煙草吸うのか?」
「いや、まだ吸ってんの見たことない。俺が欲しいんだけど」
「あー……いいぞ」
「ありがとう」
ジッポが宮仁のズボンのポケットに収納されたのを見届け、再びアルバムに視線を戻す。そこに写っているのは、もうこの世にはいない艇たちだ。
【竜宮】は海の底にある。
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