九月六日 0826
「あっ、弓! 弓哉! 【しらせ】もう出るみたいだぞ!」
長哉の声に慌てて周りを見ると、他の艦艇はすでに『UW』の旗を上げ紅葉よりも明るい色をした艦を見送っていた。
「嘘だろ!!」
急いで旗甲板に走り、旗を付け索を引っ張る。赤白青の旗が一本目のマストに上がったのを確認して、索を専用の突起に結べば、ほうっと安心のため息が出た。
「もうH(ホテル)じゃないから油断できないな」
「ほんとにな……あ、【むろと】も今上げた」
「あいつ、ずっとA(アルファ)にいるのにな」
「まあ、留守にしてることも多いしな」
「ねえ、聞こえてるんだけど」
少しだけ不機嫌を滲ませた声に振り返れば、【むろと】が眉間に皺を寄せ立っていた。
「わざわざ、移動してきたのか」
「ジジイが揃って悪口言ってるから文句言ってやろうと思ってね」
「【音響測定艦】みたいだな」
【むろと】が悪戯そうに口角をあげる。【補助艦艇】は総じて穏やかな性格をしているが変人奇人があまりにも多いので油断ならないというのが【道】の常識だ。
「そういえば【むろと】泊避(はくひ)しないのか?」
「今、準備中だよ」
「そうか、気をつけてな」
「ありがとう。そっちも、バラバラにならないように」
「まあ、バラバラにになっても、もうすることもないから差し支えないけどな」
日曜日の朝だというのに、港の艦艇のほとんどのレーダーが回り、機関が出港に向け唸る。
「これが最期の台風かな?」
「それはどうかな」
「縁起でもない」
いつもより濃い潮の香りを含んだ風が吹き、『UW』の旗がたなびく。艦乗りの歌がスピーカーを通して今日も港に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます