九月一日
秋とは暦ばかりで太陽がまだまだ元気に地面を焼いている、そんな仕事もなにもかも放り出してしまいたくなるような気候だが、今日も【道】は通常営業である。
「みやー」
「なんですか?」
俺が意味もなく背中をつつくと【みやじま】は心底面倒くさそうな顔をして体を捻って逃げる。
「SAM君、いらない?」
「いらない」
また意味もなく一歩近づけば【みやじま】も一歩下がる。もう、背中は取らせてはくれないつもりらしい。
「ほら役に立つかも」
「俺たちじゃ曳航できなかったの見てたでしょ?」
「でも最近いい子だったしさ」
「もう終わりって時にいい子になるのも困り物だね」
俺たちと一緒にお役御免になる装備の話を持ち出せば【みやじま】は肩を竦めて少し困ったように笑った。俺としては手のかかるじゃじゃ馬ほど愛着がわくもので、このまま用途廃止にしてしまうのはなんだか少しもったいない気がする。だが、【みやじま】たちが扱えないといのもまた事実なのである。
「なあ、みや」
「なに?」
「ヒマ」
「だと思った。ゆげちゃんいないからって、俺で暇つぶししないで」
「えー」
「ほら、アイスあげるから」
「ん、ありがと」
手渡されたのは【みやじま】の兄らが好んで食べている甘いコーヒー味の二本引っ付いているのが売りのアイス。きっと冷凍庫にはもう一本あるのだろう。アイスの外側についた水滴が落ち、岸壁のコンクリートに水玉模様をつくる。その様子をぼんやり見ながら残った夏を味わった。
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