三月七日 最後のドックあけ
よく晴れた暖かい日。鉄の鯨の巣窟たる呉港に入ってくる艇が一隻。綺麗にペンキを塗られどこか自慢げにフェリー乗り場のすぐそこ、港の隅っこの定位置にもやいをかけた。
「最後のドック終わった!」
グッと背伸びをしながら入港した掃海艇ながしまの【艦霊】長哉が岸壁に降り立つ。そして、スッキリとした晴れやかな顔で改めて港を見回せば、ドックに入っている艦や、今まさに建造中のタンカー、鉄工所の煙が目に入る。
「さてと……。なあ、弓、これからどうする?」
そういって振り返れば兄の弓哉がわざわざ、ながしまの灰皿の前で煙草を吸っている。
「んー、暇だよな」
訓練に行くことももうない上に変なウイルスが世界中で流行しているせいで一般公開も軒並み全てキャンセルだ。ようするになにもすることがないのだ。
「……あ、弓」
「なに?」
「ただいま」
「おかえり」
岸壁の桜はまだ咲かない。
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