二月十三日 元くめじま曳航
青い海と青い空の間を、空色のタグボートに曳かれて行く灰色の船が一隻。
「弓ちゃん、久ちゃんが行くよ」
長哉が徐々に遠ざかる船を指差す。二本のマストとボロボロの船体は間違いなく自分たちの兄だった船だ。
「長かったな」
「二年もそのままだったもんね……」
いつかは来る日だったが、いざとなると一抹の寂しさを感じる。
「これで最後かな」
長哉が灰皿に灰を落としながら呟く。本来ならば見送る掃海艇はこれが最後の一隻だったのだ。
「あー、のとはどうなんだろうな……」
自分たちよりも先に逝くことが決まった後輩を思う。俺たちですらまだ走り足りないと思っているのだから、さぞ歯がゆいことだろう。
水平線に灰色の船が溶けてなくなるまで、二人で煙草を吸いながら見送った。最後の春はもうすぐそこに来ている。
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