四月

 春爛漫、花の盛りは過ぎようとしているものの、散歩するにも訓練に勤しむにも文句なしの陽気である。だがしかし、【道】には何十年ぶりかの『現世間往来禁止令』が布かれている。勿論、原因は現世にて猛威を振るう新型ウイルスCOVID‐19だ。

「鯛めし食べたかったなあ」

「蛇口からみかんジュースして、のとに見せてやろうと思ったのにな」

「あー、お前ら一般公開、愛媛だったのか」

「そうそう。久しぶりの仕事……というかもう一般公開くらいしか現世ですることないんだけどな」

【道】に引きこもることに決め、訓練の他にすることの無い【艦霊】達が示し合わせたように食堂の一角で灰皿を囲む。

「今年は除籍多いなー」

「そのうち掃海艇が三隻」

「呉が寂しくなるな」

「【えたじま】が来るよ」

「まあな」

もう少し先のことを肴にしながら青い煙を吐き出す。【ゆげしま】が吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて二本目を出そうと胸のポケットに手を入れる。

「あ、もうない。誰か一本ちょうだい」

「はいよ」

当たり前のように伸ばされた【ゆげしま】の手に白地にパステルカラーのパッケージの煙草がのせられる。

「……ピアニッシモって」

「今日の買い出しは彰が行ってくれたからな」

「ああ、【こんごう】が吸ってたやつだ」

「仕方ないといえば、しかたないのか」

「次は瀧喜(たき)に行かせよう」

「そうだな」

【ゆげしま】は細い煙草に火をつける。厨房では補給艦が忙しなく昼食の準備をしている。

「今日の昼ご飯なんだろうな」

「もー、おじいちゃん。さっき朝ごはん食べたばっかりでしょう」


 非日常から日常へ。


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