令和二年

一月一日0800

 一年が大体三百六十五日。年末が足早にやってきては、あっという間に年が明け干支が変わる。そんな当たり前が最後の一回になる日が来ることを、進水した日には考えもしなかった。最後のたった二隻の【掃海管制艇】は元日の朝日を身体いっぱいに浴びながら、しみじみと嘆息する。多くを望むのはあまりよくないだろうが、たまには思うのだ。鉄の船ほど生きられたならばと。

「あれ? のと、散歩?」

「おはよ、ながちゃん」

今年の冬は暖かいというのに制服ではなくコートを着込んだ能仁が岸壁に入ってくる。機関を止めると寒いのだと、春に除籍を控えた艦艇が口癖のように言っている。

「FFMってさ、どんな顔してるんだろうな」

「さあ? ちょっとのっぺりしてるとは聞いたけど」

なんとなくどうでもいい雑談をしながら、自分の本体の尻を眺める。ほどなくして呉の港にいつものラッパが鳴り響く。艇の舳先と艦尾に旗が上がる。この日常を置いていくのは少し惜しいような気がした。

「あ、そういえば、あけましておめでとう」

「あけましておめでとう。あとちょっとよろしく」

「こちらこそ」

「ながちゃん」

「なに?」

「ポストの新聞、ちゃんと取り込みなよ。二日分」

「……はい」


 道の果ての始まりに。


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