第11話 今後の間宮家の行方
俺の家を出発してからは何処に向かう訳でもなく、黒絛さんの運転でひたすら都内中をぐるぐるとドライブしていた。
「……あの華恋さん、目的地は?」
「目的地なんてものは存在しないわ。でも、そうね。あえて言うなら天国かしら。一度は訪れてみたい場所よね」
「それだともう死んじゃってるじゃん。しかも「一度は」って言ったけど人生一度きりなんだから天国には一回しか行けないと思うよ」
「私は滅びないわ、何度でも蘇る。そして幾度も天国へと旅立つのよ」
ラピュタのム〇カみたいな台詞を言いながら華恋さんは決まったと言わんばかりにドヤ顔をしていた。華恋さんってラピュタ好きなんだね。今度一緒に見ようかな。
「でも、死ぬのはだめだよ。華恋さんが死んだら悲しむ人がいるんだから」
「それは分かっているわ。それでも私は天国に行ってみたいの」
「どうして?」
「可愛い天使に会ってみたいのよ」
華恋さんは両手を胸の前で組んで天井を見上げる。どうやら華恋さんは意外とピュアな性格らしい。
「その天使に会えるといいね」
「ええ、当然よ。それが私の夢だもの」
随分と小さくて可愛い夢をお持ちだが、死なないと達成されないところが難点だな。
「そろそろ、本題に入って貰ってもいいかな?さっき言っていた俺の親父を華恋さんのところで働かせて貰うっていうのは一体どういうこと?」
「言った通りよ。お父さんに頼んで就職させてあげるわ。後はそうね。一回あなた達、親子を引き離してみようとも考えているの」
「どうやって?そんなこと出来るの?」
「可能よ。確か寮制の会社が一つあったはずなの。そこに就職させて貰えばだけのいい話よ」
それなら納得はいくが、わざわざ俺達を引き離すことに一体何の意味があるのか分からない。
親父が普通に働いてお金が入れば家族三人で生活することは十分に可能だ。
「俺は別に離れてまで生活するは必要はないと思うんだけど」
「間宮くんは良いかもしれないけど、問題はお父さんの方にあるわ」
「親父に?」
「そうよ。お父さんは家族のありがたみを分かっていないようだから、それを一度分からせてあげるのが私は一番だと思うのよ。そうすれば間宮くん達はまた平和に暮らせるようになるわ」
「確かにそれは出来たら最高だよ。でも、そんな簡単に上手くはいかないと思うんだけどな」
まずあの親父が昔のようにちゃんと働いてくれるのかどうかが心配である。そのうえで俺達の存在を再認識させるなんて無茶だ。
とてもじゃないが今の間宮一家にとっては夢物語な話過ぎるだろう。
「まあ、やってみないことには分からないでしょ。考えているだけでは前には進まないわ、何事も行動を起こしてからが肝心なのよ。間宮くんが今の生活で満足しているなら私はこれ以上は口は出さないつもりよ。ただし、間宮くんがもっと充実した生活を送りたいのであれば私はいくらでも支援するわ」
「華恋さんの言い分は分かった。でも、華恋さんはどうして俺にそこまでしてくれるの?華恋さんがそこまでしたところで何の得もないはずだよ?」
「良い、間宮くん?これは得が有る無いの話ではないのよ。私は全ての状況を把握した上で提案しているの。これ以上、間宮くんの身体に負担が掛からないようにするために」
「……いや、でも……」
「私は自分の命は軽々しく投げ捨ててしまう人間だけど、幸せになりたいと考える人のためならなんでもするわ。言っていること、やっていることは矛盾しているかもしれない。だけど、
華恋さんは俺に近づき、両手をそっと握る。「私に任せて」と華恋さんの手から俺の心に直接伝わってくるような感じがした程。それくらいに華恋さんの手には信念があるのだろう。
「そこまで言われたら俺も諦めたくないよ。話続けよう」
「そうでないと困るわ。それじゃあ、これからのプランについて大まかに話をしていくわね。まずはお父さんの就職先の確保。次に間宮くん達、兄妹の住む家の提供。最後にお母さんの病院の移動、以上よ」
「待て待て、一つ目は分かるが二つ目と三つ目に関しては何なんだよ。俺達はあそこに住んでて問題無いし、母さんだってあの病院で十分だろ?」
「大変恐縮なのだけれど、私としてはやっぱりもっと綺麗なところに住んでいて欲しいわ。流石に間宮くんがあのアパートにいると考えると鳥肌が立ってしまいそうよ」
最初と言っていることが全然違うじゃねぇかよ。言葉選んで話をしてはいるが、要は俺自体も汚いって言いたいんだろ。まあ俺は間違っても口には出さないけどな。
「……華恋さんがそういうなら引っ越すしかないか」
「決まりね。お父さんの給料に見合った部屋を準備するわ」
「親父の給料って……家賃の支払いを親父にやらせるのかよ」
「親なんだから当たり前でしょ?」
「それはそうだけどさ……」
今まで俺が払っていた分、何だか不思議な気持ちだ。それに住んでもいない親父に払わせるのも申し訳ない感じがする。
「そんな申し訳なさそうな顔しないで頂戴。親なんだから当たり前よ、今まで間宮くんの給料で払っていたこと自体がおかしな話なんだから」
「そ、そっか」
華恋さんに上手くまるめ込まれた俺は納得してしまう。
「お母さんついてはもっと良い病院があるわ。都内ではないけど私のお父さんの親友が経営している病院の方が設備はもっと充実していると、この前行った時に思ったの」
「でも、それだと中々会いに行けなくなるんじゃないのか?」
「心配しないで。うちの持っているヘリかジェット機ですぐ着くわ」
「……………」
やっぱり金持ちってスゲーな。俺は口を開けたまま半笑いした。
「話はこんなところかしら?何か質問はある?」
「異次元的な話過ぎて質問なんて逆にないよ……」
「そう?簡単な話だと思うのだけど、やっぱり間宮くんはお馬鹿さんね」
馬鹿とか関係ないだろ。普通、こんな話を絶対にしないから理解が追い付いていないだけだ。
「それで今日中に話するのか?」
「勿論よ。ある程度の方向性が決まったら改めて連絡するわね」
「分かったよ」
多分、その前に社長の方から直々に俺に電話が掛かってくるだろう。
話が終わり、華恋さんは座席にあったスイッチを押した。
「黒條~?間宮くんとの話が終わったからそろそろ例の場所に向かって頂戴〜」
「了解致しました」
どうやら今華恋さんが押したのは後部座席から運転席へと声を伝えるスイッチみたいだ。
「華恋さん、例の場所って?」
「それは着いてからのお楽しみよ」
華恋さんは唇に人差し指を当ててウインクをした。
一体これから何処に連れて行かれるのだろう。日も落ちて、時刻は7時になるところだ。
「お嬢様、颯真様、到着致しました」
「やっぱりここは遠いわね~」
「遠いで済むかよ!もう9時過ぎてるんだぞ!?」
約二時間で着いたのは埼玉県の郊外。こんなところに一体何があるのだろうか。
「そんなに怒らないでよ。良い物見せてあげるからさ」
「だからなんだよ、その良い物って?」
「だから、それは着いてからのお楽しみって言ったでしょ?」
俺達は車を降りて目的の場所へと向かう。
そして、歩いてすぐに目の前に現れたのは大きな一軒家だった。
「……華恋さん、これは?」
「これは私の家よ」
華恋さんの発言に大量のクエスチョンマークが俺の頭の中を駆け巡る。
「ちょっと、待って。何言ってるか分からない」
「これは私の家なのよ」
「同じ事繰り返したって意味無いから。東京に家あるじゃん。どういうこと?」
「私が将来、結婚して住む家なのよ。高校に入ってすぐにお父さんが建ててくれたの」
もうこれ以上は無理だと思い、俺は理解することを諦めて一つだけ質問することにした。
「それをどうして俺に見せたの?」
「……結婚して住む家って言っているんだから少しは察しなさいよ」
「……え?あ、そういう……ことなの?」
「それ以外に何があるのよ。結婚したいと思う相手に見せるのが常識でしょ。考えなくてもそれくらいのこと分かるようになってよ……本当に間宮くんはお馬鹿さんなんだから……」
顔を赤くした華恋さんはそう言い残して一足先に車へと戻って行く。
一方の俺はその場で呆然と立ち尽くしたままの状態だった。
* *
帰宅後に社長から連絡が来て「華恋の頼みなら」と全ての条件を飲んでくれた。こうして俺達、間宮一家は新たな一歩を踏み出す。
俺の監視としての役割はこれで終わりかと思ったが、社長から「続けて欲しい」と頼まれた俺は華恋さんの監視役を続けることになった。
物語は一旦ここで幕を下ろすが、一つだけ約束をして終わりにしたいと思う。
『俺、間宮颯真は九条華恋の自殺を止めるために高校生活の全てを捧げる』
〔おわり〕
自殺願望のあるお嬢様の監視役を任された俺は間違って「恋人になってくれ!」と言ってしまった。 倉之輔 @Kuranosuke3939
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