第5話 監視役はお嬢様を再び助ける
「間宮くん、私喉が渇いたわ。コンビニで何か飲み物買ってきて」
「はいはい、何がいいの?」
病院を出て即解散の予定のはずだった。しかし、俺は華恋さんに「家まで送りなさい」と言われて仕方なく一緒に帰っている。
お嬢様を一人で帰らすのも何かと問題はあったなと後々気付いたので、この時一緒に帰って正解ではあった。
「そうね。トロピカルフルーツジュースが良いわね」
「そんな南国でしか売ってないわ!」
「あら、そうなの。じゃあアメリカ産のコーラで良いわよ」
「コンビニにアメリカ産のコーラが売っているわけないだろ!普通に国内産のコ〇・コーラしか置いてないわ!」
「じゃあ、妥協して国内で良いわよ。早く買ってきて。喉乾いて干からびそうよ」
俺は「はぁ」とため息をつきコンビニに入った。
全く、これだからお嬢様は困るんだ。一般的に考えてそんな産地限定みたいな商品が日本のコンビニ置いてあるわけがないだろ。一体毎日何飲んで生活してるんだよ。
「コーラか。ゼロカロリーか普通のか。あの大食いお嬢様にはカロリーは関係ないか」
俺は失礼なことを言いつつも、会計を済ませて華恋さんの元へと戻る。
しかし、そこに華恋さんの姿はなかった。先程とまで一緒にいたベンチには誰も座っていなかったのだ。
「……は?どういうことだよ?」
俺は急いで華恋さんを探し回る。こんなことなら連絡先を聞いておくべきだった。勝手に一人で何処かに行くなんて本当に何を考えているんだ。
何か事件に巻き込まれていないことを俺は願うしかなかった。
「すみません!クリーム色の長い髪をした綺麗な人見ませんでしたか!?」
俺は向こうから歩いてきたお婆さんに声をかけた。
「ああ、それならさっき私とすれ違ったかもねぇ。なんか凄い能面みたいな顔してたわよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「多分そんなに先には行ってないと思うかしらね。何しろあの感じだと急いだ方が良いかもね」
俺は再び走り出した。お婆さんの話が本当なら華恋さんの状態は一刻の猶予もない。
「……み、見つけた」
華恋さんは歩道橋の上にいた。俺は急いで華恋さんの元へと向かう。
「華恋さん!勝手にいなくなったらダメじゃないか!」
「………」
「コーラ買ってきたから早く受け取ってよ。てか、走り回った俺の方が喉カラカラなんだけどさ。このコーラ飲んでもいい?」
「………」
「ちょっと華恋さん!?聞いてるの!?」
「………」
俺の方を見た華恋さんの顔には生気がなかった。さっき聞いた通りまるで能面みたいだ。
この短時間で一体何があったんだ。
「……か、華恋さん?」
「………」
「黙ってないで何か答えてよ!」
「………」
俺の言葉に全く反応しない。目には何か闇を感じさせるようなオーラが漂っていた。
「華恋さん!暗くなるし、もう帰るよ!」
「………」
俺が近づこうとした時、華恋さんは無言のまま橋の
「華恋さん何考えてるんだ!早くその足を下ろして!」
「………」
ダメだ、華恋さんには俺の言葉は届いていない。
今は帰宅時間で交通量も多い。このままでは飛び降りて辛うじて命が助かったとしても車に撥ねられて死んでまう。
「それ以上はだめだ!華恋さん!返事をして!」
「………」
「くそっ!」
俺は華恋さんの身体に飛びついて手摺の上から押し倒す。多少たりとも乱暴ではあるがこれしか方法がなかった。
「……あれ?私どうしてこんなところに?」
「華恋さん!良かった!大丈夫!?」
頭を強く打った衝撃のせいなのか、いつもの華恋さんに戻っていた。
「大丈夫って何が大丈夫なのかしら?」
「華恋さん、今ここで飛び降りようとしてたんだよ!?覚えてないの?」
「……ごめんなさい。記憶にないの」
華恋さんの顔を見る限り、どうやら嘘をついている感じではなさそうだ。
「覚えていないって一体どういうこと?俺が話しかけても全く反応しなかったし何か理由があるの?」
「……」
「華恋さん」
「……わ、分かったわ。これに関してはきっちりと説明させて頂くわよ」
「うん、そうして貰えると助かるよ」
華恋さんは渋々だが、話をしてくれることを承諾した。俺としても説明して貰わないと困る。これから先も勝手にいなくなられて探し回るのは苦労するからだ。
「実は私にはね、自殺への欲望が高まると感情が全て抜け落ちる悪い癖があるの。きっと間宮くんが見たのはそれよ。原因は多分だけど高い所とかそういう危険な場所を目視することだと思うの」
「……なにそれ」
俺は華恋さんが何を言ってるのか理解出来ずに口を開いたまま唖然として何回か瞬きをする。
「まあ、当然の反応よね。私自身もよく分かっていないの」
「制御は出来ないの?」
「不可能ね。私はこの事を秘密にして今まで生活してきたの。一人では危ないからいつも車での登校、そして出来る限り外出は禁止。中々辛い人生だったわ」
「……そうだったんだね」
「今日が半年ぶり位の学校以外の遠出だったんだけど、やっぱり私には無理みたいね。大人しく家にいるのが私にはお似合いみたいね」
華恋さんの目には涙が浮かんでいた。
「華恋さん、そんな事ないよ」
「……どうして。もし今日みたいな事が起これば私はまた間宮くんに迷惑をかけてしまう。そんなの嫌よ」
「迷惑、大いに結構だよ。そのために俺がいるんじゃないか、華恋さん。そんなに泣くくらい辛いなら俺も一緒に背負わせてよ。俺は華恋さんの彼氏だよ?」
「……で、でも」
俺は華恋さんの頬を両手で押さえ顔を近づける。
「俺が良いって言っているんだから良いんだよ!華恋さんが楽しく街を歩けるように俺が離れないでずっと傍にいてあげればいい話でしょ?難しく考えないで、簡単なことだよ」
「どうして間宮くんは私に対してそんなに優しくするの?」
「うーん、そうだね。華恋さんのことが好き……だからかな」
そう言うと華恋さんは俺の手を払い除けて顔を隠した。
「……間宮くんって私のこと好きなの?」
「好きだよ」
「……それは友達として?」
「ううん。女性として、彼女としてだよ」
華恋さんは黙り込んでしまった。見れば分かる通り、恥ずかしくて顔を見せれないのだろう。
「よ、よくもまあ、そんな言葉恥ずかしげもなく言えるわね!間宮くんも大したものね」
「だって好きなのは事実だしさ。素直に言ってあげた方がいいでしょ?」
「……だからって安直過ぎるわよ」
「ちなみに華恋さんは俺のこと好き?」
「……えっ!?」
不意を付かれた華恋さんは動揺を隠せないでいた。表情筋が引き攣り変な汗をかいている。
「ねぇねぇ、どうなの?」
「……」
「はーやーく!どっちなの?」
華恋さんは下を向き唇を噛み締めて自分の精神と闘っていた。
そして、華恋さんは遂に決断をする。
「……きよ」
「聞こえないよ」
「……す……きよ」
「もうひと声!」
「だから、好きだってば!好きよ!好き!何回も言わせないでくれるかしら!」
華恋さんは自分の精神に打ち勝って俺に好きと言った。勿論、顔は見事に真っ赤である。
「何回もって今自分の意思で三回も言ったじゃん。そんなに俺のこと好きなの?」
「え、ええ!好きよ!大好きに決まってるじゃないの!」
段々やけくそになってきているけど大丈夫かな。後々後悔しなければいいけど。
「華恋さん、そろそろ帰ろうか?」
「帰るわよ!もう一刻も早く家に入りたい!そのためにも早く私の上から退いてくれるかしら?」
「……ん?あ、そういえばそうだったね。ごめんごめん」
俺は華恋さんを押し倒したままでずっと会話をしていたのだ。
俺は直ぐに華恋さんの上から起き上がり、お互い崩れた制服を整える。
「……間宮くん、今日はありがとう」
「こちらこそ、ありがとね」
最後の最後でハプニングはあったが、無事に華恋さんとの初デート(?)は終了した。
帰り際、今日の報告内容はどうしようかと考えるので頭の中はいっぱいだった。
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