第6話

数人の男女が青空の下で、バレーボールに興じていた。百年ほど前の写真集に、載っていたのを見た記憶があった。元号は昭和、と書いてあったはずだ。その隣では、テニスではないか。白い襟の服を着た男女が楽しんでいた。その横に行くと、乗馬をやっている。のんびりしたもんだ。〈こんな無駄な時間、どこが楽しいんだ〉そう瞬間的に思った博だったが、ぼんやり見ていると気持ちの中に、しらずしらずゆとりが生まれているのを感じた。なぜかホッとしているのである。〈おかしい。俺は調査に来ているのに、何だ、この酒でも飲んだような、ゆったりとした心持ちは……。麻薬のような、不思議な物質が漂ってでもいるのか……〉ふとそんなことを思って、慌てて現実に目を戻した。そして、そこらじゅうの人たちをよく観察した。するとどの人も、先ほどの麦わらのおじさんと同じ皮膚をしていた。明らかに高齢者なのだ。〈一体全体どうなっているんだ〉大いなる猜疑心をもって、その隣に視線を向けた。そこには、陶芸教室、釣り堀、社交ダンス、卓球場などの看板があった。中をのぞくと、やはり高齢者が生き生きと活動していた。

「お~い、西山君。聞こえるか~」

 突然、室長からの信号が入った。この地点はつながるのか。

「はい、室長。西山です。よく聞こえます」

 そう交信しながら、何度も切れたりつながったりした。室長に、GPSで場所を知らせ、つないだままにしておいた。そんな時、博はあることに気が付いた。人が移動するのに浮かんでいないのだ。しかも、自分が現在歩いている道は、昔写真で見た舗装と言う道路のようだ。車は、はるか遠くを行き来している。これまた、大昔のデザインで地面を走っている。〈これは、タイムスリップか?いや、途中まであいつらもいたし、ここにいる〉とバッグをたたいた。確かにあいつらをたたんだ後で一瞬変な体感を受けたが、あれは感覚から言えば磁気がいくつもの方向へ、強くずれた時の現象で、時空を移動しているのではない。一瞬考えて〈とりあえず、いったん元来た方へ戻ろう〉そう思った博だが、今いる土地に何となく郷愁の念を感じている自分に、さらに驚いた。

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