第3話

本部から富士の樹海付近までは、地下を通るアングライナーだと数分だが、その駅までが面倒くさい。ジェットスーツでひとっ飛びすることにした。樹海付近と言うことだったが、ナビで探していくと山梨の富士吉田付近だった。空から見ると、眼下に広がる青々とした森がある。

「あれだろ?少し広いと思うけど、かつての樹海だよね」

「そうですが、かつての樹海は……」

 やり取りの中で、ロボットが博の画面に映し出したのは、百年ほど前のかつての樹海の様子だった。それが変化を始めた数年前までスライドさせると、その顕著な拡大の様子が見て取れた。

「なるほど、目に見えて広がっているな」

 この時まで博は、森の物理的な広がり方しか頭にはなかった。

「とりあえず、近くに行って調べてみるか」

 二体に伝えると富士吉田市の、かつての市庁舎近くに降り立った。現在、歴史民俗資料館になっていた。だだっ広く取ってあったかつての駐車場も今や、車が折り畳み式コンパクトカーになったため、昔の駐輪場ほどに狭くなっていた。跡地には地域総合センターと呼ばれる店舗兼住宅兼行政機関兼遊技場等、言わば何でもありの建築物が建っていた。

 その前で室長に連絡すると、そこの調査は、『一筋縄ではいかないぞ』と言うことだった。その脅しのような言葉には慣れているものの、実際今回は『国の機関の手に負えない環境問題』と言うことで依頼が来ている。軽く返事したものの、二体のロボットの変化を認識した時、多少の不安を感じずにはいられなかった。ロボットは、弱い電磁力の影響を受けていることを示す、不定期な目の光りを放っていた。声をかけてみると、影響を受けていながらも正常な反応を見せ、機械特有のいじらしさを感じさせた。

 何はともあれ地図に従って進んでみた。二体の反応は収まってきた。そして、歩くこと十数分。例の森が見えてきた。もう木の葉一枚まで目視できる距離だ。ここで室長から、これまでに国から来たデータを流してもらうと『エックス線透視不可。МRI透視不可。空中からの透視もすべて不可』となっていた。こうなると、もうEОD(電気生物検知装置)と呼ばれる方法しかない。

「おい、分析機能はまだいけるか?」

 二体に声をかけると、電磁波の検知を始めた。

「ここら辺はあまりありませんが、森の奥に行くに従って強くなっています」

「でも、あまり見かけない周波数です」

 さすがにわが団体の誇るロボットだ。先の先までデータを分析した。

「高齢者がいなくなると言うのはどこら辺なのだろう」

 地図をスキャンして高齢者の足取りを追ってみると、ある点が絞られてきた。早速その点に行ってみることにした。歩いていくと、途中から二体の様子がおかしくなってきた。歩き方が博の酔っぱらった時と同じで、いわゆる【千鳥足】である。

「おい。大丈夫か。足元が怪しいぞ」

 声をかけると、返事はしっかりしているが、足元と目つきがおかしくなっていた。顔を見て声をかけると、さらに笑っていた。おかしな笑いではなく嬉しそうに微笑んでいるのだ。ここで室長の言った脆弱な点がさらされてしまった。

「おいおい……。しっかりしてくれよ」

 話しながら来たので、いつの間にか森が深くなってきている。うっそうとしていて、日差しも弱い。地図を見てみると画面が見えなくなっていた。『これが磁石がきかないという現象だ』そこで博は用意してきたEОDを照射した。これは、標準的なwI‐FIの千分の一という超低消費電力の電波信号を放ち、目の前にある壁を通り抜けさせる。そしてその先にある物体を検知し、跳ね返って受信する。その様態をAIで分析し何かを判断する機器だった。ディスプレイには、驚くなかれ人の影が写し出されていた。動きも人そのものだった。ますます、何かがある予感がする。博は、ヘロヘロの二体をディスプレイにあった時のように、二枚の紙きれに戻した。それを自分のバッグに入れ、森の中へと歩を進めた。

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