第2話

博は、うなずきながら椅子の横にあるボタンを押した。するとスーッと浮き上がった椅子は、上部の開いたドームの外へ出た。そこには、車がホバリングのように空中に静止しており、その車体の中へ吸い込まれるように消えた。

 これから通勤するのだが、一般的に在宅ワークだが、博の所属する自然調整団体は、稀に外出することがあるので時々出勤する。今日は、その外出の命令をされての出勤だった。

 あちこちを人がジェットスーツで飛び回り、車はぶつからないとはいえ上下左右から往来しているこの時代だが、市街の片隅にかろうじて自然環境は残されている。これ以上減らさないため、自然の見守りをしてほしいと言う国からの要請に、団体は仕方なく対応するだけだった。自分たちの仕事で、人間に最適な自然環境は調整できている。数百年生きている地球本来の植物だから守れと言われても、博はその意義がつかめずにいた。

「おはようございます」

 席に着いてすぐに隣に来たのは後輩の、矢部だった。壁から出たティーカップの紅茶を口にしながら、

「先輩、知っていますか」

「高齢者か?」

 博は眉をひそめた。

「何があるんでしょうね?」

 矢部は、眉間にしわを寄せ一呼吸置くと、自分のニュースの自然環境のページを開き、博のチャンネルをそのニュースに合わせた。博の視界に広がったのは、緑の広大な森だった。以前のマスコミがよく例えていた『○○ドーム〇個分』と言う例え方をすれば、約五個分は勇にあるだろう。

「どこなんだ、いったい!」

「富士の樹海の近くですよ。例の……」

 樹海と言えばかつては全国的に有名だったが、今でも名前だけは観光名所として残っていた。

「これだけかつての自然がなくなっているというのに、樹海だけは広がっているんだよ」

 後ろで、中央の大画面を見つめながら、いつの間に来たのか、室長はため息をついた。

「いよいよ我々の出番だ。例の蒸発との関連調査を国が依頼してきた」

 室長の視線は、ディスプレイから博に向けられていた。同時に、部屋の後方に配置されたディスプレイの、一つを指さした。すると、画面にあった紙の切り抜きのような人型が、空中に浮かぶとさっと伸びて、スーツを着た二体のロボットになった。

「じゃ、頼むよ西山君。二体の部下は優秀だが、それゆえ脆弱なところもある。相互でカバーしながら、よろしく」

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