スライム・プール・ラン

夏川冬道

第1話

スライム・プール・ラン

――某国、某研究所。

 そこでは恐るべき冒涜的な研究が人知れず行われていた!

「グフフ……ワシの最高傑作の完成じゃ! あぁ、こいつが世界を震撼させる日が楽しみじゃわい」

 狂えるマッドサイエンティストは自ら最高傑作と豪語する研究成果を愛おしげに眺めていた。それは一見、プールに入った液体だが不気味にゴボゴボと音を立てていた。

「ほう、これがウワサの研究成果ですか……信濃橋博士」

 いつの間にかスーツ姿の男が狂えるマッドサイエンティスト、信濃橋博士の後ろに立っていた。全く気配を感じさせない佇まいはどこかの国のエージェントを連想させた。

「誰かと思えばジョンストン君ではないか……見ての通り素晴らしい大量破壊生物兵器が完成したわい!」

 信濃橋博士は満面の笑みでジョンストンを出迎えた。その瞳は紛れもなく狂っていた。

「この液状生命体……俗に言うスライムは周囲にある生命体を取り込み無限に成長するという死体と物的証拠が存在しなければ行方不明として扱われる法律上の盲点をついた設計になっておる! しかも環境にも優しい」

「なるほど……イタリアンマフィアは殺した死体の処理場としてしばし養豚場を利用していると聞き及んでいますがそれのスライムバージョンですか……信濃橋博士の豊かな発想力を感じさせる作品だ」

 ジョンストンは信濃橋博士の長口上に素直に感心した。

「これ以上スライムについて説明するより実際にジョンストンくんの目で見て確かめたほうがこのスライムの凄さがわかるじゃろ……おい、愛しの最高傑作に餌を投下せよ!」

 信濃橋博士は部下に命令してスライムの凄さを見せつけるためにどこかから拉致してきた奴隷人間を放つように命じた。すぐさま奴隷人間がプール近くに配置される。

「ジョンストンくん、刮目したまえ……素晴らしきショウタイムを!」

 いよいよ信濃橋博士の瞳は狂気に爛々と輝いていた。自身が製作した最高傑作の捕食光景を披露できる喜びは計り知れないのだ。

 嗚呼! 今まさに、プールからスライムがしめやかに這い出ようとしている!この世に血も涙も存在しないのか!

 その時! 研究所の電球が唐突に落下した! 電球はスライムプールに落下、程なくスライムに取り込まれ消化されていった! しかし、スライムの様子がどこかおかしい!

「ムッ! ワシの最高傑作の様子がおかしい! さては変なものでも食べたか!」

 信濃橋博士が訝しげな視線をスライムに向けた次の瞬間! スライムが突如として膨脹! あっという間に研究所にいた全ての人間を取り込み研究所は崩壊した! 生物兵器の暴走だ!信濃橋博士には倫理観が全く存在しないので超巨大スライムにリミッターはついていない!研究所にいた人間をすべて平らげた超巨大スライムは生物的直感で首都に向けて進撃を開始した! これは大変なことになったぞ!


◆◆◆◆◆


「ウワーッ!スライムだーッ!」

「スライムが自動車を捕食している! コワイ!」

「アイエエエ!スライムナンデ!?」

 突如出現したスライムの進撃に恐怖におののく一般市民! 恐怖のスライム型大量破壊兵器の進撃に一般市民には逃げ惑うしか行動が許されない!もはや終末の様相すら見えてきた!

「クソっ、撃ったそばからスライムが弾丸を吸収して成長してしまう! なんてスライムなんだ!」

「こんな化け物、どうやって止めればいいんだよ!」

「ああっ! アイザワがやられたっ!」

 超巨大スライムの侵攻から罪のない一般市民を守らんとする警察も恐るべきスライムの猛威には防戦一方であった!むしろ壊滅しかけている! これが信濃橋博士の恐怖の技術力の成果なのか!


「防相! 警察ではスライムが止まりません!このままでは首都がスライムに飲み込まれてしまいます!ご決断を!」

 官僚が泣き顔で超巨大スライムの侵攻を報告した!防相もあまりにも甚大な被害状況に涙目だ!

「そうはいっても銃弾を捕食して成長するような化け物に戦車を投入しても焼け石に水ではないかね!」

 防相は震え声で絶望的な見解を示す。 スライムに捕食されて終わるぐらいなら内閣総切腹したほうがマシな死に方だ!防相の脳裏に危険な考えがよぎるほどの絶望がそこにあった!ああ誰でもいいから助けてくれ!


「おい!防衛相! 困っているようだな!」

「誰だ! ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」

 突如現れた第三者の声に困惑する防衛相と官僚! そこにはコロ〇コロホビー漫画の主人公っぽい少年とその腰ぎんちゃくの姿があった!

「オレの名前はブードゥ崎ゴロリ!発明家だ!こっちは助手のケヒャ山ケヒャ太郎」

「ブードゥ崎……ゴロリ!? お前のような少年が科学者なはずはない! それに警備はいったい何をやっているんだ!」

 防衛相は至極当然のことを指摘した!

「警備員には少しばかり眠ってもらったでヤンス……モンドセレクション認定の天才発明家ブードゥ崎ゴロリくんを知らないとはとんだモグリのようでヤンスね」

「くっ、そこはかとなくバカにされた様な気分だ!」

 ケヒャ太郎の説明に平伏する防衛相!

「まぁ、オレのことなどどうでもいい……オレの発明なら超巨大スライムを無力化することができる! その意味がわかるか防衛相ヤロー!」

「お前があの超巨大スライムをなんとかできるというのか!? 自動車を捕食して吸収するような化け物をだぞ!」

「ゴロリくんは天才発明家でヤンス……ゴロリくんを信じるでヤンス」

 ゴロリとケヒャ太郎からとてつもない威圧感がオーラとして噴出した!防衛相は失禁した!

「つべこべ言わずにオレに任せろ!わかったか、この閣僚!」

「わかった! お前らに超巨大スライムの処理を任せる! もう、私は知らんぞ!」

「まったく……政治家は頭がかたくて困るぜ。防衛相! あとはオレに任せろ!」

 そう言ってゴロリとケヒャ太郎は防衛省を去っていった。そして、防衛相は安堵のあまり再び失禁した。


◆◆◆◆◆


 さて、超巨大スライムは警察の必死の抵抗もむなしく次々と警戒線を突破し、もう少し首都圏だというところにまで到達していた。必死で応戦する警官の顔は疲労困憊を隠せず手詰まり感があった。

「ゴロリくん……もう超巨大スライムがこんなとこまで来てるヤンス」

「あぁ……この先にオレが発明した罠があるとも知らずにな!」

 ゴロリとケヒャ太郎は高笑いした!


 必死の応戦も虚しく、警官たちが超巨大スライムに取り込まれることによって突破された警戒線を後ろに悠然と超巨大スライムは首都に進撃していた。もはや誰も超巨大スライムの進撃を止められない。誰もが絶望したその矢先にそれは突如として現われた。そう、巨大なところてん突きだ。これが天才発明少年、ブードゥ崎ゴロリが仕掛けた罠なのか!?

 超巨大スライムがどのような思考をしたのかは定かではないが、超巨大スライムは全く気に留めず進撃を続けた。巨大ところてん突きなど敵などではないとでも言いたいだろうか。しかし、巨大ところてん突きを取り込もうとした時、吸い込まれるように巨大ところてん突きの中に取り込まれていった!

 見よ! 巨大ところてん突きの出口を!超巨大スライムがところてん状態で出てきたではないか!こうなってしまえば進撃速度が非常にゆっくりになったではないか!

「見事に罠にかかったようでヤンス!」

 ケヒャ太郎はゴロリの作った罠が完全に機能したことに喜びを隠せない!

「超巨大スライム! これで終わりだ! あの世でおネンネしやがれ!」

 ゴロリはそう叫ぶとスーパーオートマチック黄金律回転リボルバーを超巨大スライムに向けて発射した! ブードゥ崎ゴロリは天才なので黄金律を完全に理解している!それ故にその銃弾は超巨大スライムの取り込みを貫通扉し、超巨大スライムのコアを貫いた! コアを穿かれた超巨大スライムは静かに崩れ落ちた!

「科学の勝利だ!」

「さすがはゴロリくんでヤンス!」

 ゴロリとケヒャ太郎は歓喜のハグをする!こうして超巨大スライムは葬られたのだ!


 科学は一つ扱いを間違えれば大惨事になりかれないデリケートな代物だ!それ故に信濃橋博士のようなマッドサイエンティストが現れるのだ! しかし同時にブードゥ崎ゴロリのような正義漢の科学者も存在する! 戰え! ブードゥ崎ゴロリ!

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スライム・プール・ラン 夏川冬道 @orangesodafloat

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